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一年生・春の章
悪夢と夢占い②
しおりを挟む「……ト」
誰かが俺を呼ぶ。
どうでもいい、早く死なせてくれ。
死ねばこの夢から醒める。
もう誰も俺に構うな。
「……ヒト!」
聞き覚えのある声。これは……
「リヒト!」
フィンの声でガバッと起き上がったリヒトは、息を上げながら自室のベッドで呆然とし、ようやく状況を理解する。
「フィン……」
リヒトは、自分を起こしてくれたフィンへ目を向けると、そのまま強く抱きしめ、存在を確認するように心臓に耳を当てた。
「わわっ(リヒト、すごい汗……!)」
寝る前に性行為をし、お互い裸のまま眠りについていたので、リヒトの汗と温かい体温が直に伝わったフィン。
リヒトはトクントクンと脈打つフィンの心臓の音を聴きながら目を閉じた。
「(心臓、動いてる……温かい。生きてる)」
リヒトは目を細め、フィンが生きているという安堵感で一気に体の力が抜ける。
「リヒト、大丈夫?すごくうなされてたから、起こしちゃった」
フィンはリヒトの頭を撫でながら、申し訳なさそうな表情でそう問いかけると、リヒトは顔を上げてゆっくりとフィンに口付けをした。
「……ありがとう。助かった」
そして、そのままフィンを押し倒し、いつもとは違う不安に揺れた瞳で見下ろす。
「リヒト……?」
様子がおかしいリヒトを心配そうに見上げるフィンは、手を伸ばしてリヒトの頬を撫で、小さく笑みを浮かべた。
「怖い夢でも見たの?」
フィンの問いかけに、図星だったリヒトは少し目を逸らして小さく頷く。
「……ああ。今までで一番恐ろしい夢を見た」
リヒトは、夢の中で息絶えるフィンの姿を思い出すと、表情を歪めて今にも泣きそうな表情でフィンを見下ろした。
フィンはそんなリヒトの姿に目を見開き、心配そうな表情を浮かべるも、やがて笑みを浮かべて目を細める。
「……もう大丈夫、もしまた怖い夢を見てたら僕が起こしてあげるから」
「フィン……」
フィンは、優しく笑みを浮かべたまま、月明かりに照らされるリヒトの綺麗な銀髪をそっと撫でた。
その後、背中に手を回しすりすりと撫で、落ち着かせるようにリヒトを見つめるフィン。
「……今日はもう眠りたくない」
リヒトは低く小さな声でそう言うと、フィンの首に唇を這わせる。夢で切られていた部分に舌を這わせると、リヒトは片方の目から一筋の涙を溢した。
「リヒト……泣いてるの?そんなに怖い夢だったの?」
フィンは心配そうにそっとリヒトの涙を拭うと、リヒトはその手を掴んでフィンを切なげな表情で睨む。
「……フィン、頼むから、俺から離れるな」
切実に嘆くリヒトに、フィンは目を見開き慌ててリヒトを抱き寄せて頷いた。
「絶対離れないよ?リヒトの側にずっといる」
フィンはニコッと笑みを浮かべ、愛らしい表情でリヒトを見つめる。
「特に、人数が多い場所では絶対だ」
「……?うん、分かった」
「腕輪は絶対につけるように」
「うん。分かったよ」
リヒトはフィンの返事を聞くと、暫くフィンを抱きしめて離さなかった。フィンはリヒトの胸の中で、すりすりと頬擦りをしたり背中を撫でたりし、リヒトを落ち着かせていく。
「……リヒト、もしかして僕がいなくなっちゃう夢でもみた?」
そろそろ落ち着いたと思い、夢の内容について問いかけたフィン。
リヒトはビクッと体を震わせ、フィンを抱きしめる力が強くなった。
「……」
「ご、ごめんね、言いたくなかったらいいんだよ?ごめんね……」
情緒が安定しないリヒトに、フィンは慌てて声をかけて強く抱きしめ返す。
「……フィンが」
「うん?」
「フィンが殺される夢を見た」
リヒトは消え入りそうな声でフィンにそれを伝えると、フィンは目を見開いた。
「ぼ、僕が殺された……?」
まさか、夢でここまで落ち込むなんてと思っていたフィンは、その内容が自分自身に関係すると知って驚く。
「ああ。俺は助けられなかった。頭から離れないんだ、あの光景が」
リヒトはギュッとフィンを抱き締めたまま、かなり落ち込んでいる様子で小さく返事をする。
フィンは宥めるようにリヒトの背中を撫で続け、元気付けるためにニッと笑みを浮かべて口を開いた。
「リヒト、それって吉夢だよ!」
フィンがリヒトを見上げて満面の笑みを見せると、リヒトは面食らった表情をし首を傾げる。
先程までの重い雰囲気が一変し、リヒトはすっかりフィンのペースで感情がコロッと変わり、吉夢について気になっている様子でフィンを見つめた。
「……吉夢?それはなに?」
「夢占いってしってる?」
「その単語は知っているけど、内容までは詳しくは知らないな」
リヒトは、普段聞くことも話すこともないようなジャンルの話に、目を丸くする。
「孤児院にいた頃ね、夢占いの本を読んだんだー!確かね、“恋人が殺される夢“は、そのひとが幸運になるんだって」
「幸運に……?」
「そう。だからありがとう、リヒト。僕は幸運になるんだよー!」
フィンがそう言ってぎゅーっとリヒトを強く抱きしめると、何かに気付いたようなハッとした顔でリヒトを見上げる。
「あ!でも、そもそも僕って幸運だ……!リヒトに出会ってるもんね」
「…………!」
フィンは照れ笑いを浮かべながら、目を細め愛らしい表情でリヒトを見つめる。
リヒトは先程までの落ち込んだ気持ちが一気に晴れたことに気付き、ぷはっと笑みを見せた。
「フィンはほんと、俺を喜ばせる天才だな」
リヒトがいつものように笑みを見せたため、フィンは嬉しそうにはにかみリヒトの胸元に顔を埋め強く抱きしめる。
「リヒトだーいすき」
「……俺の方が大好き」
リヒトはフィンの髪にちゅっとキスをし、優しく耳を摘む。フィンはくすぐったそうに声を出して笑い、リヒトはその笑い声で幸福感に包まれた。
「(俺が首を切ったことは内緒にしよう……)」
そして、リヒトはふと思う。フィンは自分が思っているほど弱くはない。そして自分も、あの場面でフィンを殺される程頭が悪くないと。
「(あの場面、腕を瞬時に凍らせらればば避けれたな……いや、そもそも正面突破が頭悪いな。裏をつけたはずだ。なぜ俺は冷静になれなかった……?)」
うーんと考え込む様子のリヒトに、フィンは首を傾げ見上げた。
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