上 下
62 / 318
一年生・夏の章

蛇と鳩は天秤に盃を注ぐ⑥

しおりを挟む


「特に苦手なものはありませんが、四大元素の中でいえば“火”が一番得意です」


「ふむ……そうか。じゃあルイ君、良い機会だし、君は四大元素の“火”に出場してもらう。第二位だし文句もないだろう」


 エリオットは杖を振り炎の形を冠したブローチを出現させると、ルイに向かって指で弾く。
 ルイはパシッと音を立てて受け取り、若干困った表情を浮かべながらも頷いた。


「は、はい、分かりました(そんなあっさり……選出基準は案外適当なのか?それとも俺を見込んでいるのか)」


 エリオットは今度はセオドアに視線を向ける。


「で、セオドア君。君は?得意不得意ある?」


 セオドアは顎に手を当て、右斜め上に視線を流しながら考え込んだ。



「もちろん、フルニエ家は魔法薬学が一番得意です!召喚はかなり不得意なんで、あんま期待しないでください」


 セオドアはピーんと人差し指を立てながら笑顔で答える。フルニエ家は王都で最も大きな魔法薬を販売する家となり、セオドアは幼少期から魔法薬に関する知識は自然と身に付いていた。


「魔法薬学に精通している奴ってのは案外少ない。入試を確認したが、君はやはり魔法薬学については満点だ」


「まあー、兄に比べると全然なんですけど」

「でもお前、魔法薬学の授業の時ほとんど教科書見なくても出来るだろ。しかも正確に作る。俺はあそこまで出来ないし、フィンだって少し失敗してたのに、お前は一回も失敗してなかった」


 ルイは思い出したようにそう言うと、エリオットは口角を上げた。
 セオドアは「お、おう」と満更でもない様子で照れ笑いを浮かべる。



「うんうん。君は四大元素よりも、別のところで活躍してもらおう。主催校の権限をフルに使って、魔法薬学をメインにした競技を考えておく」


 エリオットはそう言って立ち上がると、杖を振るって資料を回収し立ち上がった。



「さて、俺は仕事があるから失礼するよ。リヒト、三人の特訓は任せた!」

「は?」


 リヒトは眉を顰めエリオットを睨んだ。



「お前がやれば良いだろう。俺は教えられるタイプではないぞ」



「方法はどうあれ、大魔法師直々に教えて特訓した方がいい。試合は勝った方が楽しいし、何より目立つ。これもフィン君のためだ。じゃ、そゆことで」



 エリオットは楽しそうに笑いながら逃げるように退室すると、残された三人はリヒトの方へ目を向ける。
 フィンの名前を出されると弱いリヒトの性質を利用したエリオットに、まんまと絆されたリヒトは頭を抱えた。



「…………」



 リヒトは困ったように目を閉じ、顔を引き攣らせた。



「(戦い方なんて教えたことないぞ……弟子も作らない主義だ)」



 フィンは困るリヒトを見て口を開く。


「リヒト、”感覚派“だから、教えるの苦手、だよね……?」


 フィンの言葉に、リヒトは困ったように目を細める。



「っ……ああ。だがこうなっては仕方ない。私なりの方法で良ければ、どうにかする」



 リヒトはふぅっと軽く溜息を吐いて立ち上がった。



「リシャール、フルニエ。期間限定の契約だ」


「「契約?」」



 シュヴァリエ家が“契約”を重んじる家だと分かっているが、あまりにも唐突な展開に首を傾げる二人。



「私の気が変わらないうちに、一時的にお前達の師匠になることを約束する。その代わりお前たちは必ず勝て。私が教えるのだ、負けは許さん」



 リヒトは杖を振って契約書を取り出す。
 セオドアはわなわなと動揺を見せるが、ルイは勝気な表情ですぐにサインをした。



「大魔法師様直々に教えていただけるなんて光栄です」

「ふん、私は甘くないぞ」


 セオドアも慌ててサインをする。


「よろしくお願いします!!!」


 セオドアは深くお辞儀をし、それを見届けたリヒトは自らもサインをした。
 リヒトが杖を振るうと契約完了し、書類はアーカイブへと飛ばされる。



「勝たせてやる。絶対に」


 リヒトは恐ろしいほどに美しい笑みを浮かべると、自信満々な表情を浮かべた。
しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

処理中です...