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一年生・春の章

悪夢と夢占い⑤★

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「フィン、顔隠すのだめ」


 リヒトはフィンを正常位の状態にさせ、真っ赤な顔を覗き込むように視線を送る。



「ね。答えて、フィン」


 リヒトは低く甘ったるい声で再度フィンへ質問をすると、フィンは涙を溜めながらギュッと目を瞑った。



「わかんなっ……でも、」

「でも?」

「ふだんは優しくてかっこいいリヒトが、っ……ぼ、ぼくにたくさん夢中になってる姿が、すきなのかも、っ……」



 フィンは目を腕で隠しながら、消え入りそうな声でそう話すと、リヒトは目を見開きやがて笑みを浮かべる。
 既に朝日は登り、完全な朝を迎えている空間で、煌びやかな光が二人を明るく照らしていた。
 フィンは陽の光でより一層厭らしい姿をリヒトに晒しており、リヒトはグッと片目をひくつかせ唾を飲んだ。



「ああ。俺はフィンに夢中だよ。必死に求める姿が格好悪いと思われたら……と思ったけど、フィンがそう言うなら遠慮なく」


「っ……!!」


 その後、フィンは喉が枯れるまでリヒトに散々愛され、身体中にキスマークが出来るのであった。






「……お昼ご飯もいらなさそうですね」


 一人で切り盛りするには大きいキッチンに立つアネモネは、真顔でそう呟き、夕ご飯はうんと豪華な物にしようと意気込んだ。







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 リヒトは、ミスティルティン魔法図書館のレベルDで夢占いの本を見つけると、魔法で本を引き寄せて手に取る。



「(これが夢占いの本か。姉様が好きそうな本だな)」



 リヒトはパラパラと中身を確認し、恋人が殺される夢について調べる。



「(……フィンの言っていた通りだな。これは何に基づいて調べてるんだ?心理学の学問か?)」



 リヒトは興味深そうに色々なページを捲っていると、偶然ルークが通りかかり、訝しげにその様子を見つめる。ローブを纏って深くフードを被っていたが、ルークは気付いたようだった。



「館長?何かお探しで?」


 ルークはカートを押しながらもにへらーっとリヒトに声をかけ、首を傾げる。
 リヒトはルークを一瞥すると、真顔のまま口を開いた。


「探し終えた所だ。気にするな」


 ルークはリヒトが持っていた本を見ると、物珍しそうな表情を浮かべる。



「館長、意外な物を読みますね」



 にへらーっと軽い笑みを浮かべるルークに、リヒトはじとっとした目を浮かべ本を閉じた。



「お前、怖いもの知らずと言われないか?」


 普段気軽に声をかけてくる者はあまりいないため、リヒトは真顔でルークを見下ろしそう言う。ルークは一瞬ビクッと肩を震わせるが、それでも逃げることなく口を開いた。


「いやっ、あ、すみません!!フィンがあまりにも館長の話するから、案外怖い方じゃないなーなんて思って話しかけちゃいました」


 ルークがフィンを会話に持ち出すと、リヒトは少し表情が柔らかくなる。



「……そうか。フィンは楽しんでいるか?」


 リヒトの問いかけに、ルークはニカッと笑みを浮かべて大きく頷く。


「楽しんでるどころか、もう常連に覚えられて可愛がられてますよ!フィンがいるだけで図書館の雰囲気爆上がりぃ~!って感じで!」



 フィンのことを楽しそうに語るルークに、リヒトは少し笑みを見せる。



「そうか。それならよかった」

「じゃ、俺仕事あるんで。ごゆっくり!」

「待て」


 ルークがカートを押して去ろうとすると、意外にもリヒトがそれを呼び止める。



「へ?」

「学問本はこっちではないだろ」



 リヒトはカートを見て瞬時に学問の本だと理解し、じとーっとルークを睨む。



「あ。す、すみません」



 ルークは照れ笑いを浮かべながら方向転換をすると、すれ違いざまにリヒトは口を開く。



「言っておくが」


「?」


 ルークは一度足を止め振り返る。



「フィンに手は出すなよ……」


 恐ろしいほどに冷たい目でルークを見下ろしたリヒトは、少し殺気立った魔力を出しながらそう言い放った。
 ルークはこの世の終わりを見たような表情で後退りし、歯をガタガタと鳴らす。



「ヒッ……だ、出しませんよ!そんな恐れ知らずいませんて!」

「ならいいが。これは借りていくから処理しておいてくれ」

「へ?あ、はい!お疲れ様です!」




 リヒトは通常運転に戻ると、その場から颯爽と去っていった。




「こ、怖すぎるだろ!死ぬかと思った!」




 ルークはその場に一度膝を突き、しばらく俯いて動けずにいる。



「…………」



 その様子を影から見ていたローザは、リヒトの持つ“夢占い”の本を見て口角を上げた。




「夢、ね……大魔法師様はどんな夢を見るのでしょう」




 ローザは不敵な笑みを浮かべてその場を去る。リヒトへの強い憧れと執着が、どんどんとローザの中で花開いていった。






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次回から夏の章に入ります!
引き続きよろしくお願いします♪
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