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一年生・夏の章
忍び寄る影④
しおりを挟む「ちょっとーギュンター君。いい加減その付き纏いみたいなのやめようよ。てかなんでこっちにいんの?ルイが追いかけた筈なんだけどさ」
一方セオドアは、行き止まりの廊下でギュンターを追い詰めていた。
暗い雰囲気と、異様な魔力の流れ。ここでギュンターを足止めしていれば、とりあえずフィンは安全に帰れると踏んだセオドアは、ジリジリとギュンターに近付いた。
ギュンターは突き当たりの誰もいない広い教室に入ると、セオドアもそれを追うようにして入室する。
「付き纏っているのは君とルイ・リシャールだろう」
歪な感情が混ざた声色に、セオドアは眉を顰めた。
「いや俺らは友達だからね。君は友達なのー?違うよねー?」
セオドアは鼻で笑い挑発的な態度を続けると、ギュンターは苛ついた表情で杖を手にする。
「友達ではない。私とフィン・ステラはそれ以上になる予定だ」
「はぁ?」
セオドアは「ヤベェってこいつ」と顔を引き攣らせながら杖をギュンターに向けた。
ギュンターは容赦なく魔法陣を浮かび上がらせると、大きく息を吸った。
「何する気だこんなとこで!?」
「竜の息吹」
「は」
ギュンターが大きく息を吐くと、セオドアに向かって炎の柱が一直線に向かっていった。
「マジかよ!?なんでドラゴンの技なんかッッ!!!」
セオドアは無詠唱で水魔法を使い炎を抑えるも、完全に押されているためジリジリと炎が迫り来る状態だった。
所々衣服が燃え、手に火傷を負っている様子。
「いや、キッツ!!!魔力の密度上げてこれかよッ……」
セオドアは詠唱を始め魔法陣を浮かび上がらせると、懐からある小瓶に入った魔法薬を取り出して魔法陣へ投げる。
小瓶が割れ、中の液体が魔法陣へ吸収されると、セオドアは息を荒げながら口を開いた。
「氷壁・強化」
セオドアの詠唱と共に、ギュンターの四方には分厚く魔力の籠った氷の壁が出来上がる。
それは竜の息吹によってじわじわと溶かされているが、破壊されることはなく徐々にギュンターの方へと詰め寄っていた。
セオドアは杖を持ち、フゥッと息を吐いて笑みを浮かべる。
「あぶねー。魔法強化薬持っててよかった……ほんで、フルニエ伯爵家に生まれて良かった……まじで一瞬、焼死を覚悟したんだけど」
セオドアは焼けた制服を見て、火傷をぺろっと舐めて目を引き攣らせ、一度その場に座り込む。
懐から再び魔法薬を取り出すと、火傷した箇所に塗り込んで治癒を促した。
「凄いのに狙われたなーフィンちゃん……あれ、本当にギュンター・ヴァーグナーなの?なんか調べた内容とかけ離れてる気がする」
ギュンターは氷の壁の中で一度大人しくなり炎を出すことなく佇むと、セオドアは訝しげにその様子を見た。
「先に攻撃したのはそっちだからねぇ、多少怪我しても文句は言うなよー?」
セオドアは再び杖を持つと、氷壁に向かって振り翳す。
「氷壁・突風」
氷の壁は少しずつ削れ、ギュンターを取り囲むようにして細かい氷の破片と突風が吹き荒れる。
それはギュンターの視界を奪い、身動きすら許さず、ギュンターは杖をコロッと落とした。
「魔法薬学を使った魔法実技、俺得意なんだよねぇ」
セオドアは氷の突風を解くと、そこにギュンターのローブが落ちているだけで、姿がない事に気付く。
「はぁ!?消えた!?」
セオドアがそう叫ぶと同時に、ルイが息を上げて教室に慌てて入り、セオドアは目を丸くする。
「セオ、フィンは?」
「ギュンター足止めしてるうちに帰したけど……なぁ、これ、もしかしてめちゃくちゃヤバい?」
事情を察してきたセオドアは、顔を引き攣らせる。
「俺の方にもギュンターはいた。……これはハメられたな。俺らが対峙したのは偽物だ」
ボロボロの制服を身に纏ったセオドアを見て状況を察したルイは、慌ててフィンを追いかけるために走る。その後ろをセオドアも追いかけ、フィンを探し回った。
「ドラゴンの技、使ってたか」
「うん、お陰で制服おじゃんだよ」
「俺は足を石にされた」
「マジかよ……石になったのお前でよかったわ」
「それは同意だな」
セオドアは顔を引き攣らせながら、自分が石にされたことを想像してゾッと背筋を震わせる。
「魔法薬学の実験教室は一番離れにある。こっちに来る生徒が少ないし、アイツにとっては好機に違いない」
「てかマジで意図が読めないんだけど。フィンちゃんに何したいワケ、アイツ」
「間違いなく、良いことではないだろうな」
「ヴァーグナー家について調べたけど、爵位は男爵で西の小貴族だよ。そんな小物がドラゴンの技使えんの?」
「俺もびっくりしたよ。何か裏がある気がする」
「……だよね」
二人はフィンを探すため、魔力を探知しながら全速力で校内を駆けていった。
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