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一年生・夏の章

忍び寄る影⑥

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「ぅ……あ(そうだ!腕輪……!)」


 フィンが腕輪に念じると、腕輪は青い光を放ち反応する。ギュンターは訝しげにその様子を見た。



「何する気だ」


 ギュンターは嫌な予感がしたのか、その腕輪に手を伸ばそうとする。



「リヒト、助けて……!」



 フィンが強くそう祈ると、腕輪は強く光を発し、未知の力でギュンターを扉に向かって勢い良く吹っ飛ばした。


「かはっ……」


 腕輪から文字列が飛び出すと、やがて魔法陣の形になっていき、鋭く光る。そのあまりの神々しさに、フィンとギュンターは目を閉じた。



「くそっ……眩しい!」



 ギュンターが次に目を開けた時、自らの体が魔法により拘束され、フワリと宙に浮いていることに気付く。
 目の前には、銀髪の碧眼の青年、憎きリヒト・シュヴァリエが立っていた。


「んだとっ……」


 リヒトは自分が召喚された事で異常事態と捉え、瞬時にギュンターを拘束する魔法をかけている。



「……チッ」



 ギュンターは、恨めしそうにリヒトを睨む。
 何度見ても美しいその姿。憎くても美しいと思ってしまう自分に苛立つギュンターは、舌打ちをして顔を引き攣らせた。



「何でテメーが」


 狼狽えるギュンターを無視して、リヒトはフィンに寄り添い身体を起こしてあげる。



「フィン、いい子だね。俺をちゃーんと呼んでくれた。腕輪は渡して正解だ」

「リヒト……!」


 リヒトは縛られて上半身が露わになったフィンを目にし、ブワッと怒りを露わにする。



「……もう少し、早く呼んでくれてもよかったかな。君をこんな姿にさせるなんて、よっぽどあの馬鹿は死にたがりらしい」



 リヒトは冷徹な目でギュンターを睨むと、すぐにフィンの拘束を解き、自らが羽織っていた虎の紋章が胸元に刺繍された真っ白なジャケットをフィンにかけてあげ、ギュンターに向き直った。



「……(あの腕輪どーゆー仕掛けだよ、クソ)」



 ギュンターはリヒトの登場に、予想外と言わんばかりの表情を浮かべ眉を顰める。
 リヒトは状況を理解するために、拘束し浮遊させたギュンターを引き寄せて手を伸ばした。同時に、フィンの額にも手を伸ばす。



「フィン。すまないが、経緯を覗かせてもらう」



 リヒトは、フィンの額に触れ、ギュンターの頭を掴んで二人分同時にアカシックレコードを発動させた。



「(あーあ。挑発どころか返り討ちにされんじゃんこれ)」



 ギュンターは苛ついた表情を浮かべるも、なす術なしのお手上げ状態で諦めた表情を浮かべた。



「……なるほど」



 アカシックレコードを通して瞬時に経緯を理解したリヒトは、ギロっとギュンターを睨んで杖を向ける。


「り、リヒト!」


 これまでに無い、怒りに変換された魔力を大量に漏らしているリヒトに、フィンは心配そうに名前を呼ぶ。



「あの、このギュンター君って子、多分……」


「……下がっていて、フィン。この男はタダじゃ済ませない」


「でっでも!」


 フィンは何か言いたげに口を開くが、リヒトは杖を持ちギュンターの拘束魔法を解いた。


「うん。フィンの言いたい事は分かってるよ。これはギュンター・ヴァーグナーではない。中にが入り込んでいる」



 拘束を解かれた事で地面に叩き付けられたギュンターは、悔しそうに笑みを浮かべながらリヒトを見上げた。



「“ギュンター・ヴァーグナー”の記憶を視た。お前は彼に入り込んだ、デンメルク帝国の大魔法師補佐官、クラウスだな」



 リヒトは相手の言葉を待つ事なく、ギュンターもとい、クラウスの下に魔法陣を発動させ杖を向ける。



「あーあ。アカシックレコードは狡いなぁ。で、どうする気」

「お前が憑依を解除する前に、私が強制的に排除して魂に傷を付けるだけだ」

「待て待て、宿主の魂を傷付けない保証はあんのか」


 真っ暗な闇のような瞳でリヒトを見上げるクラウスは、手を前に出し降参のポーズを取る。転がった杖に目線をやるギュンターに、リヒトは迷わず魔法を発動させた。



「っアアアアアアアアア!!!」



 途端に叫び声をあげたクラウスは、苦しそうにもがき、醜い表情で叫び声をあげ始める。



「私を誰だと思っている?そんな事、簡単に出来るに決まってるだろう。貴様の憑依術などとっくに攻略済みだ」



 リヒトはクラウスが徐々にギュンターの身体から抜けていくのを見届けると、最後に恐ろしい笑みを浮かべて顔を近づけた。



「挑発は受け取った。あえてお前を生かして帰すぞクラウス。貴様の敬愛する大魔法師シュトラウスに伝えておけ、“次はタダじゃすまない”とな」

「ックソがああああああ!!!!」




 悔しそうに叫び声を上げたクラウスは、やがてその気配が完全に消え、ギュンターは憑き物が落ちたように元の淡い紫色の髪色に戻っていた。そしてそのまま意識が無くなり、床に倒れ眠りにつく。



「フィン!」
「フィンちゃん!」


 それと同時に、迷いなく扉を蹴破るルイとセオドアが現れた。


「「大丈夫か!?」」


 ルイとセオドアは大声を上げるも、すぐみピタッと動きを止めて目を丸くする。
 横たわるギュンターに、王都に住んでいれば一目で分かる”王族特務“のジャケットを深く羽織ったフィン。

 そして、銀色碧眼の美しいハイエルフの姿。



「……だ、大魔法師様!?」


 セオドアは素っ頓狂な声を出すと、ルイはピクッと指を動かす。
 この間、フィンが倒れた日に現れた、殺気立った魔力の正体。それが目の前の大魔法師だと気付いたルイは、固まっていた。
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