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一年生・夏の章

忍び寄る影③

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「もしそうなら、謝らなきゃかな」


 フィンは慌てた表情でそう言うが、二人は表情を強張らせる。


「なんでそんな思考になんだよ」

「フィンちゃん、多分だけどさ、フィンちゃんはソイツにはんだよ」

「そう、なの?じゃあどうしてだろう」



 二人からの言葉に、フィンは目を丸くする。セオドアはフィンの肩を触り、真顔で口を開いた。



「向こうがってこと」

「なにか……」



 フィンは目を丸くしたまま首を傾げる。



「さすがに、ギュンターって奴が何考えてるかまでは分かんないけどな。でもお前に執着してるのは確かだ」



 ルイは窓の方へ目をやると、渡り廊下の隅でじとっとこちらの様子を伺っているギュンターを見かける。



「まだいるのかよ」



 ルイはそう呟き、苛ついた表情を浮かべた。
 授業が終わると、ルイは真っ先に渡り廊下の方へ向かう。



「セオ、ちょっと行ってくるわ。フィンのこと頼む」

「あぁ」


 状況を察しているセオドアは、コクリと頷いた。


「ルイ君どこいくの?」

「ちょっと用事。すぐ戻る」


 ルイはひらひらと手を振って振り返らずそのまま逆方向へと歩いていく。


「いこ、フィンちゃん」

「うん……」



 フィンは首を傾げながらも、ルイを見送り、セオドアと一緒に歩いた。
 すると、少し先の廊下にギュンターが立っている事に気づいたセオドアは、警戒するような表情に変わる。



「フィンちゃーん、教室もうすぐそこだし、先帰っててよ。俺、先生に残った魔法薬とか返しに行くからさ。今日はもう授業無いし、気を付けてお家に帰ってね」

「う、うん……わかった。また明後日ね!」

「うん。またねん」



 少し様子がおかしいと思いつつも、フィンは笑顔で見送るセオドアを残し、パタパタと早足でその場を離れた。







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 渡り廊下に到着したルイは、逃げるギュンターを目にして指輪を杖に変えて追いかける。


「おい、ギュンター・ヴァーグナー。身元は割れてるぞ。今更逃げてどうする」

「……」


 ギュンターは無言でとある部屋に逃げ込むと、内側から鍵をかけて入れないようにした。



「……どーゆーつもりだ」


 ルイは扉の前で訝しげに立ち、扉の前で佇む。まだ手を出されていない以上、乱暴に魔法で扉を壊すのは躊躇うルイは、しばらくその扉の前に立っていた。



「……貴様に用は無い、ルイ・リシャール」



 扉の向こうで、不気味に笑うギュンターの声が響く。


「俺はあるんだけど。少し話そうぜ?……お前が御執心のフィンは、変な視線感じて気味悪がってる。仲良くなりたいなら普通に接しろよ」


 ルイが堂々とそう言い放つと、中の鍵が開く音がした。ルイは鼻で笑い、怖気付くこともなく堂々と扉を開ける。

 中は異様な雰囲気に包まれ、黒いもやのようなものが渦巻く。その中心に、ギュンターは猫背で横向きに立っていた。前髪のせいで眼は隠れているが、クマがあり顔色が悪い。

 ルイの体が教室に入り切ると、扉は再び閉じて鍵がかけられた。ルイは一瞬振り返るも、杖を握っているギュンターの仕業であることは間違いない。
 


 しかし、ルイはある違和感を覚えた。



「……お前、な」



 ルイの言葉に、ギュンターはニィっと口角を上げて怪しく笑う。魔力が薄く、まるで偽物のような雰囲気に、ルイは眉を顰めた。



「侯爵家の子は鋭いね」



 ギュンターは杖をルイに向けると、自らの下に魔法陣を浮かび上がらせ、目を金色に光らせた。


竜の眼ドラゴン・アイ

「!?」


 ギュンターの思わぬ先制攻撃に、ルイは一瞬目を見開く。



「そんな技使えるなんて、セオの情報には無かったが……なんか訳アリっぽいな」



 ルイの足は徐々に石化していき、身動きが取れなくなっていく。


「リシャール家に対して石化使うなんて、頭は悪いみたいだが。そちらから手を出したのなら、俺も手加減はしないぞ」



 ルイは召喚の魔法陣を一瞬で浮かび上がらせると、赤い瞳を光らせて口を開く。



「出てこい、黒髪の蛇女神 メデューサ



 リシャール侯爵家は南部の大貴族で、その紋章は“蛇”。蛇を使役する事に長けており、ルイにとって、蛇の魔物を召喚する事
は簡単だった。
 魔法陣から、下半身が蛇の姿の、美しい黒髪の美少女が現れる。神々しくも儚げな雰囲気のメデューサは、ルイを見るとキョトンとした顔を浮かべた。



「ルイ……足がどんどん石になってるね……」


 メデューサはか細い声でそう話すと、ルイはコクリと頷く。


「何故か知らんが、相手はドラゴンの技を使ってる。まずはこの石化を解いてくれるか」

「うん、いいよ……」


 メデューサはルイを石化した部分に絡まりついた。


「半端な石化。すぐ解けるわ」



 メデューサは目を光らせると、瞬く間に石化が解け、ルイは動けるようになる。石の破片が少々足に刺さり血が出るが、ルイは気にする事なく破片を払った。



「ありがとう」


 ルイは足首を回しながら、メデューサの頭をポンポンと撫でる。



「どうする……石化させる……?」



 メデューサの問いかけに、ルイは首を横に振った。


「いや。向こうがまた石化を使ってきたら相殺させてくれ」

「わかった……ルイ、なんで猫なの?猫怖い……」


 メデューサはルイは猫耳と尻尾を生やしていることに不満そうに頬を膨らませる。



「悪い……もう少ししたら解けるから我慢してくれ」


 ルイは猫が苦手なメデューサに謝罪をすると、ギュンターに杖を向けて睨み付ける。



「で、どーすんの。俺に勝つ気か」

「時間は十分稼げた。私は



 ギュンターは不気味な笑みを浮かべながら、やがてスッと消えていき、闇の籠った教室の空気が一変して元通りとなった。



「……そういうことか!メデューサありがとう、助かったぞ」

「うん……」


 ルイはメデューサを還すと、慌ててその場を離れた。




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