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一年生・春の章
ミスティルティン魔法図書館へようこそ!③
しおりを挟む一方、リヒトは客の対応をしていたタバサを見つけると、頃合いを見計らい声をかけた。
「D、探したぞ」
ミスティルティン魔法図書館では、館長は昔から各エリア長をエリアの名前で呼ぶ風習があるため、タバサを“D”と呼んでいる。
「しゅしゅしゅしゅシュヴァリエ館長ぉぉぉ!?」
ミスティルティン魔法図書館の制服を見に纏う彼女は、重ためのボブヘアーを乱しながら驚く。
「驚きすぎだ」
リヒトは真顔でタバサを見下ろすと、深き被ったフードを脱ぎ顔を見せた。
「ああ!相変わらず麗しい出立ちですこと!こちらにいらっしゃるなんて驚きです」
「例のバイトの件、急だが顔合わせをしたくてな。今日は説明と体験程度で済ませて、来週からここで働いて貰おうと思うのだが。週に一回5時間程度で頼む」
「もちろん、館長が連れてこられる方であれば大歓迎ですよ!」
タバサは親指をグッと立てて笑みを見せると、リヒトは柔らかく笑みを浮かべる。
「ありがとう」
「へ!?(館長がこんなに優しい笑みを浮かべるなんて!!!)」
未だかつて見たことのないリヒトの柔らかい笑みに驚いたタバサは、思わず素っ頓狂な声をあげる。
「なんだ」
「なななんんでもございませーん!」
リヒトは首を傾げながら真顔でタバサを見下ろすと、タバサは首を横に振った。
「エリア管理室の中で待たせているから、一緒に来てもらえるか」
「喜んで!」
二人は足早にエリア管理室へ向かい、フィンがいるはずの部屋に入るが、そこはもぬけの殻だった。
「「…………」」
タバサは目を丸くし、リヒトを見上げる。リヒトは困った表情を浮かべ、「まったく、困った子だよ」と呟くと踵を返した。
「エリアDの中にはいるはずだ、探そう」
「はい!二手に分かれましょうか?エリアDはとんでもなく広いので……」
「ああ、そうしよう。見つけたらエリア管理室に戻ってくれ」
「ちなみに、どんな見た目でしょうか?」
「とにかく可愛……いや、そうだな、背は160ちょっとぐらいで、茶色の髪と茶色の瞳。目はぱっちり二重で、女性に間違えられることがある見た目だ。ここの制服を着させているからすぐに分かると思う」
「(可愛……?)ふむふむ、分かりました。急ぎ探します!」
「頼んだ」
リヒトとタバサはそれぞれ二手に分かれフィンの捜索を開始した。
-------------------------------
「これ、一番上の棚かぁ」
ミスティルティン魔法図書館は天井ギリギリまで本棚があり、魔法で出し入れをすることが普通のようで、周囲を見ても誰もが杖を取り出して目的の書籍を取り出していた。
フィンは杖を取り出すと、本に浮遊魔法をかけて目的の場所に本を戻していく。
カートにあった最後の本を戻すと、フィンはルークの所に戻った。
「ルークさん、戻りました!」
「おお、早いな。次はこれ頼めるか?」
「はい!」
ルークは別のカートを差し出すと、フィンは笑顔でそれを受けとり頷く。
しかし、フィンの背後に現れた怒りの形相の銀髪ハイエルフに気付いたルークは、一気に青ざめた表情を浮かべた。
「しゅ、シュヴァリエ館長……?え?」
ルークの言葉に、フィンは慌てて振り返りリヒトを見上げる。
「リヒト!」
「フィン、なにしてるの」
リヒトは心配した顔でフィンを見下ろすとむにーっと頬を摘む。
「新人のお仕事をしていました……」
リヒトの後ろから慌ててやってきたタバサは、瞬時に状況を理解しルークの姿を見かけると思い切り頭を叩く。
「ちょっとルーク!あんた新人の教育担当でしょ!何してんのよ!」
「えぇ!?この子新人っスよね?見たことないし!」
ルークは涙目で頭を押さえ床にしゃがみ込む。
「この子は来週から!フィン・ステラさんっていうの。アンタが探してたのはローザ・モリス、女の子でしょー!?」
タバサは後ろで気まずそうに笑みを浮かべるツインテールの女性を指差し、状況が理解できたルークはガックリと項垂れた。
「マジか……君、男の子だったんだね」
ルークは頬をポリポリと掻き申し訳なさそうにフィンを見ると、リヒトがじとっとした目でルークを見下ろす。
「仕事熱心はいいが、名前ぐらいは確認してから連れて行くんだな」
リヒトの冷たい声色に、ルークは冷や汗をダラダラと垂らしながら頷く。
「申し訳御座いませんでした……」
ルークはペコっと深くお辞儀をし、消え入りそうな声で謝罪をした。
「り、リヒト!僕も勘違いしちゃって、何も言わずについてっちゃったんだ!ルークさんは悪くないよ」
フィンはしょぼんとした顔でルークを庇うと、リヒトはふぅーっと軽く息を吐いて表情を和らげる。
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