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一年生・春の章

ミスティルティン魔法図書館へようこそ!④

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「フィンがそう言うなら、もう何も言わないよ」


 リヒトはニコッと笑みを浮かべフィンの頭を撫でると、フィンは満面の笑みを浮かべた。


「(助かった……ていうかこの子何者だ!?館長にタメ口だし、なんか気に入られている感じ……だよなぁ)」


 ルークはホッと胸を撫で下ろし、二人のやり取りを見ながら立ち上がる。


「フィン・ステラさん、初めまして。私がこのエリアDを統括しているエリア長・タバサ・エバンズよ!」


 タバサはフィンに手を差し出すと、フィンはにこぉーっと笑みを浮かべてその手を握った。


「よろしくお願いします!」


 フィンが元気よく挨拶をすると、タバサはあまりの可愛さにキュンっと心臓が締め付けられる感覚に陥る。



「(かわいいっ……!!!)」

「?」


 フィンは悶えているタバサを見ると、不思議そうに首を傾げたため、タバサはハッとした表情になり慌てて口を開く。



「手違いで失礼があってごめんなさいね、何をしていた所だったのかしら?」

「返却図書を元の場所に戻してました」


 フィンはカートを指差し、既に何十冊もの本を戻してきたことを話すと、タバサは目を見開く。



「あら。ルーク、貴方ちゃんと着いて行ったの?」



 タバサはルークをギロッと睨み問い詰める。


「い、いえ……エリアの説明書は渡したんですが、すぐ覚えたみたいで任せました」

「いきなり任せるなんて、随分とスパルタね」


 タバサはルークに近付くと、耳打ちするように近付き口を開く。


「ここは天下のミスティルティンよ!?こんな広い図書館をそんなすぐに覚えられる?」


 タバサはコソッとルークに問いかけると、ルークは首を左右に振る。


「いや、俺も心配で最初はちょっと後ろから見てたんっスよ。でも一回も迷わずやってたんで、相当自信があるかと」


 ルークはたらーっと冷や汗をかきながら目を逸らし言うと、タバサは訝しげに睨みすぐに笑顔でフィンとリヒトに向き直る。



「ステラさん、申し訳ないのだけど、もう一回、このカートの返却図書を返しに行ってもらえるかしら?私もついていくわ」

「分かりました!」


 フィンは笑顔でカートを押すと、その後ろをリヒトタバサ、そしてルークとローザもついて行くことになった。
 フィンはカートを押しながら、杖を出してカート内の本のタイトルと印字された番号を暗記すると、全てを整理して受付から最も遠いエリアに移動した。


「(効率良し)」


 タバサは大きく頷く。


「D-a45、D-a83、D-a102」


  フィンは最初の目的地“精霊図鑑”のエリアに辿り着くと、杖を取り出し印字番号を口にして正確な場所に本を収納する。


「あれ?」


 フィンはある一冊に目が止まり、後ろの印字番号を見る。


「これ、魔物図鑑なのに精霊図鑑D-a144の印字がされてます。どうしてですか?」


 フィンは一冊の本をタバサに手渡すと、タバサはルークを睨む。


「あら……?これ、新作よね。そもそも新作は新作の印字をして1ヶ月間はその棚に置かなければならないの。で、ルーク。貴方新作の担当だったわね」


 ルークはビクッと肩を震わせまたもや冷や汗を垂らす。


「すみませんでした」


 タバサは鬼の形相でルークを睨むも、フィンが眉を下げ慌てた表情をしたため、タバサはスッと怒りを収めた。


「(怒りっぽいのよね私……落ち着け落ち着け)」


 その後も順調に返却図書を片付けていったフィンは、滞りなく仕事を終わらせる。



「完璧よステラさん!細かい棚の位置まで覚えてるのね、結構最初は苦戦するのだけど」

「フィンはそのうち、タイトルを聞くだけで印字番号が出てくるようになる。むしろここに収納されている本のリストを見せたら早いかもな」


 リヒトがそう伝えると、タバサは顔を引きつらせる。
 後ろにいたルークとローザは驚きの表情を浮かべた。


「リストならありますけど、そんな芸当が本当に……?」


 タバサはチラッとフィンを見ると、フィンはふにゃっと笑みを見せて頷く。


「で、では試しに小説のD-j1から50のリストを見せます。タイトルを言ったら印字番号を教えてください!」



 タバサはポケットに入れていた縦長のリストをフィンに手渡すと、フィンは集中して目を動かし瞬時に記憶する。
 一分ぐらい経つと、フィンはその紙をタバサに返した。


「はい、覚えました」


 フィンは笑顔を浮かべる。


「は、早い!じゃあ、そうね、“南の国の吟遊詩人と猫”は?」

「D-j36です」

「せ、正解」


 タバサが狼狽えた表情を浮かべると、リヒトはフッと口角を上げた。


「“ごめんなさい神様”」

「D-j8です」

「“王子と精霊は恋をした”」

「D-j49です」



 ルークとローザは唖然とした表情でその様子を見ている。


「俺……もう1年働いてるのにあんなの出来ないわ」


 ルークは砂になって消えたい気持ちになっているのか、遠い目をしている。


「あの……私本当にここで働いていいんでしょうか」


 ローザはすっかり自身を無くし、目を潤ませていた。


 
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