82 / 318
一年生・夏の章
呪われた乙女④
しおりを挟む「(ハッキリとは見えないが、あの女は直近でフィンと紅茶を飲んでる、のか?)」
ローザのブロンドが揺れるのを確認したが、砂嵐のようになっており顔が確認できない。フィンと何かを喋っているように聞こえるが、内容にもノイズがかかっているためうまく聞き取れなかった。
しかし、フィンが狂ったように何かを言ったり、ローザと思わしき女性がフィンを押し倒したりしているところは辛うじて確認できたため、リヒトは眉を顰める。
「(フィンが半狂乱になっている?一体何があった?)」
その日を境に、フィンへの態度がガラッと変わっていたのは確かだった。
「(これ以上はもたないな)」
モリス家に関する記憶を探ると、まるで呼吸が出来なくなるかのように苦しくなるため、リヒトはアカシックレコードを解いて激しく咳き込んだ。
「リヒト?」
フィンは心配した表情でリヒトの背中を撫でると、リヒトは大きく息を吸って吐いてを繰り返してフィンを見る。
「何かあったのは間違いないが、アカシックレコードでこれ以上探るのは難しいな」
「ローザさんがおかしくなっちゃったの、何か原因があるの?」
「……少し心当たりがある。しばらく調べるとしよう」
リヒトは森の中で偶然ローザの髪に触れた時の、異質な魔力の感覚を思い出す。
さらに、夢に出てきた女性がローザであると確信したリヒトは、パズルのピースがハマっていくように謎が解けていくと、怒りが混じった冷淡な表情を浮かべ遠くを見る。
「……(黒魔術特有の、特殊な魔力の気配。黒魔術はその不安定さと邪悪さで王国では禁書指定、使用を禁止している筈だが……)」
リヒトは鋭い眼光を瞬時に抑えると、優しい眼差しでフィンを見た。
「フィン、おとりにするようで申し訳ないが、少し頼まれてくれるか。真実が分かったかもしれない」
「うん!(リヒトが僕にお願い事だー!)」
フィンは嬉しそうに手を上げて大きく頷く。
「次のバイトの時に、ローザにあることをして欲しい」
リヒトはフィンに対し、して欲しいこと述べると、フィンは一生懸命に頷いた。
「わかった……!」
------------------------------------
「フィンくん、今日はマカロンなの」
バイトが終わり、休憩室でフィンの前にマカロンと紅茶を用意するローザ。
フィンは困り顔でそれを眺めると、控えめにローザの方へ視線を送った。
「ねぇフィンくん。館長とはすごく仲がいいのよね」
「……はい」
自白剤を飲まされた時の記憶が無いフィンは、ローザがリヒトとフィンの交際の事実を知っていると気付いていない。
「お付き合いされてるの?」
ローザは知らないふりをしながらフィンに問いかけ、紅茶を優雅に飲みながら、隣に座るフィンの顔を覗き込む。
「っ……」
フィンは答えることが出来ず目を泳がせるも、ローザは気にせず続けた。
「悪いことは言わないから、やめておきなさい」
ローザは紅茶を置くと、にこりと笑みを浮かべながら言い放つ。
「っ!?」
フィンは動揺した表情を浮かべ、こちらにジリジリと近づいてうっとりとした顔を浮かべたローザをただただ見つめた。
「館長の愛情は、貴方には毒よ。縛り付けて押さえて、異常なほど愛を押し付ける。キスマークもあんなにたくさん付けられちゃって。貴方は純粋で優しいから、全て受け止めているだけ。目を覚まして……私ならもっと優しくするわ」
ローザは目を細め美しく妖艶な表情を浮かべながらフィンの顎をクイッと自分の方へ向かせた。
「なんでキスマークがたくさん付けられている事を知ってるんですか」
キスマークのことを知られていることに焦ったフィンは、一瞬顔を赤らめ不思議そうにローザを見ながら問いかける。
「そっ、それは……」
「答えてください」
「……そ、その」
「僕は貴方と前に紅茶を飲んだ時、後半の記憶がありません。その時に何かしましたか?」
リヒトがアカシックレコードで見たあの日の記憶をローザに投げかける。実はその時の記憶が抜けているのと、しばらく頭がぼーっとしていた事をリヒトに伝えると、リヒトは血相を変えていた。よくも知らない他人が淹れた飲み物を飲むのはやめろと怒られたことを思い出したフィンは、一人苦笑する。
フィンに強気で問い詰められたローザは、狼狽えながら俯く。好きな相手に嫌われたくないとしどろもどろになっていた。
「正直に教えてくれたら、怒りませんし誰にも言いません、ローザさん」
フィンは笑は見せないものの目を細め表情を柔らかくする。フィンの優しさを自白剤で知っていたローザは、それを信じて口を開いた。
「……じ、自白剤を使ったの。その時に、貴方が館長と付き合ってることも分かった。で、でも変な事はしてないわ!たしかに動けなくなった貴方の服を捲ってキスマークは見ちゃった」
「一体なんのために」
フィンは禁止薬物である自白剤の使用を認めたローザに驚きつつも、理由を問いただそうとするとローザに両手を握られたため、目を見開く。
「あのね、私心配だったのフィンくん。自白剤を使った時、貴方途中で半狂乱になってた。まるで館長からの重たい愛情を、毒を吐き出すようにね。館長は貴方にすごく強烈な愛を囁いている。本当はそれが怖いんでしょう?」
「怖い……?」
フィンは首を傾げ困った表情を浮かべる。
「僕は、そんなこと思ってません。ローザさんはなぜそこまで僕を?自白剤を使わなきゃいけなかった理由は?」
「それは……その」
「自白剤を飲まされたあの時間。自白剤が効く前の記憶があるんです。その時のローザさんは、リヒトの質問ばかりでした。とても僕に興味があるようには見えなかった」
フィンはローザを真っ直ぐ見つめ、真相を探るように問いただす。
「……僕は真実を知りたいだけです。リヒトが言っていました。貴方から黒魔術の微かな香りがしたと。髪の毛に触れた時に、変な魔力を感じたと」
「っ……!(うそ、香り?魔力?そんなバレ方するなんて)」
ローザは、多大な魔力を用いる黒魔術を使えはしたが所詮は初心者。
王国では黒魔術の使用が認められておらず、書物も禁書指定。もちろん黒魔術を学ぶ機会も一切ないため、こういったリスクがあることは想像できていなかった。
140
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる