57 / 318
一年生・夏の章
蛇と鳩は天秤に盃を注ぐ①
しおりを挟むシュヴァリエ家の本邸に到着したルイとセオドアは、土地の広さと豪奢な城に驚きを隠せずにいた。
秩序と公平を表す天秤が紋章のシュヴァリエ家は、二人が想像した以上の荘厳な城と土地だったようで、特にセオドアは少し狼狽えた様子。
「ウチの何倍あんのコレぇ~」
「王城とまではいかないが、公爵家っつーのはやっぱり規格外なんだな……」
門からはシュヴァリエ家の馬車で移動していた二人。二人とも貴族なためそれなりの城に住んでいたが、シュヴァリエ家の城はその二人が驚くぐらいに規格外の大きさを誇っていた。
ようやく本邸の玄関に着くと、使用人達が並んで出迎える。中に通され、豪奢な装飾がされた応接部屋に通された二人は、リヒト等を待つ間に出された紅茶を啜っていた。
セオドアの利き手である左手は、火傷によって包帯が巻かれていたため、ルイはそれを見て口を開く。
「火傷は問題ないか?」
「うん。帰ったらもう薬届いてて、それ使って特効薬作ったらアホみたいに効いた。希少な薬草でさー、失敗しないかドキドキしたわ」
「ははっ、そりゃよかった」
「それよりブラコン兄ちゃんの方が大変だった」
セオドアは三つ子の兄の慌てぶりを思い出し顔を青ざめさせる。
「ブラコン……?」
二人が雑談しているところに、リヒトとフィンが現れる。リヒトの圧倒的にオーラに気圧されたルイとセオドアは、反射的にすくっと立ち上がり礼をした。
「「お招き頂き有難うございます」」
「挨拶は大丈夫だ。今日は客人として迎えているのだから、楽にしてくれ」
リヒトは真顔で二人の様子を一瞥すると、二人に座るよう促す。セオドアの火傷からドラゴンの魔力が消えているのを感じると、少し安心したのか軽く息を吐いた。
「「はい。心遣い感謝します」」
リヒトの勧めで、二人はまたソファーに腰掛ける。
「ようこそお越しいただきました、ルイ様にセオドア様」
学校の外で会う時は、庶民と貴族の差が生じる。爵位のないフィンは、マナーについてしっかりアネモネから学んでおり、位の高い者に対する挨拶作法で二人にお辞儀をしニコリと笑みを見せた。
真っ白なブラウスに、襟元は淡い緑色の細いリボン。そのリボンと同じ色のショートパンツにサスペンダーが合わさったフィンの私服姿に、二人はほんわかとした気持ちになると同時に、かしこまった挨拶をされ不快感を覚えた。
「フィン、外でもいつも通りにしてくれ」
「フィンちゃーん、友達だろ~?」
ルイとセオドアの言葉に、フィンは「一応しなきゃと思って!」と顔を赤くしその場を取り繕った。
リヒトは奥の一人がけのソファーに掛けると、フィンはルイの横にちょこんと座る。
「すまん、少し遅れたわ」
やがてエリオットも到着し、リヒトは少しため息を吐いた。
「お前のその遅刻癖どうにかならんのか」
「あーわり、資料用意してたんだよ」
エリオットは悪びれた様子もなく手をひらひらさせて笑うと、セオドアの横に、緊張することなく座り寛いだ様子を見せた。
ルイは二人の様子をじっと見つめる。王城に寄宿していれば、この国で起こっていることや噂話は多少耳にする。
例えば、大魔法師が副学長であるエリオットと学生時代から友人であること。また、第一王子のアレクサンダーとも親しいということも有名な話。
三人集えば怖いもの無し、と学生時代はよく騒がれていた様で、エスペランス祭でも無敗を誇り、在学中は三連覇を納めていたというのも伝説になっている。ルイはそんな関係性に、密かに憧れていた。
「改めて、昨日は申し訳なかった」
全員が揃ったところで、リヒトは口を開き早速謝罪の言葉を述べる。
「いえ、我々は全くなんとも思ってないです。むしろ悔しい気持ちで一杯でした。自分の無力さを痛感していたところです」
ルイはリヒトを見て真顔でそう言い放つと、リヒトは俯き加減で「そうか」と呟いた。エリオットは指を鳴らして書類を召喚すると、目の前のテーブルに広げていく。
「とりあえず、副学長である俺からさらっと説明するわ」
エリオットは一枚の写真付きの書類を真ん中に置くと、話を続けた。
グレーの髪色で、毛先にかけて紫色にグラデーションがかったエルフの写真を見たルイは、眉を顰める。
「これは……」
「リシャール家ならなんとなく知っているか?そう、コイツはデンメルク帝国の大魔法師“アイメルク・シュトラウス”の補佐官“クラウス・ブルメンフェリト“だよ。簡単に言えば、コイツが第四十位のギュンター・ヴァーグナーに入り込んで悪さをした。」
ルイとセオドアは目を見開く。
「帝国が関わってたんですね」
セオドアはあちゃーと額を押さえながら事の重大さに気付き、リヒトは一瞬申し訳なさそうに目を歪めた。しかし、セオドアはすぐに笑顔になりさらに続ける。
「なんだー、俺って結構強い奴と対峙してたワケですね。こりゃ誉高い」
セオドアの意外な反応に、リヒトの罪悪感は薄れていった。
「おい、大魔法師様と副学長の前で弛んだ話し方をするな」
ルイはじとーっとした顔でセオドアを睨み、セオドアは「あ、すみません」と謝罪しながらリヒトに頭を下げた。
その様子を見たエリオットはクスッと笑みを浮かべる。
207
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる