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一年生・夏の章

呪われた乙女④

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「(ハッキリとは見えないが、あの女は直近でフィンと紅茶を飲んでる、のか?)」



 ローザのブロンドが揺れるのを確認したが、砂嵐のようになっており顔が確認できない。フィンと何かを喋っているように聞こえるが、内容にもノイズがかかっているためうまく聞き取れなかった。

 しかし、フィンが狂ったように何かを言ったり、ローザと思わしき女性がフィンを押し倒したりしているところは辛うじて確認できたため、リヒトは眉を顰める。


「(フィンが半狂乱になっている?一体何があった?)」



 その日を境に、フィンへの態度がガラッと変わっていたのは確かだった。



「(これ以上はもたないな)」



 モリス家に関する記憶を探ると、まるで呼吸が出来なくなるかのように苦しくなるため、リヒトはアカシックレコードを解いて激しく咳き込んだ。


「リヒト?」


 フィンは心配した表情でリヒトの背中を撫でると、リヒトは大きく息を吸って吐いてを繰り返してフィンを見る。



「何かあったのは間違いないが、アカシックレコードでこれ以上探るのは難しいな」

「ローザさんがおかしくなっちゃったの、何か原因があるの?」

「……少し心当たりがある。しばらく調べるとしよう」



 リヒトは森の中で偶然ローザの髪に触れた時の、異質な魔力の感覚を思い出す。
 さらに、夢に出てきた女性がローザであると確信したリヒトは、パズルのピースがハマっていくように謎が解けていくと、怒りが混じった冷淡な表情を浮かべ遠くを見る。



「……(黒魔術特有の、特殊な魔力の気配。黒魔術はその不安定さと邪悪さで王国では禁書指定、使用を禁止している筈だが……)」



 リヒトは鋭い眼光を瞬時に抑えると、優しい眼差しでフィンを見た。



「フィン、おとりにするようで申し訳ないが、少し頼まれてくれるか。真実が分かったかもしれない」


「うん!(リヒトが僕にお願い事だー!)」



 フィンは嬉しそうに手を上げて大きく頷く。



「次のバイトの時に、ローザにあることをして欲しい」


 リヒトはフィンに対し、して欲しいこと述べると、フィンは一生懸命に頷いた。



「わかった……!」






------------------------------------




「フィンくん、今日はマカロンなの」


 バイトが終わり、休憩室でフィンの前にマカロンと紅茶を用意するローザ。
 フィンは困り顔でそれを眺めると、控えめにローザの方へ視線を送った。


「ねぇフィンくん。館長とはすごく仲がいいのよね」

「……はい」


 自白剤を飲まされた時の記憶が無いフィンは、ローザがリヒトとフィンの交際の事実を知っていると気付いていない。



「お付き合いされてるの?」


 ローザは知らないふりをしながらフィンに問いかけ、紅茶を優雅に飲みながら、隣に座るフィンの顔を覗き込む。


「っ……」



 フィンは答えることが出来ず目を泳がせるも、ローザは気にせず続けた。



「悪いことは言わないから、やめておきなさい」


 ローザは紅茶を置くと、にこりと笑みを浮かべながら言い放つ。


「っ!?」


 フィンは動揺した表情を浮かべ、こちらにジリジリと近づいてうっとりとした顔を浮かべたローザをただただ見つめた。



「館長の愛情は、貴方には毒よ。縛り付けて押さえて、異常なほど愛を押し付ける。キスマークもあんなにたくさん付けられちゃって。貴方は純粋で優しいから、全て受け止めているだけ。目を覚まして……私ならもっと優しくするわ」



 ローザは目を細め美しく妖艶な表情を浮かべながらフィンの顎をクイッと自分の方へ向かせた。


「なんでキスマークがたくさん付けられている事を知ってるんですか」


 キスマークのことを知られていることに焦ったフィンは、一瞬顔を赤らめ不思議そうにローザを見ながら問いかける。


「そっ、それは……」

「答えてください」

「……そ、その」

「僕は貴方と前に紅茶を飲んだ時、後半の記憶がありません。その時に何かしましたか?」


 リヒトがアカシックレコードで見たあの日の記憶をローザに投げかける。実はその時の記憶が抜けているのと、しばらく頭がぼーっとしていた事をリヒトに伝えると、リヒトは血相を変えていた。よくも知らない他人が淹れた飲み物を飲むのはやめろと怒られたことを思い出したフィンは、一人苦笑する。

 フィンに強気で問い詰められたローザは、狼狽えながら俯く。好きな相手に嫌われたくないとしどろもどろになっていた。



「正直に教えてくれたら、怒りませんし誰にも言いません、ローザさん」


 フィンは笑は見せないものの目を細め表情を柔らかくする。フィンの優しさを自白剤で知っていたローザは、それを信じて口を開いた。



「……じ、自白剤を使ったの。その時に、貴方が館長と付き合ってることも分かった。で、でも変な事はしてないわ!たしかに動けなくなった貴方の服を捲ってキスマークは見ちゃった」

「一体なんのために」


 フィンは禁止薬物である自白剤の使用を認めたローザに驚きつつも、理由を問いただそうとするとローザに両手を握られたため、目を見開く。


「あのね、私心配だったのフィンくん。自白剤を使った時、貴方途中で半狂乱になってた。まるで館長からの重たい愛情を、毒を吐き出すようにね。館長は貴方にすごく強烈な愛を囁いている。本当はそれが怖いんでしょう?」

「怖い……?」


 フィンは首を傾げ困った表情を浮かべる。


「僕は、そんなこと思ってません。ローザさんはなぜそこまで僕を?自白剤を使わなきゃいけなかった理由は?」

「それは……その」

「自白剤を飲まされたあの時間。自白剤が効く前の記憶があるんです。その時のローザさんは、リヒトの質問ばかりでした。とても僕に興味があるようには見えなかった」


 フィンはローザを真っ直ぐ見つめ、真相を探るように問いただす。


「……僕は真実を知りたいだけです。リヒトが言っていました。貴方から黒魔術の微かな香りがしたと。髪の毛に触れた時に、変な魔力を感じたと」

「っ……!(うそ、香り?魔力?そんなバレ方するなんて)」


 ローザは、多大な魔力を用いる黒魔術を使えはしたが所詮は初心者。
 王国では黒魔術の使用が認められておらず、書物も禁書指定。もちろん黒魔術を学ぶ機会も一切ないため、こういったリスクがあることは想像できていなかった。
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