32 / 318
一年生・春の章
ミスティルティン魔法図書館へようこそ!④
しおりを挟む「フィンがそう言うなら、もう何も言わないよ」
リヒトはニコッと笑みを浮かべフィンの頭を撫でると、フィンは満面の笑みを浮かべた。
「(助かった……ていうかこの子何者だ!?館長にタメ口だし、なんか気に入られている感じ……だよなぁ)」
ルークはホッと胸を撫で下ろし、二人のやり取りを見ながら立ち上がる。
「フィン・ステラさん、初めまして。私がこのエリアDを統括しているエリア長・タバサ・エバンズよ!」
タバサはフィンに手を差し出すと、フィンはにこぉーっと笑みを浮かべてその手を握った。
「よろしくお願いします!」
フィンが元気よく挨拶をすると、タバサはあまりの可愛さにキュンっと心臓が締め付けられる感覚に陥る。
「(かわいいっ……!!!)」
「?」
フィンは悶えているタバサを見ると、不思議そうに首を傾げたため、タバサはハッとした表情になり慌てて口を開く。
「手違いで失礼があってごめんなさいね、何をしていた所だったのかしら?」
「返却図書を元の場所に戻してました」
フィンはカートを指差し、既に何十冊もの本を戻してきたことを話すと、タバサは目を見開く。
「あら。ルーク、貴方ちゃんと着いて行ったの?」
タバサはルークをギロッと睨み問い詰める。
「い、いえ……エリアの説明書は渡したんですが、すぐ覚えたみたいで任せました」
「いきなり任せるなんて、随分とスパルタね」
タバサはルークに近付くと、耳打ちするように近付き口を開く。
「ここは天下のミスティルティンよ!?こんな広い図書館をそんなすぐに覚えられる?」
タバサはコソッとルークに問いかけると、ルークは首を左右に振る。
「いや、俺も心配で最初はちょっと後ろから見てたんっスよ。でも一回も迷わずやってたんで、相当自信があるかと」
ルークはたらーっと冷や汗をかきながら目を逸らし言うと、タバサは訝しげに睨みすぐに笑顔でフィンとリヒトに向き直る。
「ステラさん、申し訳ないのだけど、もう一回、このカートの返却図書を返しに行ってもらえるかしら?私もついていくわ」
「分かりました!」
フィンは笑顔でカートを押すと、その後ろをリヒトタバサ、そしてルークとローザもついて行くことになった。
フィンはカートを押しながら、杖を出してカート内の本のタイトルと印字された番号を暗記すると、全てを整理して受付から最も遠いエリアに移動した。
「(効率良し)」
タバサは大きく頷く。
「D-a45、D-a83、D-a102」
フィンは最初の目的地“精霊図鑑”のエリアに辿り着くと、杖を取り出し印字番号を口にして正確な場所に本を収納する。
「あれ?」
フィンはある一冊に目が止まり、後ろの印字番号を見る。
「これ、魔物図鑑なのに精霊図鑑D-a144の印字がされてます。どうしてですか?」
フィンは一冊の本をタバサに手渡すと、タバサはルークを睨む。
「あら……?これ、新作よね。そもそも新作は新作の印字をして1ヶ月間はその棚に置かなければならないの。で、ルーク。貴方新作の担当だったわね」
ルークはビクッと肩を震わせまたもや冷や汗を垂らす。
「すみませんでした」
タバサは鬼の形相でルークを睨むも、フィンが眉を下げ慌てた表情をしたため、タバサはスッと怒りを収めた。
「(怒りっぽいのよね私……落ち着け落ち着け)」
その後も順調に返却図書を片付けていったフィンは、滞りなく仕事を終わらせる。
「完璧よステラさん!細かい棚の位置まで覚えてるのね、結構最初は苦戦するのだけど」
「フィンはそのうち、タイトルを聞くだけで印字番号が出てくるようになる。むしろここに収納されている本のリストを見せたら早いかもな」
リヒトがそう伝えると、タバサは顔を引きつらせる。
後ろにいたルークとローザは驚きの表情を浮かべた。
「リストならありますけど、そんな芸当が本当に……?」
タバサはチラッとフィンを見ると、フィンはふにゃっと笑みを見せて頷く。
「で、では試しに小説のD-j1から50のリストを見せます。タイトルを言ったら印字番号を教えてください!」
タバサはポケットに入れていた縦長のリストをフィンに手渡すと、フィンは集中して目を動かし瞬時に記憶する。
一分ぐらい経つと、フィンはその紙をタバサに返した。
「はい、覚えました」
フィンは笑顔を浮かべる。
「は、早い!じゃあ、そうね、“南の国の吟遊詩人と猫”は?」
「D-j36です」
「せ、正解」
タバサが狼狽えた表情を浮かべると、リヒトはフッと口角を上げた。
「“ごめんなさい神様”」
「D-j8です」
「“王子と精霊は恋をした”」
「D-j49です」
ルークとローザは唖然とした表情でその様子を見ている。
「俺……もう1年働いてるのにあんなの出来ないわ」
ルークは砂になって消えたい気持ちになっているのか、遠い目をしている。
「あの……私本当にここで働いていいんでしょうか」
ローザはすっかり自身を無くし、目を潤ませていた。
255
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる