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一年生・夏の章

蛇と鳩は天秤に盃を注ぐ⑤

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「でも僕、あんまり辛いって思ったことないんだ。お母さんとお父さんが死んじゃった時はすごく悲しかったけど、孤児院のひとたちはみんな優しかったから。叔母さんもね、替玉のことはあったけど、僕がどこかに買われるって分かって引き取ってくれたんだよ」



 フィンは優しい声色でそう語ると、セオドアは次第に泣き止み話に聞き入る。



「スーパーポジティブじゃん」



 セオドアは健気なフィンを潤んだ目で見つめた。



「えへへ。それに、ルイ君とセオ君が友達になってくれて、一緒に勉強出来て、幸せなんだぁ」


 フィンは満面の笑みでそう言い放つと、二人はぽわーんと幸せそうなオーラを放ち、少し頬を赤らめる。


「お前、そーゆー恥ずいこと、よくさらっと言えるな」


 ルイは照れ隠しで鼻を掻く。


「ルイ、ぬわぁーに照れてんの?」


 セオドアはそれを揶揄うようにニマニマと意地悪い笑みを浮かべると、ルイはかぁーっと顔を赤くし「照れてねぇよ」と強く言い放った。
 フィンとセオドアはそれを見て笑みを浮かべ、三人はすっかり朗らかムードになる。



「あ、夏休みさぁ、三人で遊ぼうよー。今まで休みの日に会ったりしてなかったじゃん?」


 セオドアの提案に、フィンは目を輝かせた。


「あー。いいぜ、ノった」


 ルイはニッと笑みを浮かべ歯を見せて笑う。


「友達と遊びにいくなんて、したことないから楽しみ」


 フィンは“友人とどこかへ遊びに行く”という行為をしたことがなく、憧れていたイベントなので、二人は思うより何倍も嬉しい気持ちで笑みを浮かべた。
 セオドアはフィンの言葉にまたもや涙が出そうになるが、それをグッと堪える。
 同時に、応接室の扉が開きリヒトとエリオットが戻ってきた。



「まったくお前は、大事な話をしているときに姉様と話し込むな」


「いやー悪りぃな。久しぶりに会ったもんだから話に花が咲いてさ。エヴァンジェリン様も結構グルメ探究心強いから、ゲテモノグルメの話をしてたんだよ」


 エリオットの言葉に、リヒトは眉を顰めた。ゲテモノは流石に口にしたくないリヒトは、不機嫌そうな表情で口を開く。



「……そうか。あまり姉様に変な店は紹介するなよ、行くとどうせ目立つからな」



 リヒトは軽くため息を吐くと、再び席に座った。



「ははっ、分かってるよ。……っと、三人で横並びで座ってんの。仲良いな」


 エリオットはいつの間にか生徒が三人で座っている事に気付くと、ケラケラと笑いながら向かいのソファーに座り、資料を魔法で回収して再度目を通す。



「つーわけでお二人さん、フィン君同様、不測な事態に巻き込まれやすい立ち位置になったけど、覚悟はどーよ?」



 エリオットの試すような口ぶりに対し、ルイとセオドアは迷う素振りを見せずニカッと笑みを見せる。



「「望むところです」」



 ルイとセオドアが同時に言い放つと、エリオットは満足そうに笑った。



「度胸は合格だ。だがこちらとしては大事な生徒三人を危険に晒すのは望ましい形ではないし、だからといって学院を辞めさせたい訳でもない」


 エリオットは何かを探すように資料をペラペラと捲ると、ニッと笑みを浮かべた。



「それでだ。俺は昨日あることを思いついた」


 エリオットは一枚の資料を浮かせると、それを複製して全員分の枚数にし一人一人の目の前にひらひらと飛ばす。



「フィン君、ルイ君、セオドア君。君達には来たるエスペランス祭で大活躍してもらう」

「「「!」」」


 エスペランス祭。三大名門同士が競う“魔法の大運動会”は、一年で最も重要な学院のイベントになる。



「今年はミネルウァが主催校、つまりホストを務めることになるから、俺の采配で進めることが出来る。とりあえず、フィン君は四大元素エレメンターの“風”の種目に参加するのが決定しているから、完璧に目立つことはできる!」


 フィンは風のブローチを思い出し、コクリと頷いた。


「クラウスはフィン君だけではなくルイ君とセオドア君と対峙しているから、帝国内でもリストに載る。自ずと二人にも見定めが行われるだろうな」


 エリオットの言葉に、二人は首を傾げた。


「逆に目立っていいんですか?」


 ルイの質問に、エリオットは口角を上げる。


「エスペランス祭は国内だけではなく、他国からも注目されてる。理由は簡単、子供のレベルで国力が分かるからだ。だからあえて、強さを誇示して牽制する。強いことをアピールして簡単に手を出させないようにするのが、俺は得策だと思う。箱の中に隠すより、逆に有名になって注目を浴びた方が良い」


 エリオットの回答に、ルイとセオドアは納得したような表情を浮かべた。


「で、お前等は何が得意だ?」


 エリオットは大股で座りながら、自分の両膝に肘をつき前のめりになりながら問いかけた。
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