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一年生・夏の章

蛇と鳩は天秤に盃を注ぐ①

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 シュヴァリエ家の本邸に到着したルイとセオドアは、土地の広さと豪奢な城に驚きを隠せずにいた。
 秩序と公平を表す天秤が紋章のシュヴァリエ家は、二人が想像した以上の荘厳な城と土地だったようで、特にセオドアは少し狼狽えた様子。




「ウチの何倍あんのコレぇ~」

「王城とまではいかないが、公爵家っつーのはやっぱり規格外なんだな……」



 門からはシュヴァリエ家の馬車で移動していた二人。二人とも貴族なためそれなりの城に住んでいたが、シュヴァリエ家の城はその二人が驚くぐらいに規格外の大きさを誇っていた。
 ようやく本邸の玄関に着くと、使用人達が並んで出迎える。中に通され、豪奢な装飾がされた応接部屋に通された二人は、リヒト等を待つ間に出された紅茶を啜っていた。
 セオドアの利き手である左手は、火傷によって包帯が巻かれていたため、ルイはそれを見て口を開く。



「火傷は問題ないか?」

「うん。帰ったらもう薬届いてて、それ使って特効薬作ったらアホみたいに効いた。希少な薬草でさー、失敗しないかドキドキしたわ」

「ははっ、そりゃよかった」

「それよりブラコン兄ちゃんの方が大変だった」


 セオドアは三つ子の兄の慌てぶりを思い出し顔を青ざめさせる。


「ブラコン……?」


 二人が雑談しているところに、リヒトとフィンが現れる。リヒトの圧倒的にオーラに気圧されたルイとセオドアは、反射的にすくっと立ち上がり礼をした。



「「お招き頂き有難うございます」」

「挨拶は大丈夫だ。今日は客人として迎えているのだから、楽にしてくれ」


 リヒトは真顔で二人の様子を一瞥すると、二人に座るよう促す。セオドアの火傷からドラゴンの魔力が消えているのを感じると、少し安心したのか軽く息を吐いた。



「「はい。心遣い感謝します」」


 リヒトの勧めで、二人はまたソファーに腰掛ける。



「ようこそお越しいただきました、ルイ様にセオドア様」


 学校の外で会う時は、庶民と貴族の差が生じる。爵位のないフィンは、マナーについてしっかりアネモネから学んでおり、位の高い者に対する挨拶作法で二人にお辞儀をしニコリと笑みを見せた。
 真っ白なブラウスに、襟元は淡い緑色の細いリボン。そのリボンと同じ色のショートパンツにサスペンダーが合わさったフィンの私服姿に、二人はほんわかとした気持ちになると同時に、かしこまった挨拶をされ不快感を覚えた。



「フィン、外でもいつも通りにしてくれ」

「フィンちゃーん、友達だろ~?」


 ルイとセオドアの言葉に、フィンは「一応しなきゃと思って!」と顔を赤くしその場を取り繕った。
 リヒトは奥の一人がけのソファーに掛けると、フィンはルイの横にちょこんと座る。


「すまん、少し遅れたわ」


 やがてエリオットも到着し、リヒトは少しため息を吐いた。


「お前のその遅刻癖どうにかならんのか」

「あーわり、資料用意してたんだよ」


 エリオットは悪びれた様子もなく手をひらひらさせて笑うと、セオドアの横に、緊張することなく座り寛いだ様子を見せた。

 ルイは二人の様子をじっと見つめる。王城に寄宿していれば、この国で起こっていることや噂話は多少耳にする。

 例えば、大魔法師が副学長であるエリオットと学生時代から友人であること。また、第一王子のアレクサンダーとも親しいということも有名な話。
 三人集えば怖いもの無し、と学生時代はよく騒がれていた様で、エスペランス祭でも無敗を誇り、在学中は三連覇を納めていたというのも伝説になっている。ルイはそんな関係性に、密かに憧れていた。

 


「改めて、昨日は申し訳なかった」


 全員が揃ったところで、リヒトは口を開き早速謝罪の言葉を述べる。



「いえ、我々は全くなんとも思ってないです。むしろ悔しい気持ちで一杯でした。自分の無力さを痛感していたところです」


 ルイはリヒトを見て真顔でそう言い放つと、リヒトは俯き加減で「そうか」と呟いた。エリオットは指を鳴らして書類を召喚すると、目の前のテーブルに広げていく。



「とりあえず、副学長である俺からさらっと説明するわ」


 エリオットは一枚の写真付きの書類を真ん中に置くと、話を続けた。
 グレーの髪色で、毛先にかけて紫色にグラデーションがかったエルフの写真を見たルイは、眉を顰める。


「これは……」

「リシャール家ならなんとなく知っているか?そう、コイツはデンメルク帝国の大魔法師“アイメルク・シュトラウス”の補佐官“クラウス・ブルメンフェリト“だよ。簡単に言えば、コイツが第四十位のギュンター・ヴァーグナーに入り込んで悪さをした。」


 ルイとセオドアは目を見開く。



「帝国が関わってたんですね」


 セオドアはあちゃーと額を押さえながら事の重大さに気付き、リヒトは一瞬申し訳なさそうに目を歪めた。しかし、セオドアはすぐに笑顔になりさらに続ける。


「なんだー、俺って結構強い奴と対峙してたワケですね。こりゃ誉高い」


 セオドアの意外な反応に、リヒトの罪悪感は薄れていった。


「おい、大魔法師様と副学長の前で弛んだ話し方をするな」


 ルイはじとーっとした顔でセオドアを睨み、セオドアは「あ、すみません」と謝罪しながらリヒトに頭を下げた。
 その様子を見たエリオットはクスッと笑みを浮かべる。


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