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一年生・春の章

シルフクイーンの祝福④

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「はい!」


 フィンは杖をぎゅっと持ちジャスパーを見上げる。


「今君は、自分の魔力で精霊界への道を開いたのに、途中から別の魔力を使った。シルフクイーンは君の魔力を認めたのに、そこに別の魔力が来たらどう思う」


 ジャスパーの問いかけに、フィンは答えに気付いた表情を浮かべた。


「気付いたか。今シルフクイーンを呼ぶなら、最初からそれを使うか、魔力切れ覚悟で自分の魔力を終始使うかだ」

「……!」

「もしかすると、それを使いこなす方法はあるかも知れない。それについては後見人に聞くといい」


 ジャスパーはそう言って、フィンがどの選択をするかを見届ける。


「分かりました……僕、何となくですけど来てくれる気がするんです。シルフクイーンが!」


 フィンは慈愛に満ちた表情を浮かべ、文献で美しい花のような精霊と揶揄されたシルフクイーンへの想いを馳せ、杖を前に出す。


「僕の魔力で道が開いたなら、二つ目を選びます!」


 ジャスパーはフィンの言葉に小さく頷いた。


「……ほう。いいだろう。だが、危険と判断した時には途中で止める」


 フィンは小さく頷くと再び集中し、詠唱をしながら魔法陣を繰り出していった。


「(シルフクイーンを呼び出すと言う意味では、それが正解だ。腕輪の魔力はシルフクイーン向きのものではない可能性が高い)」


 ジャスパーは一瞬軽く笑みを浮かべ呟き、その様子を見守る。
 いつしかリリアナも笑顔でフィンを見つめ、ガッツポーズをしながら応援した。


「おい見ろよ、あの魔法陣」
「上級だ」
「頑張れっフィンくんっ!」


 次第に周囲はフィンの召喚魔法に興味を示し、ルイとセオドアも少し近づいてその様子を見守った。


「淡い緑色……細かい魔力の奔流、シルフクイーンを呼び出すつもりか?」


 ルイがそう呟くと、セオドアはギョッとした表情を浮かべる。


「えぇ!?召喚士でもムズイのに。ハンパねーよフィンちゃん」

「……ああ。でも、アイツならできるかもな。魔力が足りるかが問題だが」


 ルイはフィンへ期待の眼差しを送り、手をグーにして固唾を飲んだ。



「(うう……魔力がどんどん削られてくのが分かる……!)」


 フィンは眉間に皺を寄せ、少し辛そうな表情を浮かべる。それでも、ニコッと笑みを浮かべて丁寧に魔法陣を組んで行くと、次第に鋭い風がフィンの身体を包んでいった。
 フィンの魔力は既に限界が近いが、フィンは諦めずに最後まで魔法陣を錬成し、周囲は眩い光に包まれる。


「……!」


 一瞬、時が止まったような雰囲気に包まれ、魔法陣からは少しずつ花弁が舞っていた。


『カワイイエルフ。キゾクでもないのに、ズイブンとムボウなことを』


 フィンの脳内に語りかける、鈴のような声。


「あ!シルフクイーン……!僕は大丈夫です!」


 声の主がシルフクイーンだと気付いたフィンは、満面の笑みを浮かべてそう答える。
 周囲からは、フィンが一人で喋っているようにしか見えないが、ジャスパーはシルフクイーンとフィンが精神遭逢状態だと言うことに気付き目を見開いた。


「彼、シルフクイーンと喋ってますねー」


 いつ間にかジャスパーの横にいたリリアナは、両手を合わせて嬉しそうな表情を浮かべる。


「シルフクイーンは好き嫌いが激しい。いくら魔力があっても、シルフクイーンはそこを見ないからこそ、彼は最もこの召喚に向いている」

「はいー。たくさんの個性があるシルフと違って、シルフクイーンは唯一無二の存在ですからねー。文献通りなら、無謀で、純粋で、頭が良くて可愛い子が好きなんですー。ステラさんはその素質があるということですね」


 フィンを取り巻く風がより一層強まると、周囲の生徒は気圧され後ずさる者が多い中、ルイとセオドアだけは笑顔でその様子を見守った。


「頑張れ、フィンちゃん!」

「フィン!もう少しだ!」


 フィンは二人の声を聞くと、コクリと頷き大きく叫ぶ。


「シルフクイーン!僕は頼りない魔力だけど、心を込めたんです。シルフクイーンがこっちに来やすいようにって、祈ったんです!」


 精霊界からこちらの世界への移動は簡単な事ではない。特にシルフクイーンは繊細なため、なるべく柔らかい道を作る必要がある。


『うん。だからワタシはキミにアイタクなったんだヨ!フフフ』


 
 シルフクイーンが小さく笑うと、風はピタリと止み、フィンは目を丸くした。


「あれ……?」


 フィンが首を傾げるが、リリアナは満面の笑みで拍手をする。


「成功ですねー。おめでとうございます、ステラくんー」

「へ?」


 突如、魔法陣からは芳しい花の香りを纏った美しき精霊が現れ、周囲の生徒は歓声をあげた。


「シルフクイーンだ!」
「すごい、生で見れるなんて!」
「綺麗~!」


 ルイとセオドアも肩を組んで喜び、フィンに駆け寄って頭を撫でる。


「やるじゃねーか」

「フィンちゃん、マジですげーって!」


 フィンは自分が注目されていたことにようやく気付き、一気に顔を赤らめた。


「わわっ……恥ずかしいなあ」


 そんなフィンに、シルフクイーンはうっとりとした顔で近付く。


「コンニチハ、エルフのオトモダチ!フィン・ステラ、アナタのコトキニイッタ!」


 シルフクイーンはフィンと同じ程の背丈で、様々な花を身に纏った愛らしい姿だった。瞳は宝石のように煌めき、透き通る大きな羽は背丈よりも大きい。
 飛ぶ度に溢れる花弁は、一つ一つが魔力で出来ていた。


「こんにちは、シルフクイーン!」


 フィンは、シルフクイーンの召喚に成功したことに喜び、その場にへたり込んだ。


「フィン、大丈夫か」


 魔力切れを起こしたため、眩暈を起こして息を切らせるフィンに、ルイは慌てて声をかける。


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