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一年生・夏の章

忍び寄る影⑤

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「二人とも、変な感じだったなぁ」


 何と無く嫌な予感がしたフィンは、足早に廊下を走る。すると、優しそうな男子生徒がフィンの目の前に現れた。


「こんにちは」


 その生徒はフィンに優しそうに声をかける。不穏な空気もなく、フィンは笑顔で立ち止まった。


「こんにちはー」

「今帰りかな?」

「は、はい」


 フィンは教科書を握りしめながら、コクリと頷く。


「あぁ、ごめんね。私はギュンター・ヴァーグナー。君と同じ一年生で、三組なんだ。よろしく」

「(あれ……?さっきの覗いてたエルフ、だよね?)」


 ギュンターは手を差し出し、フィンに握手を求める。
 淡い紫色の髪色。前髪が長いが、少し首を傾げると、髪色よりも少し暗めの紫の瞳が垣間見えた。紳士的な態度で、物腰も柔らかい。フィンは一瞬警戒するも、悪意が感じ取れなかったため、おずおずとギュンターと握手を交わした。



「少し話さないかい?君とずっと仲良くなりたいと思ってて。私の秘密基地があるんだ」

「秘密基地、ですか?(ただ仲良くなりたいだけだったのかな?)」

「そう。ここ」


 ギュンターに案内された部屋は、昔生徒会室の倉庫として使われていた部屋らしく、その奥にも扉がある。



「こっち、入ってみて」

「え……は、はい」



 ギュンターは無垢な笑みをフィンに向け、フィンは小さい歩幅で近付いていく。
 奥の扉に入るよう促されたフィンは、ギュンターを信じドアノブに手をかけてその部屋に入る。

 窓のない殺風景な部屋に、フィンは首を傾げた。


「あの、ここって……」


 カチャッと鍵をかける音が聞こえたフィンは、サーっと青ざめた表情でギュンターを見る。すると、ドンっと強く押されたフィンは、床に転んでようやく事態の深刻さに気付いた。



「ちょろいなー。もっと疑わないと」


 ギュンターは転んだフィンを仰向けにさせ、馬乗りになって顔を覗き込む。
 先ほどよりも髪色は暗くなり、瞳の色は淀んだ金色に変わっていた。雰囲気も暗く、フィンはようやく危機感を感じ体を震わせる。



「あ、あの、ギュンターさん?」



 フィンは声を震わせながらギュンターを見つめると、ギュンターは興奮した表情でフィンの耳を舐めて囁く。



「君を犯して、大魔法師に挨拶しようと思って」

「え……?」


 リヒトへの挑発とも取れる言葉。
 フィンは、慌てて杖を取ろうとローブ裏のポケットに手を伸ばすが、ギュンターは先に杖を出し、フィンの両手を紐で縛り上げて動けなくさせる。



「やめたほうがいいです!こんな事したら絶対、リヒトがあなたを許さないのにっ……!」


 リヒトが怒ることが目に見えたフィンは、首を横に振って必死に抵抗を示す。



「へぇ、私の心配をしてるのか?」

「心配はしてませんっ……でもっ!」

「でも?」

「こんなことしたって、リヒトに倒されちゃいますよ……」



 フィンは目を潤ませギュンターを見つめる。普段見ることが出来ない真っ赤な顔と涙を流した姿に、ギュンターは興味を持ったように顔を近づけた。


「じじじ自分で言うのもなんですが!リヒトは僕のことになるとちょっと暴走ちゃうので!」


 フィンは後付けで、さらに顔を赤くし涙目になってギュンターを見つめ、怖くないと言い聞かせるように必死に強気の表情を見せる。



「あっそ。この状況で良く惚気られるね」

「あっ、え、すみません」



 フィンはリヒトのことを思い出し、無防備にも照れ笑いを見せると、ギュンターはゾクッと興奮した感覚に陥る。素直に愛らしいと思ってしまったのか、それを抑えるように苛ついた表情を浮かべた。


「そんな顔する余裕あんの。その大魔法師はここにいないのに」



 ギュンターはフィンに対する興味が高まる一方で、脳裏によぎるリヒトとの対峙の記憶を一瞬思い出し舌打ちをした。



「まぁ、私の目的は大魔法師への挑発だから、仮に大魔法師が来たところで、倒される前に逃げるさ」



 ギュンターはフィンの体に手を這わせ、確かめるように体のラインをなぞる。


「それに、しばらくこの学院で君を見ているうちにどんどん興味が湧いてね。怪我させるより、犯すほうが楽しそうだなって」



 ギュンターはフィンのローブを取り、夏用のブラウスに手をかけると、乱暴に引き千切って上半身を露わにさせた。


「わっ……!ダメです!やめてください!僕の身体なんて大したことないです!」


 フィンは大声でそう叫ぶが、ギュンターがフィンの口を手で塞いだ。
 身体を見ると、多くのキスマークが付けられている事に気付いたギュンターは、苛ついた表情を浮かべフィンを睨みつけた。



「んだよ、もうヤられてんのか。あんなスマした顔して、やることはやってんじゃねーか」

「んー!んーーー!(リヒトと知り合いなのかなっ……)」


 
 フィンは必死に抵抗するも、口を塞がれており助けを呼ぶ事もできない。
 その瞬間、ギュンターは一瞬激しい頭痛に襲われ顔を引き攣らせる。



「っあー……宿主が抵抗してる。煩いな。とっとと犯してこの身体とおさらばすっかぁ」

「(宿主……?)」



 ギュンターはこめかみに指を当て煩わしそうにそう言い放つと、かちゃかちゃと自身のベルトを外し始める。
 フィンは打開策が無いか必死に考えるが、杖が振れない状況でギュンターを圧倒させる魔法が使えない。

 ギュンターはフィンのハーフパンツにも手をかけ始め、フィンは首を横に振って抵抗し、ガブっとギュンターの手を噛んだ。


「痛いな。大人しくできないのか」


 ギュンターはフィンの首を掴むと、グッと力を込めて脅しをかける。


「ぅぅ……」

「黙ってればすぐ終わる。可愛い可愛いフィン・ステラ。大魔法師から寵愛を受けてるお前を蹂躙できると思うと興奮する」



 ギュンターはフィンの首から手を離すと、フィンはげほっと咳き込み反射的に涙を流した。

 ギュンターはフィンの淡いピンク色の乳首を見ると、ぺろっと舌なめずりをして息を荒くさせる。冷たくぬるっとした感触が、フィンの胸元に這うように蠢いた。


「ひぁっ……」


 フィンは顔を赤くし目を潤ませ、恐怖で体を震わせると、ギュンターは興奮した表情で笑みを浮かべる。



「良い顔するね……なるほど、大魔法師がハマるのも分かる」


 ギュンターはフィンの下半身へ手を伸ばすと、フィンはビクッと大きく震え顔を青ざめさせた。


「(本気で僕を……こんなの絶対やだ!)」



 リヒト以外に身体を許すことは、絶対に嫌だと顔を強張らせるフィン。


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