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一年生・春の章

ミスティルティン魔法図書館へようこそ!②

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 レベルDの扉を潜った二人。
 リヒトは真っ先にエリア管理室へと足を運び、警備兵に顔を見せる。


「シュヴァリエ館長!お通りください!」


 警備兵は敬礼をした後、レベルDの本に気を取られて少し遅れたフィンがリヒトの後ろを追いかけてエリア管理室に入ろうとしたため、その行手を阻む。


「何者だ。ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ」

「(どうしよう!)」


 フィンは何かを言おうとしたが、冷たい眼をしたリヒトが警備兵の肩を後ろから掴み、恐ろしいぐらいに冷たい表情を浮かべながら睨みつけたため、フィンはあちゃーといった表情で警備兵を見上げた。


「ヒッ」


 警備兵はガタガタと足を震わせたため、リヒトはそれ以上何も言わずフィンの手を引いてエリア管理室へと入っていく。
 フィンは少し振り返り、申し訳なさそうに笑ってペコっとお辞儀をすると、警備兵は敬礼をした。


「……し、失礼致しました(シュヴァリエ館長の連れだったのか)」


 警備兵はガックリと項垂れながら定位置に戻る。


「妖精のように可愛い子だったな」


 ぼそっと呟いた警備兵だったが、リヒトの冷ややかな瞳を思い出し身震いをするのであった。






------------------------------





「フィン、エリア長が見つからない。すまないが、ここら辺で待っていてもらえるか?」


 レベルDエリアのエリア長であるタバサ・エバンズが見つからないため、リヒトは一度館内を捜索するべく、フィンを来客の椅子に座らせた。


「わかった!」


 フィンは大人しくちょこんと座り、にこーっと笑みを浮かべる。


「……勝手に違うところ行ったらだめだよ?」


 リヒトはフィンの性格を分かっているため、釘を刺すそうにそう言うと、フィンはたらーっと汗をかいた。


「わかったよう」

「いい子」


 フィンが慌てた表情でそう言うと、リヒトは軽く笑みを浮かべてフィンの頭を撫でその場を離れた。


 しばらくすると、ミスティルティンの制服を着たエルフが慌ただしく部屋に入ってくる。前髪をピンで留めたポンパドールショートの男性で、制服には名札がついており、“ルーク・ベイカー”と書いてあった。



「あー!お前が今日から配属の新人か?こんなとこにいたんだな。ボサッとしてないで働くぞ!」

「へ?」


 ルークはフィンを見かけると、慌ててその手を取り、小走りでエリア管理室を出る。


「???????」


 フィンは何が何だか分からず、されるがまま引きずられ困った表情を浮かべた。


「(リヒトが話をしたからすぐに体験で働くことになったのかな?でもリヒトには待っててって言われたけど、いいのかなあ?)」


 そんなこんなで、たくさん積み上がったレベルDの返却図書の前についた二人。



「よし、これがお前の初仕事だ。この返却図書は既に返却処理も終わっている。これを元あった場所に戻してこい。出来るな?」

「は、はい」


 フィンはルークの勢いに負け頷いてしまう。


「本の後ろに整頓番号が印字されてる。ちなみに、最初だしこれを見ながらでいいぞ」


 ルークはフィンに一枚の見開きになった大きめの紙を渡すと、フィンはそれをペラっと開いた。中は各書物の整頓場所が書かれており、フィンはそれを集中して眺める。


「(児童書はこっちで、小説はこっち……)」


 フィンは紙を閉じるとルークに返し笑みを浮かべる。


「?おい、別に見ながらでいいぞ」

「覚えたんで大丈夫です。行ってきます」


 フィンは返却図書が入ったカートを押すと、笑顔でその場を去っていく。



「随分と有能な新人だな。もうエリア長が研修させてたのか?」


 ルークはポリポリと頬を掻きながら、自分の仕事に戻っていった。
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