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一年生・秋の章

お楽しみキャンディ “入れ替わり味“①

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 ある日の午後、紅葉を頭にくっつけて帰ってきたフィンは、「ただいまー」と柔らかく声を上げる。
 リヒトは執務室から素早く出てくると、長い銀色の髪を靡かせながらフィンに抱き付いた。


「おかえり、可愛い可愛いフィン」


 リヒトはフィンの髪に紅葉が入り込んでいる事に気付く、それをヒョイッと摘み空中で燃やす。


「紅葉が頭にくっついてた」

「あ、さっき紅葉の山を見かけたから思わず飛び込んじゃった」
 
「なぜそんなことを……?」

「孤児院にいた時に、そういう遊びをしてて……つい」

 
 フィンが照れ笑いを浮かべると、リヒトもつられて笑みを浮かべる。


「ノスタルジアに近い感情かな、無邪気な子だ。さ、着替えておいで。俺はもうすぐ仕事終わるから」

「はーい」


 フィンは自室に戻り着替えをしていると、お楽しみキャンディの袋が目に入る。
 セオドアやルイにもお裾分けしたが、中身はまだ残っていたことを思い出し、着替え終えると袋を覗き込んだ。


「そういえば、リヒトはキャンディ食べてないよね?僕ばかり楽しんでしまった……。リヒトだってきっと食べたいはず!」


 フィンはハッとした表情を浮かべ、リヒトに食べさせなければと慌ててキャンディを漁る。


「……あれ?」


 フィンは二粒のキャンディを取り出すと、全く同じ柄なことに気付き首を傾げる。


「同じ味が二つ入ってるのかな?リヒトと一緒に食べよう!」


 フィンはパァッと明るい表情を浮かべてリヒトの元へ走った。ちょうど執務室から出てきたリヒトは、走ってくるフィンを受け止めるべく両手を広げる。
 フィンは迷いなくリヒトに飛び込むと、リヒトはふわっと抱きしめて小さく笑みを見せた。


「走るほど俺に大事な用事があった?」

「うん」

「聞かせてごらん」


 リヒトはフィンの小さく形のいい鼻をちょんちょんと指で撫で、首を傾げる。
 フィンは笑顔で二粒のお楽しみキャンディをリヒトに見せた。


「これ、同じ柄なの」


 青色と白色で真っ二つに色が分かれており、金色の粉が所々ふりかかったキャンディを見たリヒトは、珍しそうにそれを眺めた。


「同じ味みたいだね。一緒に食べようか」


 リヒトは、フィンは一緒に食べたがっている事を察して自ら進んで提案すると、フィンは嬉しそうに笑みを浮かべて頷く。


「うん!」

「はい、あーんして」


 二人はお互いの口にキャンディを放り込んで、同時に口を閉じ、無言で見つめ合いコロコロとキャンディを舐める。ラムネのような味が口に広がると思った瞬間、雷に打たれたような感覚に陥った二人は一瞬目を瞑った。



「……今のなにー!?」


 フィンが目を開けそう叫ぶと、目線が高くなっていることに気付き、おそるおそる下を向くとそこには自分が立っていたため、フィンはピタッと固まった。

 同じく、自分が着ていた王族特務の服が目に映ったリヒトは、スッと上を見て自分がいることに驚き目を見開く。


「僕リヒトになってるの……?」


 フィンはサラサラの長い銀髪を触って確認すると、扉の横にある姿鏡まで走り自分の姿を確認する。


「うわあー!きれいー!」


 リヒトの身体になったフィンは、興奮した表情で鏡を見続ける。見た目はリヒトでも中身はフィンのため、表情が緩く朗らかな雰囲気が醸し出されていた。


「入れ替わる味なんてあるのか……」


 リヒトも姿鏡を確認すると、愛しいフィンの姿になっている自分を見て思わず頬をむにむにと触る。
 中身がリヒトだからか、あまりころころと表情が変わらず雰囲気も落ち着いていた。


「……フィンにはフィンが入っているから可愛いのか」

「?」

 リヒトはフィンのように笑ってみるが、いつも自分が見ている笑顔にはならない。
 それを見たフィンも、にこーっと笑顔を浮かべて見せた。ふにゃっとした優しさの塊のような笑顔をするフィン。
 リヒトは驚きの表情を浮かべ、フィンの腕を掴む。


「た、頼む、俺の顔でそんな風に笑わないで……もっとこう真顔な感じで」


 リヒトはフィンの声帯でそう懇願すると、フィンは首を傾げる。その表情もまた、リヒトからすれば自分がしない表情のため何とも言えない気持ちになった。


「こう?」


 フィンは必死に真顔を作るも、顔に力が入ってしまい気合の入った表情になってしまった。フィンはリヒトの見たことのない表情を見たため、思わず吹き出して大口を開けて笑う。


「あはは!リヒトってこんな顔できるんだね!」


 普段そんな風に大口を開けることもないリヒトは、性格が違うだけでこんなにも表情に幅が変わるのかと頭を抱えた。
 フィンはリヒトになれて楽しいのか、ぴょんぴょん飛び跳ねたり髪の毛を揺らして靡かせ、目を輝かせる。


「……(フィンが楽しそうだ)」


 リヒトは苦笑しながらフィンを見上げる。
 自分じゃない自分を見る気持ちなんて、そうそう味わえないが、目の前で繰り広げられる豊かな表情の自分に、なんだか気恥ずかしい気持ちになり少し顔を赤らめた。



「うん!……リヒトの身体重いねー」


 身長差もあるため体重も違う。リヒトもそれを確かめるためにぴょんと飛び跳ねてみるが、こんなに軽いのかと目を見開いた。


「フィン、学校でもちゃんとご飯食べているの?」


 リヒトは心配した表情でフィンを見上げる。


「食べてるよー?みんな驚くぐらい」


 フィンがそう伝えると同時に、本邸からのお呼び出しのベルが鳴り響く。
 こんな時に、と顔を引き攣らせるリヒトは、フィンと暮らすようになってからよく鳴るようになったなと思いながら腕を組んで大きな溜息を吐く。


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