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一年生・夏の章

ミラを知る者②

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「フィン君、今日は遊びに来てくれてありがとう。リヒトに恋人が出来たのは俺も安心だよ。またゆっくり王宮に遊びに来て欲しい。今日はパーティーだから、ぜひ料理を楽しんでいってくれないか?結構自慢なんだ」


 アレクサンダーはフィンの手を取ると、挨拶の様にキスをして微笑む。
 リヒトは一瞬むっとするも、よくある貴族風の挨拶のためグッと堪えた。



「は、はい!」


 フィンは目を輝かせながらリヒトを見上げる。食べることが大好きなフィンは、来た時から料理が気になっていたためウキウキしながらリヒトの了承を待つ。


「……うん、いいよ。好きなだけ食べておいで。だけど、勝手に会場の外には出てはダメだよ。知らないひとともあまり関わらないこと」

「わかった!」


 フィンはパァッと明るい表情を浮かべると、豪華な料理の方へ向かっていった。



「お前、随分と過保護だな。いっつもその調子か」


 アレクサンダーは呆れた顔でリヒトを見ると、シャンパンを渡し乾杯を促す。


「フィンは少々危なっかしいところがある。クラウスの件だって、友人の方がよっぽど勘が良かった」


 リヒトはそれを受け取り乾杯をすると、嘆きながらクイっと一口飲み、チラチラとフィンの様子を遠くから伺った。



「なんというかあの子……頭ん中花畑みたいな子だな。でも賢いらしいじゃないか、エリオットが自慢してた」

「カメラアイだよ。見た書物を一回で全て覚えられる。勉学に対するセンスも良い」


「へぇ~、見かけによらないな。そもそもあんなに可愛い子、どうやって手籠にしたんだ」


 アレクサンダーの問いかけに、リヒトは眉を顰め溜息を吐く。


「人聞きの悪いことを言うな……色々あったんだよ」

「まあ本人も随分お前に懐いてるもんな……俺の見立てだと、ありゃ愛し子かもしれないな」

「愛し子だと」


 リヒトの指がピクリと動く。


「ああ。誰からも愛されやすい、心の純粋な子。精霊とかそういった類にも好かれる。だが、あまりに好かれすぎて神様に早く呼ばれてしまう」

「…………」


 アレクサンダーは真顔でリヒトにそう告げると、リヒトは目を見開き一瞬動揺を見せた。
 しかし、アレクサンダーはその顔を見た瞬間に吹き出す。



「……っていう御伽噺だ。そんな顔すんなよ!俺が言いたいのは、ああいう愛される体質はクラウスみたいな事件を引き起こしやすいんだから用心してくれ。過保護ぐらいがちょうど良いかもな」


「……分かってる」


 リヒトは再びフィンへ視線を向けると、偶然リヒトを見ていたフィンはニコッと笑みを浮かべた。
 リヒトは口を動かし“好きだよ”と伝えると、フィンは少し顔を赤らめ頷く。



「王子である俺が認識をした。顔はきちんと覚えたぞ。困ったら王族を巻き込め」


 アレクサンダーは友人であるリヒトの恋人を“守る”と暗に示し、雷にも似た蜂蜜色の髪色を揺らしながら、王の器である威厳を示すように小さく笑みを浮かべて頷いた。
 普段おちゃらけていることが多いアレクサンダーだが、王の継承者としての能力は計り知れない。リヒトはそんなアレクサンダーを信用していた。


「ああ。これから頼むぞ」

「任せておけ。調査も進んでる」




-----------------------------------



 切り分けられたチキンを頬張っていたフィンは、真横からの視線に気付くと首を傾げながら視線を合わせた。
 フィンと目が合った男は、驚きの表情を浮かべて震えながらフィンに近付き口を開く。



「君は……」

「?」


 フィンは空になったお皿をウェイターに預けると、ゴクンとチキンを飲み込んだ。


「あの……なんでしょうか?」


 フィンは困ったように眉を下げて、じっと見つめてくる男に声をかけた。


「ミラ、だよな?私を覚えてないか?ミラ!」

「えっ……」


 男はフィンの両手を掴み顔を近付け目を潤ませる。筋肉質な体型で、黒髪のセンターパートの髪型。第一印象としては少し目つきが悪く怖そうだが、話すと物腰は柔らかいため、ガラッと印象が変わった。



「あ、あの、ミラは僕の母の名前ですが……」


 フィンが慌ててそう言い放つと、男は目を見開き呆然とした表情でフィンを見つめる。


「……え?じゃあ君はミラの……」

「息子なんです。フィン・ステラと言います」


 フィンは申し訳なさそうにそう言うと、男はフィンの手をパッと離して動揺をしたままフィンを見た。


「息子……。そうか……ミラと瓜二つでビックリだよ。ステラ、ということは、父親はリアムか?似なくてよかったな」


 男は寂しそうにそう言って笑い、フィンを愛おしそうに見下ろし頬に触れた。



「本当にそっくりだ。可愛い」


 名前を知らない男に、執着にも似た感情を向けられたフィンは、困った表情を浮かべされるがまま触れられる。


「えっと……あの、母の知り合いですか?」


 フィンがそう問いかけると、男は頷く。



「ああ。ミネルウァの同級生なんだよ。今日はミラは来てるのかい?」


 男はキョロキョロと辺りを見回すと、フィンは気まずそうに口を開く。


「あの……母も父も亡くなってるんです。ごめんなさい」


 フィンの言葉を聞いた男は、目を見開きすごい剣幕でフィンの肩を掴んだ。

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