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一年生・春の章

祝福の音が聞こえる①

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 シルフクイーンはフィンの肩から降りると、眩い光を放ち徐々に巨大化していく。



「フィン、ワタシにはワカル。アナタはいつくしむココロがアリ、オオクヲのぞまず、ほかをサゲスムコトをしない。それになにより、イトオシイ。そのジュンスイさが」


 シルフクイーンは鮮やかな花を地上に咲かせながら、さらに芳しい甘い香りを放ち、祈りを捧げるように天を仰ぐと、解読不能な魔法陣を発動させフィンの方へ飛ばした。


「……!?」


 フィンは眩い光の中、瞬きをせず、美しく飛ぶシルフクイーンの真の姿を見つめ、あまりの神々しさに言葉を失う。
 


「シルフクイーンはチカウ。ナンジがこのサキあゆむミチ、タチハダカルいばらを、ワレがとりはらうコトを。コウウンをイノリ、フィン・ステラをイマココでシュクフクしよう」



 シルフクイーンが祝福の言葉を授けた瞬間、フィンの体には、一気にシルフクイーンの魔力が流れ込んでいく。


「うぅっ……!?(全身がピリピリして、熱い!)」


 フィンは初めての感覚に一瞬顔を歪めるも、にこりとシルフクイーンに笑いかけた。


「フィン」


 シルフクイーンはフィンをギュッと抱き締めると、やがて眩い光は消え失せ、祝福の儀式は終わりを迎える。
 周囲に満ちる風の元素エレメントと、シルフクイーンの特殊な魔力。そして鮮やかな花弁が地面に散らばり、その中心にフィンとシルフクイーンが居た。

 ルイとセオドアは魔法陣の範囲外まで飛ばされていたため、地面に座りその様子を眺める。



「光栄です、シルフクイ……」



 フィンは優しい笑みを浮かべシルフクイーンに言葉を並べるも、途中で糸が切れたようにシルフクイーンの胸の中で眠った。



「フィン!」
「フィンちゃん!」


 フィンは最後にルイとセオドアの声を聞き、そのまま意識を失った。
 
 
「ダイジョウブ、ちょっとツカレタだけだ」


 シルフクイーンはフィンをルイに手渡すと、再び手のひらサイズに変わる。


「ニジカンもあればオキル。オマエ、フィンをベッドにハコベ」


 シルフクイーンは偉そうに腕を組みルイに命令をした。


「……分かりました」


 ルイは不本意ながらも、フィンの事は心配なためセオドアと医務室へ連れて行くことにし、ジャスパーとリリアナは副学長に報告へ行くと告げ授業は終わりを告げた。




------------------------------



 フィンが次に起きた時は、学校の医務室だった。


「ん……あれ、僕」


 フィンは寝ぼけ眼でゆっくりと体を起こすと、側には学長のエリオットが何やら手紙を書いており、それを伝書鳩に括り付けているところだった。


「おお、目覚めたか。おめでとうフィン君。シルフクイーンの祝福を賜りし者には、“風”のブローチをあげよう」


 手紙を括り付けられた鳩は、エリオットの命令に従うように一目散に窓の外へ飛んでいく。


「ブローチですか?」


 フィンは既に新入生代表の証を持っているが、どうやらその横に付けるものなのか、妖精の羽をモチーフにした淡い緑のブローチをエリオットから受け取るフィン。


「ああ。風習だよ。秋に行われるエスペランス祭、今年の一年生は“四大元素エレメント”の個人戦がある。本来は色々な審査があるんだが、シルフクイーンからの祝福となれば、一発合格。君は“風”の代表で闘う事になるんだ」


「え、あ、ありがとうございます!よく分かんないですけど、勝てるように頑張りますね」


 フィンは顔を赤くしふにゃっと笑うと、ブローチを眺め嬉しそうに笑った。


「(リヒトに言ったら、喜んでくれるかなあ)」


 本日最後の授業が終了したこと、大きな鐘の音が知らせる。
 その数分後、廊下を慌ただしく走る音が聞こえ、荒々しく医務室の扉が開かれた。



「おーい!大丈夫かフィン!」
「フィンちゃーん!」


 フィンの様子を見にきた二人は、息を切らせ心配そうな表情でフィンに駆け寄り、フィンが目を覚ましていると分かるとホッとした表情を浮かべた。


「大丈夫だよ!来てくれてありがとう!」

「心配した。とりあえずおめでと」


 ルイはくしゃくしゃとフィンの頭を撫でると、セオドアは満面の笑みでフィンの脇腹をくすぐる。


「羨ましいぞこのやろー!」

「あはは!くすぐったいよー!」

「(おー。これはリヒトが見たら嫉妬の嵐だな)」


 エリオットがクスクスと笑みを浮かべると、ようやく副学長がいることに気付いた二人が驚きの表情を浮かべた。



「「副学長!?」」

「どーも。第二位と第三十位、今日も授業お疲れさん」


 個人個人の順位を把握しているエリオットは、ルイとセオドアの順位を呼び笑顔を見せる。


「お前三十位なんだ」


 ルイはセオドアを横目で眺め笑みを浮かべる。


「あぁん?これから爆上がりすんのー」



 セオドアは地団駄を踏みルイへ抗議すると、フィンは可笑しそうに笑みを浮かべた。


「さて、第一位のフィン君。今日は安静にした方がいい。先程、君の後見人に伝書鳩を寄越したところだ」


「え、わざわざ呼んだんですか?一人でも帰れますよ僕……!」


 フィンはリヒトが心配してすっ飛んでくる事を予想し狼狽える。


「魔力のほとんどを使ってシルフクイーンを召喚しただけでも、身体は相当疲弊している。花弁を食べたことでだいぶマシではあるけどね。それに、祝福は規格外の魔力が一気に身体に入り込む。また後で眠くなると思うよ」


 エリオットはトントンとフィンの肩を叩き、軽く息を吐いて笑う。


「よーしそこの二人、フィン君はもう大丈夫だからもう帰れー」


 エリオットは、そろそろリヒトが来る頃だと推測し半ば強引にルイとセオドアを追い出すように背中を押す。


「?……分かりました」


 二人は背中を押され困惑しながらも、フィンに手を振った。


「じゃあな、フィン。また来週」

「ばいばいフィンちゃーん。無理しちゃだめだよー」

「ばいばい!また来週ねー!!」


 フィンは大きく手を振って二人を見送り、エリオットは再びフィンの元へ戻る。



「ところで、俺は重大なミスを犯したよ」

「?」

「リヒトに送った伝書鳩、“フィンが倒れたから迎えにこい”ってだけしか伝えてないわ。誤解してるかも」

「えぇ!?」


 フィンはリヒトが何ふり構わずこちらに向かってくることを予想し、きっとかなり心配するだろうと思うわなわなと震えた。






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