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一年生・春の章

三年後に聞かせてよ②

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 きっと名簿をみて、先生は俺が入学したことは知ったはずだ。
 俺のことを見つけたら、先生はどんな顔をするだろうな。


 なーんて考えが甘かった。



「……(わざと目を合わせなかったな、先生のドアホ!)」


 一限目、偶然にも先生の授業だったが、先生は座席表を確認するや否や、俺の方を一切見もしなかった。
 俺は少しムキになって、授業が終わり教室を出て行こうとする先生を追いかけようとする。


「せんせ……」


「セオドアくーんっ」


 しかし、クラスメイトの女子にそれを阻まれ、俺は先生に声をかけることが出来なかった。
 痩せて背が伸びて分かったが、俺は結構モテる顔らしく、特に少しチャラそうな女の子に声をかけられる。
 だが、俺は先生に振り向いてもらえなければ意味がない。
 
 それなのに、俺は先生を追いかけることが出来なかった。



「ん……エルザちゃんだっけ?どうしたの」

「きゃー!覚えててくれてたんだっ」


 俺は、どうやら八方美人らしい。
 声をかけられたら無視は出来ないから、俺は愛想笑いを浮かべて目の前の女子と会話をする。
 

「(この女……俺が昔みたいにデブだったら話しかけないだろうなー)」


 俺は去っていく先生の背を眺めながら、募る恋心を胸に秘めた。



-------------------------
 

 

 放課後になると、フィンはルイの元へ行き目を潤ませる。


「ねぇ、僕やっぱ怒られるのかな……もしかして退学になったりする!?」


 フィンはジャスパーに呼び出されたのがよほど不安なのか、落ち込んだ様子でルイに話しかけた。


「まだ気にしてるのかー?怒るならあの時怒ってるだろうよ。退学なんてなる訳がない。ま、不安ならついてってやるぞ」



 ルイは軽く笑ってフィンの肩を軽く叩くも、フィンの表情は晴れない。
 そこに、少し垂れ目で色っぽい雰囲気のエルフがやってきた。


「やっほー」


 淡い水色の髪色で、少し癖毛な無造作ヘアー。背は178cmほどあり、フィンはその少年を見上げて首を傾けた。


「俺、セオドア。セオドア・フルニエ。仲良くしてっちょ」


 セオドアはフィンに手を差し出すと、フィンは嬉しそうに手を握る。


「よろしく!僕は……」


 フィンも名乗ろうとしたが、セオドアはフィンの口に指を当てて笑う。


「名前知ってるよ、ちょー有名じゃん?フィン君。それにそっちのイケメン君も!」


 セオドアは軽快なテンポで、今度はルイに手を差し出した。


「よろしく、ルイ君」

「あぁ。よろしく。お前の方がイケメンだろ」

「よせよー!照れるだろー!」


 ルイはおどけるセオドアの手を握り、可笑しそうに笑う。
 セオドアは少し雑談をした後、途端に緊張した面持ちで二人を見た。


「……あのさ、俺もランベール先生に用があるから一緒にいかね?」


 セオドアの言葉に、フィンは特に疑問を抱くことなく笑顔で頷くが、ルイは首を傾げる。


「初日早々、何の用事があんの?」


 ルイが不思議そうな表情でセオドアに問いかけると、セオドアはフィンとルイの肩に腕をかけ、円陣を組むような体勢になる。


「実は俺、一年前はめちゃくちゃデブでさ……」

「「え!?」」


 スリムな体型のセオドアが太っていることが想像出来ず、フィンとルイは驚愕の表情を浮かべた。



「そん時の家庭教師がランベール先生だったわけよ。先生のおかげで痩せたし、勉強も出来るようになったんだけど。で、まぁ色々あって、先生途中で俺のせいで辞めちゃって。だからちょっと謝りたいんだ」

「わ、わかった……」


 フィンは大きく縦に頷き、三人は職員室まで一緒に足を運ぶ。
 フロア全体が職員室になっており、教師の部屋は個室になっていた。


「フィン君の用事が終わったら入るからさ、それまでこっちでルイ君と待ってるわ」

「わかった!」


 フィンがジャスパーの部屋に入っていくのを見届け、セオドアは胸の鼓動が早まるのを抑えるように心臓に手を当てる。


「大丈夫か?随分緊張してるように見えるけど」


 ルイはセオドアの様子を伺うように声をかける。セオドアは頭をわしゃわしゃと掻いてから力無く笑った。


「いやー、なんか分かんないけど、今まで生きてた中で緊張してるわ。俺はすげー会いたかったんだけど、向こうはそうじゃないかも知れないからさ。ははっ」


 セオドアは切なそうな表情を浮かべ、軽くため息を吐く。まるで恋をしているような表情に、ルイはキョトンとした顔を浮かべた。


「……な、セオドア。お前って、その先生のこと……」


 ルイが聞きたいことに気付いたセオドアは、おどけて笑ってみせた。


「えっ、ああ、うん。俺末っ子でさ。小さい時は体も弱くて。馬鹿みたいに甘やかされてたら気付けばぶくぶく太ってたんだけど、先生が家庭教師になってからなんか目が覚めて。先生ってさー、めちゃくちゃ厳しいんだよ!すげー怒られたし。でも」


 セオドアは腕を組みながら楽しそうにジャスパーの話をする。


「俺のこと、誰よりもちゃんと考えてくれてたんだ。……お察しのとーり、いつの間にか片想い中。無我夢中で追っかけてきちゃったし、この三年間でどうにかしたい訳よ」



 目を細め笑みを浮かべたセオドアの表情に、淡い恋心が宿っているのを感じたルイは、ぽんぽんと肩を叩き笑みを浮かべる。



「適当なことは言わないが、俺は応援してるぞ。第一印象がチャラそうって思った俺を責めてくれ」

「おう。お前いい奴だな!俺ってそんなにチャラそう?」


 セオドアは自身を指差し可笑しそうに笑う。


「うん。髪の感じとか、ピアスの数とか、表情とかな」


 セオドアは片耳にピアスやイヤーカフをいくつもつけており、一見すると不良にも見えた。


「まじか。兄さんにこれが似合うって言われたからやったんだけど。舐められないようにって」

「めちゃくちゃ似合ってるよ。俺もイヤーカフしよっかな」

「はは!絶対似合うって。今度カッコいいやつあげるぜ?」


 セオドアは緊張が解けたのか、ニッと笑って背伸びをしながらルイと打ち解ける。
 すると、フィンが戻ってくる足音がしたため、二人は視線を向ける。


「ただいまー」


 フィンが笑顔で手を挙げると、セオドアはフィンの掌を軽く叩いて笑みを浮かべた。


「よし、バトンタッチ!行ってくるわ。俺のことは待たなくていーよ。また明後日、学校で会おうな」


 セオドアはそう言って手を振り、ジャスパーの部屋の方向へ歩いていく。


「うん!またねー!」

「じゃーな」


 二人は手を振ってセオドアを見送ると、校門を目指し歩き始めた。


「で、何の用事だったんだ?」

「んとねー、推薦状をもらった。これだよー」


 フィンは一枚の紙をルイに渡すと、ルイはそれを受け取り内容を読む。


「生徒会書記に推薦……?」

「うん。これがあれば冬の生徒会選挙に立候補出来るんだって!生徒会って楽しいのかな?」

「楽しいかは知らないけど、生徒会に入れるのは名誉なことだな。冬になったら立候補してみたらどうだ?」


 ルイは推薦状をフィンに返すと、フィンは笑顔で受け取り鞄にしまう。


「うーん、帰ったら相談してみる!」

「誰に?そういえばお前北部出身だろ、王都のどこ住んでるんだ?」

「うん!あのね、後見人の家に住んでるんだー」


 フィンは杖を持ちクルクルと回しながら、特に気にせず笑みを浮かべながら質問に答えるが、一方のルイは“しまった”と眉間に指を当て後悔する。
 後見人は親がいなかったり、複雑な事情がある者が使う制度のため、フィンがそれに当てはまるということだったからだ。
 ルイはフィンの方を向き、申し訳なさそうに口を開く。
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