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一年生・夏の章

ローザの企み②

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「……やれやれ。こういう目に遭いやすいのはミラそっくりだね。あの子ならもっと暴れるだろうけど、君は鈍感で大人しい子なのかな」



 リカルドは薬で眠るフィンをお姫様抱っこすると、フィンの寝顔を見ながら目を細めた。
 このままリヒトの前に姿を見せると殴られそうだと思っていた矢先、ちょうど通りかかったエリオットを見つけたリカルドは、すぐさま事情を説明した。



「……王族のパーティーだぞ、命知らずが多いな」


 エリオットは頭を抱え、会場にいるリヒトを呼びに行った。





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 ローザに話しかけられていたリヒトは、興味がない中で形式的に返答していたが、ふとフィンが視界から消えた事に気付くと不安に感じ、「失礼する」と一言残してその場を離れた。

 ローザはニコッと笑みを浮かべ、目的の物を握りしめその様子を眺める。



「ブルーノがきちんと時間を稼いでくれたわね。私の狙いは“大魔法師様の髪の毛”なの。これがあれば、私の願いは叶うわ」


 ローザの手には、銀色の長い銀髪が一本握られており、ローザはそれを愛おしそうにしまうと夜の闇へと消えていった。



 一方、フィンを探していたリヒトに、エリオットが駆け寄り、会場の外へと連れ出されたリヒト。そこには気まずそうにフィンをお姫様抱っこしているリカルドがいた。
 リカルドはフィンをリヒトに手渡すと、エリオットから事情を聞いたリヒトが鬼の形相になり舌打ちをする。



「ラニスター先生が子息達の顔を見ているそうだ。アカシックレコードで見れば身元は割れるだろうが、今回は帝国は関係無さそうだぞ」


 エリオットがそう言うと、リヒトはリカルドの額に許可なく指をつけて記憶を読み取った。



「……そうみたいだな。クラウスのやり口でもない。事が起きていない以上、“具合が悪そうなのを運んでいた”と言われればそれで終わるような内容だ。今はフィンを家に運んで休ませるから、アレクに事情を説明しておいてくれ。薬を盛った奴は別にいるかもしれない」


 会場にはすでに関わった子息達の姿は無く、リヒトは溜息を吐いた。ローザの姿を探すが、彼女の姿も無かった事から何となく事情が読めてきたリヒトは眉を顰める。


「(あの女、何か知ってそうだな)」


「とりあえず分かったよ。フィン君の顔色は悪くないし、ただの睡眠薬だから問題はないと思うが、一応医者に診せておけよ」


 エリオットはそう言ってアレクサンダーの元へ行くべく手を振ってその場を離れていった。


「ああ」


 リヒトはフィンの額に唇を落とすと、そのまま会場の出口に向かう。
 去り際、リヒトはリカルドを一瞥すると、小さく口を開いた。



「助かった」



 リヒトは精一杯のお礼を述べ、その場から消えていった。リカルドはぺこりと頭を下げてそれを見送ると、大きく息を吸って頭を掻く。



「首の皮一枚は繋がったか……?はぁ、大魔法師様も大変そうだな」


 リカルドは頭をかきあげると、パーティー会場で戻って行った。



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「なーどうすんだよ、ブルーノ。アカシックレコードで俺たちなんてすぐバレるぜ?」


 会場から逃げたブルーノ達は、息を切らせながら頭を抱えた。仲間の一人が後悔した表情を浮かべると、別の仲間も口を開く。


「つーかさ、ローザ様は“アカシックレコード”が通用しない体質の者が生まれやすい家柄だろ。シュヴァリエ家はモリス家の悪事は唯一暴けない。で、ローザ様は多分その体質を引き継いでいるから、俺たちと違って逃げ切る。あーもうどうすんだよ」


 責められたブルーノは苛ついた表情で口を開く。


「ノリノリだったくせに今更煩いぞ!別に何もしてないんだから、“介抱しようとした”で逃げ切れるだろ。ビビるなよ、あんな顔が可愛いだけのトロくさい庶民で、王族が動くわけもない」

「だけどさぁー」


 仲間内で言い合いをしていると、ブルーノ含む五人の前に黒服を着た一人の男が現れる。顔は布で覆われており確認できないが、血だらけの護衛の首を持っていたことからブルーノが目を見開き、叫び声を上げた。



「誰だお前!」

「殺し屋です。申し訳ないですが仕事なので」

「は」


 殺し屋と名乗った男は、剣を持ちながら五人に近づいていく。





 翌日。五人の子息が斬殺されたというニュースはリヒトの耳にも入っていた。
 薬が抜けたフィンは、記憶が曖昧になっており、リヒト見ているその記事のニュースを覗き込んでも特に反応を示さず、「可哀想だね」と言って悲しげな表情を浮かべる。



「コイツらに見覚えない?さっき説明した、昨日君を襲おうとした五人組なんだけど」

「え!?」


 リヒトはもう一度フィンに顔写真の部分を見せると、ブルーノだけなんとなく覚えていたのか、「あ!」と声をあげて指さした。


「このひとだけなら、思い出した」


 フィンはそう言うと、リヒトはコクリと頷く。


「フィン、そろそろ行かないと遅刻しちゃうけど……今日は休んでいいのに、本当に行くの?」

「うん!元気だしいくー!」


 フィンは「行ってきます」と言って慌てて学校へ向かうと、リヒトはそれを見送った後にもう一度新聞記事を見て口を開く。



「この事件は不自然すぎるな。アレクに報告するか」


 リヒトは“王族特務”の制服に着替え部屋を出た。


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