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一年生・夏の章
愛の証④
しおりを挟む「こんな魔法具、見たことない……無闇に使うと騒ぎになっちゃいそう」
「ははっ。魔力貸借と魔力強化以外は、緊急用だと思って」
フィンはリヒトが書いた紙を眺めながら驚きを隠せない表情を浮かべ、コクリと頷く。
「魔石自体が特殊だから成せる道具だ、イザックが恋人に付けさせたのと同じように、俺も君につけて欲しい」
「で、でも、僕にこんなすごい腕輪って必要なの!?きっとリヒトの方がお仕事で使うんじゃ」
「俺は腕輪がなくても自分を守れる」
フィンは目を丸くし「あ、そっか」と言って俯く。
「この先、なにが起こるか分からないからね。漠然とした不安を少しでも取り除きたい。大魔法師の俺と一緒にいるだけで、何か嫌な目に合うこともあるかもしれないから」
「……そうなの、かな?」
「うん。それに、フィンは可愛いから襲われる可能性も十分にあ……」
「それはないよ!?」
フィンは食い気味に首を横に振ってそれを否定するが、リヒトははぁ、と軽くため息を吐いてフィンを抱き締める。
「……王都は煌びやかだが、数が多い分犯罪も多い。他国から誘拐された者もいるんだ。特に、君が大魔法師の恋人と分かれば、誘拐して交渉材料にされる危険もあるよ」
「交渉材料……?」
「俺は他国からすれば脅威でしかない。他の国にも大魔法師はいるにも関わらず、だ。昔、俺を奪おうと王に交渉を持ちかけた国もあるらしい」
リヒトは昔の話を思い出すと、眉間に皺を寄せて冷たい表情をする。
「そうだったの……!?リヒトが取られちゃうかもだったの?」
フィンは不安げに瞳を揺らした。
「もちろん拒否したよ。王族だって黙っていないからね。魔法大国がそんなあっさりやられるはずもないし(本当は俺の先制攻撃で黙らせたが)」
「そっかぁ。リヒトは人気者だね。みんながリヒトを欲しがってる」
「俺は君のものだよ。もっと欲しがってくれてもいい」
「う、うん……」
フィンは少し照れたようにふにゃっと笑みを浮かべると、リヒトはその表情を見て目を細めながら愛おしそうに頬を撫でる。
「君が万が一人質になったら、考えただけで気が狂いそうだ」
フィンは後ろから抱き締められているため表情は見てないが、その深刻な声色を聞いてピクッと体を震わせた。
「陵辱だってされる危険もある。これだけ可愛いんだからね」
知らない誰かに犯される想像をしたフィンは、ゾッとした表情をし俯く。
「でも、俺は我儘だ。本当に君を思うなら、危険に晒さないように離れるべきなのに、俺はどうしても君を手放したくない。誰かの手に渡るなんて絶対に許せないんだ」
リヒトはフィンを持ち上げ自分の方へ向かせるように膝に座らせると、独占欲を露わにしながらフィンを見つめ、細い首筋に唇を這わせて軽く噛み付いた。
「っ!」
フィンはビクッと身体を震わせ目を潤ませる。
「その代わり、俺は君を絶対に守るよ。たとえ君が自分の意思でどこかへ逃げたって、俺は追いかける」
リヒトの目には、揺るぎない狂気にも似た強い愛情が宿っており、フィンは心臓の鼓動が早くなるのを感じながらゴクっと唾を飲んだ。
本人は逃げる気は全く無いのだが、一瞬逃げることを想像し、捕まった後のリヒトの行動を想像するとゾクっと背筋を震わせる。
フィンをベッドに繋いで、一歩も部屋から出さず、昼夜問わず色々な方法で犯し尽くし愛情を植え付けていくのであろう。
フィンは勝手に想像して顔を赤らめると、何となく考えていることが分かったリヒトは少し笑みを浮かべフィンの頬を舐めた。
「逃げようとしても縛って何処にも行かせない。俺を嫌いになったって、俺は君を手放さない。分かってはいると思うけどね」
リヒトはフィンの長い睫毛を指でなぞると、フィンは目を細める。
「じゃあ、リヒトが逃げたら、僕だって追いかけるよ!」
フィンは仕返しとばかりにリヒトの首を軽く噛むと、リヒトは予想外のフィンの行動に目を見開いた。
「それは面白そうだ、逃げてみようかな」
フィンはリヒトから冗談混じりでそう言われると、少し考えてから思い切ってリヒトに抱き付く。
「はーい、つかまえたー!」
フィンは無邪気に笑いながらそう言って強く抱きしめると、リヒトは目を細め幸せそうに笑みを浮かべる。
「……あー、これは、永遠に逃げられないな。というより逃げたくない」
リヒトは嬉しそうな声色でそう言って、黙ってフィンに抱き締められる。
「じゃー僕の勝ち?」
フィンはすりすりとリヒトに頬擦りをして笑みを見せると、頬にキスをして愛くるしい表情でリヒトを見つめた。
純粋で濁りのない美しい瞳が、リヒトを映して離さない。
「……うん。俺の圧倒的敗北。この世で俺に勝てるのは君だけかな」
リヒトはフィンを抱き上げて執務室を出ると、すぐにベッドにフィンを押し倒し手首を抑えつけて見下ろす。
綺麗で純粋な瞳が、自分の手によって快楽に染まっていく様子を想像したリヒトは、ゾクっとしながら興奮した表情を浮かべる。
「可愛い……」
リヒトは心の底から込み上げる愛おしい感情を言葉に乗せ、フィンを見つめる。
「あ、あの」
リヒトの表情と声色で、これから何をされるのか察しがついたフィンは、一気に顔を赤くしてリヒトから目を逸らし、体に熱を持ち始めた。
「察しがいいね」
リヒトは口角を上げて目を細めると、美しい笑みを浮かべてフィンの耳元に唇を近付ける。
「……つかまえた」
その言葉を最後に、フィンはリヒトから意識が飛ぶまで大量の愛を注がれるのであった。
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