30 / 318
一年生・春の章
ミスティルティン魔法図書館へようこそ!②
しおりを挟むレベルDの扉を潜った二人。
リヒトは真っ先にエリア管理室へと足を運び、警備兵に顔を見せる。
「シュヴァリエ館長!お通りください!」
警備兵は敬礼をした後、レベルDの本に気を取られて少し遅れたフィンがリヒトの後ろを追いかけてエリア管理室に入ろうとしたため、その行手を阻む。
「何者だ。ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ」
「(どうしよう!)」
フィンは何かを言おうとしたが、冷たい眼をしたリヒトが警備兵の肩を後ろから掴み、恐ろしいぐらいに冷たい表情を浮かべながら睨みつけたため、フィンはあちゃーといった表情で警備兵を見上げた。
「ヒッ」
警備兵はガタガタと足を震わせたため、リヒトはそれ以上何も言わずフィンの手を引いてエリア管理室へと入っていく。
フィンは少し振り返り、申し訳なさそうに笑ってペコっとお辞儀をすると、警備兵は敬礼をした。
「……し、失礼致しました(シュヴァリエ館長の連れだったのか)」
警備兵はガックリと項垂れながら定位置に戻る。
「妖精のように可愛い子だったな」
ぼそっと呟いた警備兵だったが、リヒトの冷ややかな瞳を思い出し身震いをするのであった。
------------------------------
「フィン、エリア長が見つからない。すまないが、ここら辺で待っていてもらえるか?」
レベルDエリアのエリア長であるタバサ・エバンズが見つからないため、リヒトは一度館内を捜索するべく、フィンを来客の椅子に座らせた。
「わかった!」
フィンは大人しくちょこんと座り、にこーっと笑みを浮かべる。
「……勝手に違うところ行ったらだめだよ?」
リヒトはフィンの性格を分かっているため、釘を刺すそうにそう言うと、フィンはたらーっと汗をかいた。
「わかったよう」
「いい子」
フィンが慌てた表情でそう言うと、リヒトは軽く笑みを浮かべてフィンの頭を撫でその場を離れた。
しばらくすると、ミスティルティンの制服を着たエルフが慌ただしく部屋に入ってくる。前髪をピンで留めたポンパドールショートの男性で、制服には名札がついており、“ルーク・ベイカー”と書いてあった。
「あー!お前が今日から配属の新人か?こんなとこにいたんだな。ボサッとしてないで働くぞ!」
「へ?」
ルークはフィンを見かけると、慌ててその手を取り、小走りでエリア管理室を出る。
「???????」
フィンは何が何だか分からず、されるがまま引きずられ困った表情を浮かべた。
「(リヒトが話をしたからすぐに体験で働くことになったのかな?でもリヒトには待っててって言われたけど、いいのかなあ?)」
そんなこんなで、たくさん積み上がったレベルDの返却図書の前についた二人。
「よし、これがお前の初仕事だ。この返却図書は既に返却処理も終わっている。これを元あった場所に戻してこい。出来るな?」
「は、はい」
フィンはルークの勢いに負け頷いてしまう。
「本の後ろに整頓番号が印字されてる。ちなみに、最初だしこれを見ながらでいいぞ」
ルークはフィンに一枚の見開きになった大きめの紙を渡すと、フィンはそれをペラっと開いた。中は各書物の整頓場所が書かれており、フィンはそれを集中して眺める。
「(児童書はこっちで、小説はこっち……)」
フィンは紙を閉じるとルークに返し笑みを浮かべる。
「?おい、別に見ながらでいいぞ」
「覚えたんで大丈夫です。行ってきます」
フィンは返却図書が入ったカートを押すと、笑顔でその場を去っていく。
「随分と有能な新人だな。もうエリア長が研修させてたのか?」
ルークはポリポリと頬を掻きながら、自分の仕事に戻っていった。
258
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる