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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
灼熱地獄(インフェルノ)①
しおりを挟む『制限時間は30分です!それでは灼熱地獄、開始の合図をお願いしまぁーす!』
開始の号令とともに鳴り響く合図。観客の歓声の中、ルイは一人目を閉じる。
「先手必勝!」
ガーネットは早速杖を振ってルイに強烈な火の魔法を何度も浴びせるが、ルイはそれを避けることなく軽々と杖を振って完全に消し去る。
「完全相殺……」
完全相殺は、相手の魔力と同等レベルの魔法をぶつけなければ怒らないテクニックのいる技だが、ルイは簡単にガーネットの魔力を見極めてそれを全て相殺させたため、会場は感心するように声を出した。
後方でその様子を見ていたキランは口笛を吹いて笑みを浮かべる。
「さっすが、噂どーりの秀才だ。ありゃセンスだけじゃ無理だ、努力が見えるねぇ」
キランは自ら背負う蝋燭をチラッと眺めて考える。
灼熱地獄で使用する蝋燭の形状は背中に背負うタイプで、平等性を保つためにサイズは均等となっている。火と火の魔力に対して過剰に反応しやすい蝋燭で、従来の物とは違って溶けても液体になる事はなく昇華する。
「自分の魔力で溶けないように、自分が出す魔力は最大限に火の魔力を抑える必要があるな。そしてそれはオレの得意分野だ」
キランは剣を持ってルイとガーネットに向けると、一文字の形に一度大きく振った。側から見ればただ剣を振るっただけにしか見えないが、その一文字は確実にルイとガーネットに向かっていく。
「!?」
ルイは寸前でそれに気付くと、その瞬間に一文字は火を吹いて大量の火の魔力が放出された。
「(遠距離で魔力を火に変えやがった、相殺の判断がつかねーな)」
ルイは慌てて相殺させようとしたが遅く、自身に火が当たらないように火の魔法を当てることに専念し後ろへ下がった。
ガーネットは炎の爆弾の爆風でそれを退けたが、代わりに自身の蝋燭が五分の一ほど昇華した事に気付き歯を食いしばる。
「ちょっと!邪魔しないでよね!」
ガーネットがそう言い放ちキランに襲い掛かろうと走るが、キランは剣の先を地面に刺して笑みを浮かべる。
「おっと。それなら邪魔しないからやり合ってくれ」
キランは目を光らせと、剣に魔力を込め始める。
「太陽の天険」
キランの詠唱に反応した剣は赤く反応し、自身とルイ達を隔てるようにして地面が割れ一気に炎の壁が出来上がる。
ガーネットはピタッと立ち止まり、その壮大な炎の壁を前にして何もできずに目を見開いた。
「近づいたら溶けるじゃない。これを消すんじゃ自分の蝋燭が持たないわね」
ガーネットは顔を引き攣らせ、炎の壁から湧き出る火の魔力を感じ後退りをする。
「炎の神子様、貴方は強いが、蝋燭を守りながら戦うのは苦手でしょう?」
炎の壁の向こうから、キランが余裕そうな声色でそう投げかける。ガーネットは悔しそうに表情を歪ませると、ルイに向き直って杖を向けた。
「ふんっ、あんなのは後よ。お言葉に甘えて殺り合おうじゃないの」
ガーネットは勝気な笑みを浮かべて目を光らせると、ルイは特に表情を崩さず杖を準備する。
「この競技じゃ、お前の強さは伝わりにくいだろうな。どうやって勝つつもりだ」
ルイがそう呟くと、ガーネットは眉を顰める。
「お前は本来、炎の神子をその身に宿して戦うことができる。だがそんなことをしたら、その蝋燭は一瞬で消え去るだろ?」
「どいつもこいつも、アタシがただ炎をがむしゃらに出して勝とうとする馬鹿だと思ってるわけ。アタシだって無謀な戦いをしに来たわけじゃないわ。ちゃんと努力したんだから」
ガーネットはそう言って杖を振ると、ルイの後ろに魔法陣を出現させる。魔法陣からは瞬時に炎の柱が飛び出し、寸前で避けたルイだったが若干蝋燭が昇華し顔を歪めた。
「(前のガーネットなら、こんなに的確な位置に遠距離で魔法陣を出すなんて出来なかったな)」
勝気な性格のガーネットは、幼少期からルイに会う度に勝負を挑んでは敗北していたことを思い出す。ガーネットはその血筋のせいか炎の魔法しか使うことができず、さまざまな魔法を駆使するルイに勝つことが出来なかった。
しかしこの舞台は火属性のみしか使えない絶好の機会。ガーネットは笑みを浮かべる。
「単純にプロメテウスで戦えば貴方死んじゃうもの。蝋燭ぐらいあった方がハンデになるわ」
完全に狂戦士の目をしたガーネットは、よほど勝算があるのか杖を向けたまま笑みを浮かべ続けた。
「蝋燭に感謝する」
ルイは淡々と受け流し、空に向かって杖を向けた。自身の上に魔法陣を展開されたのかと思ったガーネットは、思わず顔を上に向けて確認する。
「下だよ、バーカ」
ルイはべっと舌を出す。
ガーネットは下を見て異変に気付くと慌てて後ろに下がった。しかし移動してもその異変は変わらず、ガーネットはようやく気付く。
「これは、地中放熱!?」
地中放熱は、一気に魔力を送りこむことで、地中に眠る火の元素を活性化させ、火の魔力として一気に地上へと放出させる技となる。
しかしこんなことをすれば自身の蝋燭だって無事では済まない、とガーネットはルイを見るが、ルイは涼しい顔で立っているだけだった。
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