78 / 318
一年生・夏の章
黒魔術と心変わり⑤
しおりを挟む「…………」
ローザは、フィンの瞳の奥に宿る、リヒトの狂ったほど注がれた愛情を感じ取る。ここにリヒトはいないはずなのに、まるでフィンを縛り付け監視しているような愛情の片鱗が瞳の奥に潜んでいると感じたローザは、「こんな愛情……知らない」と怖気付いた表情を浮かべ唇を震わせる。
同時に、あのクールで他者に興味を持たないと噂されたリヒトが、ここまでフィンに惚れ込んでいるという事実に、ローザは興味を持たずにいられなかった。
「何が大魔法師様をそこまで愛に溺れさせているのよ……顔が可愛い、性格がいいのは分かったけど、他にも秘密があるの?」
「……わから、な……」
自白剤の効果が薄れてきたのか、フィンは目を閉じ意識を失いかけていたためまともに返事が出来ずにいた。
「キス以上もしてるって言ったわね。この細くて白い身体も、ものすごく魅力的なの?」
ローザはフィンを押し倒すように顔を覗き込むと、興味本位で唇に親指を当て、その柔らかさにゾワッと身震いをする。
天使のように美しく、それでいてどこか欲望を起こさせる雰囲気がフィンには間違いなくあった。
「柔らかい……それにすごく、綺麗な桜色でしっとりしてる」
次に、髪を撫でたり頬を触る。その行為は次第にエスカレートしていき、ローザはくんくんとフィンの首筋の匂いを嗅いだ。
「甘い匂いね……なんだか興奮する」
ローザは次第に息を上げながら、服が捲れ露わになったフィンのお腹をすりすりと撫で、指をとんとんと置いて笑みを浮かべた。
「どこを触っても気持ち良い。ずっと触ってたくなる……」
ローザは最早自分が何をしているのか考えられないくらいに、フィンの身体を夢中で眺めて触っていた。
ローザはフィンの下腹部を撫でると、キュッと服の上からモノを掴む。
「私にはないモノね……コレも毎晩可愛がられてるのかしら」
「んん……っ」
少し意識を取り戻したフィンの口からは甘い声が漏れたため、ローザはドキッと心臓を高鳴らせる。
「(私ったら、これじゃあまるで、変態ね)」
情欲を掻き立てるようなフィンの声は、ローザの気持ちを激しく揺り動かす。
「ねぇ、嫌じゃないの?自白剤を飲んでるからって、杖を持って抵抗ぐらいしたらいいじゃない」
ローザがそう言い放つと、フィンは虚ろな顔で少しはにかみ、切なげにローザを見つめた。
「……だって、ローザさん女の子だから。万が一にでも傷つけてしまうのは、嫌なんです……」
「っ……!しょ、庶民のくせに、この伯爵家の私の心配!?」
言葉とは裏腹に、フィンの切なげな気遣いにキュンキュンと愛おしさが溢れる感情が心の奥から湧き上がるのを感じたローザ。混乱とときめきがぐちゃぐちゃに入り混じった心の中を現すように、瞳が潤んで揺れていた。
「ごめんなさい……でも、こんな綺麗なひとに杖は向けたくないです。だからもう、こんな事やめてください、ローザさん」
フィンは目を細め首を傾けながら、諭すように柔らかい声色でローザを説得する。
「っ……もうっ!なんなのよ!」
ローザは顔を赤くし、正気を取り戻して慌ててフィンから離れる。
乱れた息を整えると、フィンの衣服を直し、逃げるようにその場を後にした。
「ローザさっ……」
フィンは再び意識が遠のき、眠りに入る。
「私ったら、おかしくなったのかしら……何で急にこんな」
フィンが次に目を覚ました時には、ローザとの自白剤が効いてからの会話は忘れており、休憩時間が終わりを迎えていたことに気付くと慌てて図書館内へ戻っていった。
----------------------------------
「…………」
ある日のローザは、自分の髪の毛に結ばれた、リヒトの長い銀色の髪の毛を見つめながら大きなため息を吐く。
というのも、前まではリヒトの髪の毛を見るだけでときめいていたというのに、フィンと会話をし身体に触れてから、フィンの事ばかりを考えるようになったのだ。
純粋で愛らしく、何処か儚げで、それでいて柔らかい感触と禁じられた果実のような甘い香り。そして何より、悪意が一切ないその純粋さが醸し出す、汚したいと言う本能。
それに、自分が女性だからと言う理由で杖を向けなかったその愚かな甘さから滲み出る深い優しさに、ローザは苦しそうに胸を抑えた。
「どうしちゃったのよ、私。……優しい言葉なんて腐るほど言われてきたじゃない」
相手はただの器量の良い庶民と思っていたはずなのに、あの日からフィンが気になって仕方がないローザは、頭を抱えながら悩んでいた。
「……これって、恋なの?嘘よね、あんな女の子みたいで頼りなさそうな子を!?どう考えたって大魔法師様の方が魅力的よね……?」
ローザはリヒトに抱かれるフィンを想像すると、ゾクっと身体を震わせる。
それはリヒトに対する興奮ではなく、フィンに対するものだと気付いた時には、ローザはいつの間にかリヒトの髪の毛を燃やしていた。
「はぁ、はぁ、はぁっ……うそ、燃やしちゃったわ。今までの苦労が水の泡。どう考えたってこの選択は愚かなのに」
せっかく手に入れたリヒトの髪の毛。
夢で会話もし、偶然だがこの髪にも触れてもらえた。あとはフィンをどうにかするだけの筈だったのに。
叶うかもわからない黒魔術に翻弄されるほど、リヒトが欲しくて堪らなかった。それなのに、その気持ちが揺らいだほど、ローザの心はフィンで支配されていた。
「私はあの子を……殺せない。いえ違うわ、殺したくない」
「こんなの認めたく無いのに……!」
「あの純粋な笑顔が頭から離れない。体の感触も唇の柔らかさも。本当の優しさも」
「わたくし、フィン君を手に入れたくなっっちゃったのね……?」
ローザは自身の顔を細く美しい手で覆うと、涙を浮かべながら下唇を噛む。
ローザの中にどんどんと芽生える、淡くも歪な恋心を、フィンは知らない。
----------------------------------
ローザが使用していた黒魔術には、注意書きが小さく記載されていた。
【注意】
術中に少しでも心変わりをしてしまうと、術の効力が消え、行き場のない黒魔術が術者へと跳ね返る。心変わりをした相手へ術者が強烈な恋心を抱くくため、注意が必要。
139
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる