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一年生・夏の章

呪われた乙女③

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「(顔が真っ赤だ、可愛い)時期が来たら言うよフィン……君は永遠に俺のものだ。逃げても無駄だから、それだけは言っておく」


 リヒトはフィンを見つめながら真顔でそう言い放つと、フィンは呼吸を忘れるほど緊張し顔をさらに赤らめ、涙目でリヒトを見つめ返す。



「っ……(え~!?リヒトが僕とけけけけ結婚を考えてたの……?)」


 フィンは激しく動揺しながらステーキを切っているため、カタカタと震え音が鳴り響いていた。


「(やはり言うのは早かったな……つい口を滑らせた。フィンがすごく動揺している)」


 リヒトはその様子を見て、落ち着かせようとその手に触れる。


「ひぁっ!!」


 フィンはリヒトに触れられ、驚きの声を上げながらナイフとフォークを皿の上に落とす。
 リヒトはぎゅうっとフィンの冷たい両手を包むように握ると、すりすりと撫でて落ち着かせようとした。



「フィン……落ち着いて。予想できなかった?俺は君を手放さないと決めているんだ、フィンもちゃんと覚悟してくれないと困る。一生、俺の側にいる覚悟を」

「……」



 フィンは暫く手をぎゅっと握られリヒトに真面目に見つめられると、やがて小さく頷きながら伏し目がちにリヒトを見つめ返す。


「……すごくびっくりして、ごめんなさい」

「いいよ、俺が悪い。可愛い俺の恋人、命尽きても君を愛してる」


 リヒトがチュッとフィンの手の甲に口付けをすると、そのタイミングでアネモネが現れる。


「お食事のところ申し訳ありません」


 フィンはパッと手を離し慌てた表情を浮かべるが、リヒトは特に気にする事なくアネモネに振り返った。


「ご主人様宛に、”アンジェリカ“からクッキーが届きました」

「ご苦労」


 リヒトはアネモネからクッキーを受け取ると、テーブルにポンと置いてフィンに対し笑みを浮かべる。アネモネは頭を下げそのまま部屋を出た。


「これ、限定ってローザさん言ってたのに……こんな時間に手に入るの?」


 ローザが持っていたクッキーの缶と同じだと気付いたフィン。だが、中を見ると種類が増えているように思えた。


「材料があれば作れるだろう?それにこれは特別製だ」


 リヒトが職権濫用で作らせたのだと気付いたフィンは、ポカンと口を開き“クッキー屋さんごめんなさい”と心の中で呟いた。
 リヒトは知らん顔で食事を済ませると、「早くご飯を済ませて、これを食べよう」と笑顔で催促をし、フィンはやれやれと小さく笑って食事をしたのであった。





-------------------------------




「フィン、あーん」


 ソファーに座るリヒトは、膝の上に向かい合わせになるようにフィンを座らせ、クッキーを手に取りフィンの口の前まで運ぶ。



「あーん」



 フィンは躊躇う事なくそれをパクッと頬張ると、美味しそうに咀嚼をした。
 ぎゅっとリヒトの肩を掴み、美味しそうにもぐもぐと食べる姿を見たリヒトは、満足そうに目を細める。



「……(まるで餌をもらう雛鳥だな。可愛い。生きるのに必要のない菓子にここまで感謝する日は今まで無かった)」


 フィンの口端についたクッキーを、リヒトはぺろりと舐め取る。フィンが口につけるたびそれを繰り返すため、フィンは少し恥ずかしそうな顔でリヒトを見つめていた。


「あーん」


 フィンは食べ終えると、自発的に口をパカっと開けて次のクッキーを待つ。その行動にキュンっとしたリヒトは、表情を緩め目を細めた。


「……んー、可愛いフィン。美味しそうに食べるから永遠に与えてしまう」


 リヒトは次のクッキーを手に取ると、フィンの口に再び入れる。
 フィンはもぐもぐとクッキーを頬張りながら首を傾げ、ごくんと飲み込むと、今度はフィンがクッキーを手に取ってリヒトの口に押し付けた。



「リヒトもあーんして」

「ん、くれるの?」

「うん。僕だってリヒトにあーんしたいの。リヒトにかわいいかわいいってしたい」

「……じゃあ一つだけ」


 フィンはにぱっと笑みを浮かべると、「あーん」と声をかけ、リヒトは素直に口を開く。


「あーん」


 リヒトはクッキーを頬張りながらフィンを見つめ様子を伺う。フィンは満足そうに笑みを浮かべじっとリヒトが食べている姿を眺めていた。



「リヒトかわいいねー、よしよし」


 フィンは首をこてんと傾け、リヒトの髪を撫でながらうっとりとした表情で見つめる。その表情のあまりの可愛さに、リヒトは激しく悶えた。



「……他の奴にはしたらいけないよ、それ。君が可愛すぎる」


 リヒトはじっとフィンを見つめ、心配した表情を浮かべ溜息を吐いた。



「しないよ?」

「あの女に言われたら断れないだろう」


 リヒトはじとっとした顔でフィンを見ると、フィンはどぎまぎとし俯く。



「うう……一回、お菓子を断ったら泣いちゃって。泣かれたら断れないよー」

「強かな女だ。君の良心を利用してるんだぞ。俺なら無視する」


 リヒトはフィンの髪をくるくると指で弄りながら、拗ねた口調でそう言い放つ。


「でも急にそうなったんだよ?前まではそんなに話したりもしなかったのに、何でだろう?」


 フィンは困り顔でリヒトを見つめると、リヒトは一度軽く息を吐いて目を閉じた。



「モリス家の血筋だ、ぼやけるだろうが、アカシックレコードで奇妙なところがないか見てみようか。何かわかるかもしれない」



 リヒトは目に魔法陣を浮かべアカシックレコードを発動させると、自らの額とフィンの額を合わせた。

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