21 / 318
一年生・春の章
祝福の音が聞こえる①
しおりを挟むシルフクイーンはフィンの肩から降りると、眩い光を放ち徐々に巨大化していく。
「フィン、ワタシにはワカル。アナタはいつくしむココロがアリ、オオクヲのぞまず、ほかをサゲスムコトをしない。それになにより、イトオシイ。そのジュンスイさが」
シルフクイーンは鮮やかな花を地上に咲かせながら、さらに芳しい甘い香りを放ち、祈りを捧げるように天を仰ぐと、解読不能な魔法陣を発動させフィンの方へ飛ばした。
「……!?」
フィンは眩い光の中、瞬きをせず、美しく飛ぶシルフクイーンの真の姿を見つめ、あまりの神々しさに言葉を失う。
「シルフクイーンはチカウ。ナンジがこのサキあゆむミチ、タチハダカルいばらを、ワレがとりはらうコトを。コウウンをイノリ、フィン・ステラをイマココでシュクフクしよう」
シルフクイーンが祝福の言葉を授けた瞬間、フィンの体には、一気にシルフクイーンの魔力が流れ込んでいく。
「うぅっ……!?(全身がピリピリして、熱い!)」
フィンは初めての感覚に一瞬顔を歪めるも、にこりとシルフクイーンに笑いかけた。
「フィン」
シルフクイーンはフィンをギュッと抱き締めると、やがて眩い光は消え失せ、祝福の儀式は終わりを迎える。
周囲に満ちる風の元素と、シルフクイーンの特殊な魔力。そして鮮やかな花弁が地面に散らばり、その中心にフィンとシルフクイーンが居た。
ルイとセオドアは魔法陣の範囲外まで飛ばされていたため、地面に座りその様子を眺める。
「光栄です、シルフクイ……」
フィンは優しい笑みを浮かべシルフクイーンに言葉を並べるも、途中で糸が切れたようにシルフクイーンの胸の中で眠った。
「フィン!」
「フィンちゃん!」
フィンは最後にルイとセオドアの声を聞き、そのまま意識を失った。
「ダイジョウブ、ちょっとツカレタだけだ」
シルフクイーンはフィンをルイに手渡すと、再び手のひらサイズに変わる。
「ニジカンもあればオキル。オマエ、フィンをベッドにハコベ」
シルフクイーンは偉そうに腕を組みルイに命令をした。
「……分かりました」
ルイは不本意ながらも、フィンの事は心配なためセオドアと医務室へ連れて行くことにし、ジャスパーとリリアナは副学長に報告へ行くと告げ授業は終わりを告げた。
------------------------------
フィンが次に起きた時は、学校の医務室だった。
「ん……あれ、僕」
フィンは寝ぼけ眼でゆっくりと体を起こすと、側には学長のエリオットが何やら手紙を書いており、それを伝書鳩に括り付けているところだった。
「おお、目覚めたか。おめでとうフィン君。シルフクイーンの祝福を賜りし者には、“風”のブローチをあげよう」
手紙を括り付けられた鳩は、エリオットの命令に従うように一目散に窓の外へ飛んでいく。
「ブローチですか?」
フィンは既に新入生代表の証を持っているが、どうやらその横に付けるものなのか、妖精の羽をモチーフにした淡い緑のブローチをエリオットから受け取るフィン。
「ああ。風習だよ。秋に行われるエスペランス祭、今年の一年生は“四大元素”の個人戦がある。本来は色々な審査があるんだが、シルフクイーンからの祝福となれば、一発合格。君は“風”の代表で闘う事になるんだ」
「え、あ、ありがとうございます!よく分かんないですけど、勝てるように頑張りますね」
フィンは顔を赤くしふにゃっと笑うと、ブローチを眺め嬉しそうに笑った。
「(リヒトに言ったら、喜んでくれるかなあ)」
本日最後の授業が終了したこと、大きな鐘の音が知らせる。
その数分後、廊下を慌ただしく走る音が聞こえ、荒々しく医務室の扉が開かれた。
「おーい!大丈夫かフィン!」
「フィンちゃーん!」
フィンの様子を見にきた二人は、息を切らせ心配そうな表情でフィンに駆け寄り、フィンが目を覚ましていると分かるとホッとした表情を浮かべた。
「大丈夫だよ!来てくれてありがとう!」
「心配した。とりあえずおめでと」
ルイはくしゃくしゃとフィンの頭を撫でると、セオドアは満面の笑みでフィンの脇腹をくすぐる。
「羨ましいぞこのやろー!」
「あはは!くすぐったいよー!」
「(おー。これはリヒトが見たら嫉妬の嵐だな)」
エリオットがクスクスと笑みを浮かべると、ようやく副学長がいることに気付いた二人が驚きの表情を浮かべた。
「「副学長!?」」
「どーも。第二位と第三十位、今日も授業お疲れさん」
個人個人の順位を把握しているエリオットは、ルイとセオドアの順位を呼び笑顔を見せる。
「お前三十位なんだ」
ルイはセオドアを横目で眺め笑みを浮かべる。
「あぁん?これから爆上がりすんのー」
セオドアは地団駄を踏みルイへ抗議すると、フィンは可笑しそうに笑みを浮かべた。
「さて、第一位のフィン君。今日は安静にした方がいい。先程、君の後見人に伝書鳩を寄越したところだ」
「え、わざわざ呼んだんですか?一人でも帰れますよ僕……!」
フィンはリヒトが心配してすっ飛んでくる事を予想し狼狽える。
「魔力のほとんどを使ってシルフクイーンを召喚しただけでも、身体は相当疲弊している。花弁を食べたことでだいぶマシではあるけどね。それに、祝福は規格外の魔力が一気に身体に入り込む。また後で眠くなると思うよ」
エリオットはトントンとフィンの肩を叩き、軽く息を吐いて笑う。
「よーしそこの二人、フィン君はもう大丈夫だからもう帰れー」
エリオットは、そろそろリヒトが来る頃だと推測し半ば強引にルイとセオドアを追い出すように背中を押す。
「?……分かりました」
二人は背中を押され困惑しながらも、フィンに手を振った。
「じゃあな、フィン。また来週」
「ばいばいフィンちゃーん。無理しちゃだめだよー」
「ばいばい!また来週ねー!!」
フィンは大きく手を振って二人を見送り、エリオットは再びフィンの元へ戻る。
「ところで、俺は重大なミスを犯したよ」
「?」
「リヒトに送った伝書鳩、“フィンが倒れたから迎えにこい”ってだけしか伝えてないわ。誤解してるかも」
「えぇ!?」
フィンはリヒトが何ふり構わずこちらに向かってくることを予想し、きっとかなり心配するだろうと思うわなわなと震えた。
294
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる