23 / 318
一年生・春の章
不機嫌な先生①
しおりを挟む「何故ついてくる」
先程すれ違ったはずのセオドアが、自分の後ろをついてきていることに気づいたジャスパー。
特に振り返りもせず、足も止めず淡々と質問する。
「んー、せんせーとやっぱ喋りたいなって。久しぶりに」
セオドアはニコッと笑いながら即答したが、ジャスパーは特に何も言わずに職員室のエリアへ入り自分の執務室へ入っていく。セオドアもその後ろをピッタリをくっ付いて執務室に入ると、また前のように椅子を引っ張り、今度はジャスパーの横に持っていきそのまま座った。
ジャスパーはセオドアを一瞥し、顔を顰めながら席につく。
「……話すことなんて無いんだが。いいのか?先程のハイエルフは」
ジャスパーは眉間に皺を寄せてそう告げると、セオドアはキョトンとした顔を浮かべる。
「(ルイのことか?)んー?全然大丈夫だよ、どうせまた来週会えるし。せんせーなんか今日機嫌悪い?」
セオドアは肘をつきながら少し笑ってジャスパーを眺める。
「悪くない。いつも通りだ」
ジャスパーは、心のモヤモヤを隠すように顔を顰め書類に目を通し始めるが、ジャスパーはその書類を取り上げて顔を覗き込む。
「ねーせんせ。せんせーってさ、リリアナっちと仲良いの?」
「は?」
ジャスパーは突拍子もないセオドアに質問に少し驚いた顔を見せる。
「いっつも一緒にランチしてんじゃん?さっきの授業もずっといたしー」
「先生を変なあだ名で呼ぶな」
ジャスパーの論点がずれると、セオドアはムッとした表情を浮かべた。
「ねー、仲良いの?」
「……」
眉を顰めるジャスパー。
「お前知らないのか」
「なにがー?」
「義姉だ」
「えっ」
セオドアは目を見開く。
「ミュラー先生は私の一番上の兄と結婚している。本来はレディー・ランベールだが、学校では旧姓を名乗っているだけだ」
「え、え、マジ?」
セオドアは顔を真っ赤にして机に突っ伏す。
「なんだよもー!俺ちょっと嫉妬しちゃったー!」
セオドアは安心したように笑い素直にそう告げると、ジャスパーは目を見開き、セオドアに対する一連のモヤモヤの正体に気付き始めた。
黙っていても誰かが寄ってくる人懐っこさ、そして整った顔立ち。選り取り見取りの家柄で、何一つ不自由のない存在。自分のような無愛想なエルフにまで優しく振る舞う温かさ。そして、あの日に告げられた「好き」という言葉に、戸惑いがあるにしろ、心なしか期待してしまった自分がいた。
気付かれないように、それとなく様子を伺っていた一ヶ月。観察してみると、セオドアは他者へのスキンシップが多く、無意識に愛想を振り撒いている所があり、そんな部分ばかりが目に付いて、どうも苛ついてしまっていたこの不可解な感情。
「(もしかして、私は嫉妬してたのか……?)」
ジャスパーが動揺した表情を浮かべると、セオドアは首を傾げジャスパーの頬にちょんと触れる。
「せんせ、何考えてんの?急に黙んないでよ」
ジャスパーはビクッと身体を震わせ、平然を装い真顔に戻った。
「お前こそ何考えている」
ジャスパーは奪われた書類を取り戻そうとせず、フイっと顔を逸らし質問を返した。
「俺は今せんせーのことしか考えてない」
「……そういうの、誰にでも言っているのか?」
ジャスパーは苛ついた表情でセオドアを睨む。
「言うわけないじゃーん。なんで?」
「お前は見る限り、他者への過度なスキンシップと愛想を振り撒く癖があるからな」
「え」
セオドアは少し頬を赤くしながら目を丸くする。
ジャスパーはしまった、という顔をしたが、時すでに遅し。
「せんせーもしかして、俺のこと結構見てた?」
セオドアの図星な発言に、ジャスパーは少し表情を崩し顔を赤らめる。
「たまたまだ」
ジャスパーの反応に「まじか」と目を見開くセオドアは、嬉しそうにジャスパーの左手を取って、目を見つめながら優しく手の甲にキスをした。
268
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる