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一年生・春の章

不機嫌な先生①

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「何故ついてくる」


 先程すれ違ったはずのセオドアが、自分の後ろをついてきていることに気づいたジャスパー。
 特に振り返りもせず、足も止めず淡々と質問する。



「んー、せんせーとやっぱ喋りたいなって。久しぶりに」


 セオドアはニコッと笑いながら即答したが、ジャスパーは特に何も言わずに職員室のエリアへ入り自分の執務室へ入っていく。セオドアもその後ろをピッタリをくっ付いて執務室に入ると、また前のように椅子を引っ張り、今度はジャスパーの横に持っていきそのまま座った。
 ジャスパーはセオドアを一瞥し、顔を顰めながら席につく。



「……話すことなんて無いんだが。いいのか?先程のハイエルフは」  



 ジャスパーは眉間に皺を寄せてそう告げると、セオドアはキョトンとした顔を浮かべる。



「(ルイのことか?)んー?全然大丈夫だよ、どうせまた来週会えるし。せんせーなんか今日機嫌悪い?」



 セオドアは肘をつきながら少し笑ってジャスパーを眺める。



「悪くない。いつも通りだ」


 ジャスパーは、心のモヤモヤを隠すように顔を顰め書類に目を通し始めるが、ジャスパーはその書類を取り上げて顔を覗き込む。


「ねーせんせ。せんせーってさ、リリアナっちと仲良いの?」

「は?」


 ジャスパーは突拍子もないセオドアに質問に少し驚いた顔を見せる。


「いっつも一緒にランチしてんじゃん?さっきの授業もずっといたしー」

「先生を変なあだ名で呼ぶな」


 ジャスパーの論点がずれると、セオドアはムッとした表情を浮かべた。


「ねー、仲良いの?」

「……」



 眉を顰めるジャスパー。



「お前知らないのか」

「なにがー?」

「義姉だ」

「えっ」


 セオドアは目を見開く。


「ミュラー先生は私の一番上の兄と結婚している。本来はレディー・ランベールだが、学校では旧姓を名乗っているだけだ」

「え、え、マジ?」


 セオドアは顔を真っ赤にして机に突っ伏す。


「なんだよもー!俺ちょっと嫉妬しちゃったー!」


 セオドアは安心したように笑い素直にそう告げると、ジャスパーは目を見開き、セオドアに対する一連のモヤモヤの正体に気付き始めた。

 黙っていても誰かが寄ってくる人懐っこさ、そして整った顔立ち。選り取り見取りの家柄で、何一つ不自由のない存在。自分のような無愛想なエルフにまで優しく振る舞う温かさ。そして、あの日に告げられた「好き」という言葉に、戸惑いがあるにしろ、心なしか期待してしまった自分がいた。

 気付かれないように、それとなく様子を伺っていた一ヶ月。観察してみると、セオドアは他者へのスキンシップが多く、無意識に愛想を振り撒いている所があり、そんな部分ばかりが目に付いて、どうも苛ついてしまっていたこの不可解な感情。



「(もしかして、私は嫉妬してたのか……?)」


 ジャスパーが動揺した表情を浮かべると、セオドアは首を傾げジャスパーの頬にちょんと触れる。


「せんせ、何考えてんの?急に黙んないでよ」


 ジャスパーはビクッと身体を震わせ、平然を装い真顔に戻った。


「お前こそ何考えている」


 ジャスパーは奪われた書類を取り戻そうとせず、フイっと顔を逸らし質問を返した。


「俺は今せんせーのことしか考えてない」

「……そういうの、誰にでも言っているのか?」


 ジャスパーは苛ついた表情でセオドアを睨む。


「言うわけないじゃーん。なんで?」

「お前は見る限り、他者への過度なスキンシップと愛想を振り撒く癖があるからな」

「え」


 セオドアは少し頬を赤くしながら目を丸くする。
 ジャスパーはしまった、という顔をしたが、時すでに遅し。


「せんせーもしかして、俺のこと結構見てた?」


 セオドアの図星な発言に、ジャスパーは少し表情を崩し顔を赤らめる。


「たまたまだ」


 ジャスパーの反応に「まじか」と目を見開くセオドアは、嬉しそうにジャスパーの左手を取って、目を見つめながら優しく手の甲にキスをした。
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