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一年生・夏の章
ローザの企み①
しおりを挟む「みんな、ご機嫌よう」
豪華なドレスを身に纏う可憐な乙女が会場に現れると、年頃の男女は彼女に近寄ろうと一斉に近寄り始める。
「ご機嫌ようローザさん。今日は一段とお美しいわ!あ、見てください、あちらに大魔法師様が。私達ラッキーですよ、滅多に見られませんもの」
ローザがパーティーに登場すると、取り巻きの令嬢がローザに群がり一気に華やぐ。小さな花の中心に咲き誇る大輪のローザは、周囲から注目を浴びつつリヒトを目で追った。
視線に気付いたリヒトは、ローザを一瞥する。ローザはペコっと挨拶をすると、リヒトは軽く頷き特に興味を示すことなくエリオットと会話をしていた。
「……大魔法師様と、せっかくですしご一緒したいわねー」
ローザはうっとりと笑みを浮かべながらリヒトを目で追う。
「でも、どうやら“恋人”と一緒のようで、あまり声をかける隙が無いんですって。本当かは分かりませんけど……」
取り巻きの令嬢がそう嘆くと、ローザは遠くでリヒトの横に立つ小さなエルフをよーく見る。すると、その見覚えのある出立ちに目を見開いた。
「あれは……フィン様かしら(なんでこのパーティーに来てるのかしら?庶民のくせに)」
「ローザさん、お知り合いなの?」
「えぇ、ちょっとした。でもあの子庶民の子よ?大魔法師様とお付き合いなんて、恋人は別にいらっしゃるのでは?」
「庶民!?それは驚きですわ。では、大魔法師様はきっと憐んでいらっしゃるだけね」
ローザは取り巻き達とクスクスと意地の悪い笑みを浮かべてから、一度その場を離れ、近くにいたローザを気にいっている子爵家の子息に声をかけると、にっこりと笑みを浮かべた。
「ねぇ、ちょっと相談があるの。バルコニーに出られない?」
子息はローザの誘いを断ることなく、顔を赤くして二つ返事で言うことを聞いた。
------------------------------------
「いくらでもデートはしてあげるから、あのフィンっていう女の子みたいなエルフをどうにか出来ない?大魔法師様にベッタリで、みんな迷惑しているのよ」
ローザはうっとりするような可愛い笑みを浮かべて、まるで自分が可哀想だと言わんばかりの声色で子息に取り入る。
「ど、どうにかって……例えばなんですか?」
子息は困ったように問いかける。
「ちょっと、レディに言わせるの?そんなの自分で考えて。あの子庶民だから、貴方の好きにしていいんじゃない?。ほぉら、すごく可愛いわよ」
ローザはフィンを指差し、悪魔の囁きのように子息に詰め寄る。側から見れば、パーティーでいい雰囲気になった男女にしか見えない。
フィンを目視した子息は、確かにその愛らしい雰囲気に魅了されゴクリと唾を飲む。
「……今日は仲間と来てるでしょう?手伝って貰えば良いのよ」
子息は、同じ階級の友人らを引き連れていたため、ローザは全員でどうにかすることを勧める。
「けど、お嬢様。バレれば大魔法師様に何をされるか。下手すれば家ごと潰されかねない」
「たかが庶民のために動く公爵家があるわけないでしょう?ねぇ、私のためだと思って。デートだけじゃなくて、夜も一緒に過ごしてあげる。よろしくね?ブルーノ」
子息はブルーノと呼ばれ、ローザの艶やかな声色に魅了されると、一度頷いてパーティーの中に消えていった。
「(ふん、誰がアンタみたいな小物相手にするもんですか)」
残されたローザは、懐から真っ白な粉を取り出しそれを飲み物に混ぜると、大金を渡したウェイターにその飲み物をフィンに与える様に指示をした。
「こちら、どうぞ」
フィンはウェイターから勧められた飲み物を何の疑いもなく口にすると、食事を取るためにタイミング悪くリヒトの目から一瞬離れ、その隙にブルーノがフィンに声をかける。
「具合が悪そうだね、可愛いエルフさん」
ブルーノは紳士的な笑顔でフィンを見ると、フィンは一瞬首を傾げる。
「え……?あ、あれ」
フィンの視界が徐々に揺らぎ始めたときには、もう遅かった。リヒトは偶然ローザに話しかけられ、こちらを振り向くことはない。
ブルーノとその中身に会場の外に連れ出され、別の部屋に連れていかれそうになるフィンだったが、頭を冷やしていたリカルドが戻ったタイミングと重なり、不審に思ったリカルドが彼らの目の前に立ちはだかった。
「これは何事だ?大きいパーティーだと、どさくさ紛れで薬を盛って犯そうとする輩が出てくるようだが……」
ブルーノ達は目を見開き、気まずそうに表情を歪ませる。
「分かっているのか?その子は大魔法師様が連れてきた子だ。爵位がなくとも、大切にされているその子に何かあってタダで済むと思うか?」
ブルーノの取り巻きは大魔法師という単語を聞くと、フィンを捨てるように降ろし一気にその場から逃げ、残されたのは横たわるフィンと足を震わせたブルーノだけだった。
「おい!置いていくのか!」
ブルーノがそう叫ぶが仲間は戻ることはなく、リカルドが睨むと、やがてブルーノもその場から走り去っていった。
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