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一年生・春の章
シルフクイーンの祝福⑤
しおりを挟む「うん、へーき。ルイ君、セオ君ありがとう」
内心はすぐにでも眠りたいぐらいに疲労感が襲っていたが、フィンは心配かけまいと二人に笑顔を見せグッと堪える。
そこにシルフクイーンが近付き、大量の花弁を散らせた。
「ほえ?」
フィンは花弁に包まれ驚くも、瞳には鮮やかな色が占拠していき、次第に美しい物を見た感動の表情を見せる。
「タベテ?」
シルフクイーンはフィンに花弁を手渡すと、フィンは首を傾げる。
「お花を……?」
「ウン。これをタベレバ、ちょっとはヨクナル。ワタシのマリョクでできている」
フィンが魔力切れを起こしている事に気付いていたシルフクイーンは、心配そうにフィンの顔を覗き込んだ。
「ありがとうございます……!」
フィンは花弁を受け取り、おずおずと口にすると、それは口の中でスッと溶け、まるで桃のような味わいが広がり目を見開く。
魔力切れを起こし疲労困憊だった体が徐々に回復していくのを感じたフィンは、パッと顔をあげて笑みを見せた。
「少し楽になりました!……シルフクイーン、優しいんですね」
シルフクイーンはフィンの愛らしい笑顔を見てうっとりすると、満足そうに口角を上げる。
「ダレにでもはヤサシクなんてしない。でも、アナタみたいなカワイイやさしいエルフはダイスキ!」
シルフクイーンはフィンの周りを艶やかに飛ぶと、フィンに魔法をかけてフワッと浮かせる。
「わっ」
「ひさしぶりにコッチにきたよ。フィン、キミってキレイなタマシイね」
「そうなんですか?」
「そう……キラキラしてて、ウツクシイ」
それからも二人は空中で会話を続けていると、授業の終わりの合図である鐘が鳴り響く。
「あっ……!三限目が終わっちゃった。お別れの時間ですね……」
フィンは寂しそうにそう言うと、シルフクイーンも寂しそうな表情を浮かべた。
シルフクイーンはそのままフィンを地上に降ろすと、小さい掌サイズになってフィンの肩に乗りジタバタと足を動かす。
「カエリタクナイ。もうちょっとイルー」
「えぇ!?ちっちゃくなったー!とっても可愛い!」
フィンは驚きの表情を浮かべ、側にいたルイとセオドアも興味深そうに近寄ってその様子を眺めた。
「すげ~ちっちゃくなるんだ」
セオドアがシルフクイーンに顔を寄せて観察すると、シルフクイーンはじとっとした目で見る。
「ナンダオマエは、かわいくない」
「えっ」
セオドアはガーンと落ち込み顔を両手で抑えた。
「うぅ……俺結構モテるのに!」
「ドンマイ、セオドア」
ルイがセオドアを慰めると、シルフクイーンはルイに対してもじとっとした視線を向ける。
「オマエはマリョクがアラアラシイナ。ワタシのコノミジャナイ」
シルフクイーンはプイッと顔を背け、自分の頬をフィンの頬にすりすりと押し付けた。
「俺らはフラれたな、ははは」
ルイは苦笑しながらセオドアと肩を組む。
「シルフクイーン、この二人は僕の大事な友達なんです。よかったら、仲良くして欲しいな……」
フィンは慌てて二人を庇うように取り繕うと、シルフクイーンはフィンに絆されやれやれと手を広げた。
「むぅ。シカタナイ。フィンがいうならスコシはナカヨクしてやるヨ」
シルフクイーンは二人を一瞥するも、その表情は穏やかじゃない。
「あ、キメタ」
「?」
シルフクイーンは思い付いたように笑顔を浮かべフィンの顔の前でふわふわと飛ぶ。
「フィン、シュクフクをしてあげる」
「……祝福!?」
フィンは驚きの表情を見せ、聞き間違いではないのかと頬をつねり瞬きをした。
「あの、祝福って何かの間違いでは?」
「マチガイではないヨ。フィンはヤサシクてカワイイが、ショミンでアブナッカシイこどもだ。ワタシがチカラをかしてアゲル」
シルフクイーンはフフンと鼻を鳴らし腕を組む。
精霊から祝福を受けるということは、自分の命がある限り、シルフクイーンが永遠に味方をしてくれるという証。
いついかなる時もフィンの呼び出しに応じ、その力を振るう事が出来る精霊との契約だ。
さらに、シルフクイーンの特性である“特級・風属性”が与えられ、風魔法の大幅な能力アップと、他者から与えられる風魔法を無効化または半減することが可能になる。強い精霊からの祝福ほど能力は格段にアップし、シルフクイーンの祝福はまさしく誰もが羨むような出来事だった。
「「マジかよ」」
ルイとセオドアは目を点にしながら呆気に取られる。
「これは副学長に報告しなければならないな」
ジャスパーはこの状況を目の当たりにしながら小さくそう呟き、リリアナは横で大きく頷き飛び跳ねた。
「ビックリですー!コレはかなりの快挙じゃないですか?」
リリアナは興奮した表情を浮かべ、周囲の生徒もフィンが祝福を受けるという事実にかなりざわついていた。
「かの有名な大魔法師、シュヴァリエ公爵がこの学園に通っていた頃、一度に上級と特級精霊を三体召喚していた。そしてその全ての精霊から祝福を賜っている。それには劣るだろうが、もはやフィン・ステラは凡人ではないな」
ジャスパーは真顔で淡々と語るも、リリアナは過去を思い出しながら頷く。
「あー、そんな事もありましたねぇー。私、その時の授業を担当してましたもーん。私が教えることなんて何一つありませんでした……」
リリアナはリヒトの召喚場面を思い出し遠い目を浮かべた。
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