81 / 318
一年生・夏の章
呪われた乙女③
しおりを挟む「(顔が真っ赤だ、可愛い)時期が来たら言うよフィン……君は永遠に俺のものだ。逃げても無駄だから、それだけは言っておく」
リヒトはフィンを見つめながら真顔でそう言い放つと、フィンは呼吸を忘れるほど緊張し顔をさらに赤らめ、涙目でリヒトを見つめ返す。
「っ……(え~!?リヒトが僕とけけけけ結婚を考えてたの……?)」
フィンは激しく動揺しながらステーキを切っているため、カタカタと震え音が鳴り響いていた。
「(やはり言うのは早かったな……つい口を滑らせた。フィンがすごく動揺している)」
リヒトはその様子を見て、落ち着かせようとその手に触れる。
「ひぁっ!!」
フィンはリヒトに触れられ、驚きの声を上げながらナイフとフォークを皿の上に落とす。
リヒトはぎゅうっとフィンの冷たい両手を包むように握ると、すりすりと撫でて落ち着かせようとした。
「フィン……落ち着いて。予想できなかった?俺は君を手放さないと決めているんだ、フィンもちゃんと覚悟してくれないと困る。一生、俺の側にいる覚悟を」
「……」
フィンは暫く手をぎゅっと握られリヒトに真面目に見つめられると、やがて小さく頷きながら伏し目がちにリヒトを見つめ返す。
「……すごくびっくりして、ごめんなさい」
「いいよ、俺が悪い。可愛い俺の恋人、命尽きても君を愛してる」
リヒトがチュッとフィンの手の甲に口付けをすると、そのタイミングでアネモネが現れる。
「お食事のところ申し訳ありません」
フィンはパッと手を離し慌てた表情を浮かべるが、リヒトは特に気にする事なくアネモネに振り返った。
「ご主人様宛に、”アンジェリカ“からクッキーが届きました」
「ご苦労」
リヒトはアネモネからクッキーを受け取ると、テーブルにポンと置いてフィンに対し笑みを浮かべる。アネモネは頭を下げそのまま部屋を出た。
「これ、限定ってローザさん言ってたのに……こんな時間に手に入るの?」
ローザが持っていたクッキーの缶と同じだと気付いたフィン。だが、中を見ると種類が増えているように思えた。
「材料があれば作れるだろう?それにこれは特別製だ」
リヒトが職権濫用で作らせたのだと気付いたフィンは、ポカンと口を開き“クッキー屋さんごめんなさい”と心の中で呟いた。
リヒトは知らん顔で食事を済ませると、「早くご飯を済ませて、これを食べよう」と笑顔で催促をし、フィンはやれやれと小さく笑って食事をしたのであった。
-------------------------------
「フィン、あーん」
ソファーに座るリヒトは、膝の上に向かい合わせになるようにフィンを座らせ、クッキーを手に取りフィンの口の前まで運ぶ。
「あーん」
フィンは躊躇う事なくそれをパクッと頬張ると、美味しそうに咀嚼をした。
ぎゅっとリヒトの肩を掴み、美味しそうにもぐもぐと食べる姿を見たリヒトは、満足そうに目を細める。
「……(まるで餌をもらう雛鳥だな。可愛い。生きるのに必要のない菓子にここまで感謝する日は今まで無かった)」
フィンの口端についたクッキーを、リヒトはぺろりと舐め取る。フィンが口につけるたびそれを繰り返すため、フィンは少し恥ずかしそうな顔でリヒトを見つめていた。
「あーん」
フィンは食べ終えると、自発的に口をパカっと開けて次のクッキーを待つ。その行動にキュンっとしたリヒトは、表情を緩め目を細めた。
「……んー、可愛いフィン。美味しそうに食べるから永遠に与えてしまう」
リヒトは次のクッキーを手に取ると、フィンの口に再び入れる。
フィンはもぐもぐとクッキーを頬張りながら首を傾げ、ごくんと飲み込むと、今度はフィンがクッキーを手に取ってリヒトの口に押し付けた。
「リヒトもあーんして」
「ん、くれるの?」
「うん。僕だってリヒトにあーんしたいの。リヒトにかわいいかわいいってしたい」
「……じゃあ一つだけ」
フィンはにぱっと笑みを浮かべると、「あーん」と声をかけ、リヒトは素直に口を開く。
「あーん」
リヒトはクッキーを頬張りながらフィンを見つめ様子を伺う。フィンは満足そうに笑みを浮かべじっとリヒトが食べている姿を眺めていた。
「リヒトかわいいねー、よしよし」
フィンは首をこてんと傾け、リヒトの髪を撫でながらうっとりとした表情で見つめる。その表情のあまりの可愛さに、リヒトは激しく悶えた。
「……他の奴にはしたらいけないよ、それ。君が可愛すぎる」
リヒトはじっとフィンを見つめ、心配した表情を浮かべ溜息を吐いた。
「しないよ?」
「あの女に言われたら断れないだろう」
リヒトはじとっとした顔でフィンを見ると、フィンはどぎまぎとし俯く。
「うう……一回、お菓子を断ったら泣いちゃって。泣かれたら断れないよー」
「強かな女だ。君の良心を利用してるんだぞ。俺なら無視する」
リヒトはフィンの髪をくるくると指で弄りながら、拗ねた口調でそう言い放つ。
「でも急にそうなったんだよ?前まではそんなに話したりもしなかったのに、何でだろう?」
フィンは困り顔でリヒトを見つめると、リヒトは一度軽く息を吐いて目を閉じた。
「モリス家の血筋だ、ぼやけるだろうが、アカシックレコードで奇妙なところがないか見てみようか。何かわかるかもしれない」
リヒトは目に魔法陣を浮かべアカシックレコードを発動させると、自らの額とフィンの額を合わせた。
139
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる