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一年生・春の章
毒りんご?にご注意①
しおりを挟む夕陽が落ち切った頃、ミスティルティン魔法図書館の扉を開こうとしたフィンは、外に出ようとするリヒトと鉢合わせになる。
「「!?」」
フィンとぶつかりそうになったリヒトは、慌てて足を止めて勢いを殺し、フィンの肩に腕を回して自身に引き寄せた。
「おっと……!危なかった。ごめんね」
「ううん、僕もごめんなさいっ
リヒトはフィンにぶつからずに済んだことで安堵の表情を浮かべ、そのままフィンを抱き寄せると扉を閉める。
「遅いから迎えに行こうと思ったところだよ。おかえり」
リヒトはフィンをぎゅっと強く抱き締めると、首に顔を埋める。
「遅くなっちゃった!ただいまー」
フィンは柔らかい笑みを浮かべぎゅうっと強く抱き締め返す。
いつものリヒトの匂いを嗅いで安心したのか、リヒトの肩にすりすりと顔を擦り付けふにゃっと表情を緩ませた。
「子猫みたいなことするね」
リヒトはフィンを頭を優しく撫でると、まずは着替えをさせるために、フィンの自室まで抱き上げて移動する。
部屋に着くと、少し膨れ上がってるフィンの鞄に気付いたリヒトは、不思議そうに鞄を見た。
「フィン、鞄に何か入ってる?」
「うん、りんごー」
フィンはローブを脱ぎハンガーにかけながら笑顔で答える。
「りんご?」
「うん、森でいっぱいなってた。あげるー」
フィンは、嬉しそうな表情で赤くて丸い果物を鞄から出し、それを笑顔でリヒトに渡した。
リヒトは訝しげにそれを受け取ると、フィンの頬をむにむにと痛くないように摘む。
「フィン……森に寄り道したの?ミネルウァの森は比較的安全だけど、気を付けないとダメだと口を酸っぱくして言ったはずだ……(これからは門限を設けるべきか?)」
だから遅くなったのか、と軽く息を吐いたリヒトはさらに続ける。
フィンは俯き焦った表情を浮かべ、大人しくリヒトの言葉を聞いていた。
「暗くなると魔獣が目を覚ます。俺は君が魔獣に襲われたらと思うと、心臓が張り裂けそうな気持ちになるんだ。分かるかい?」
フィンは少し重たい目で自分を見るリヒトの言葉を聞き、次第に目を泳がせる。
「ご、ごめんなさい」
「……」
フィンはおずおずとリヒトを見上げる。
綺麗なくっきり二重が印象的なフィンの目。澄んだ淡い茶色の瞳がリヒトを捉えると、リヒトは耐えきれずにフィンを抱き締めた。
「……そんな目で見るのはずるい」
「?ご、ごめんね」
フィンはどんな目か分からなかったので、とりあえず目をぎゅっと瞑ると、リヒトはくすくすと笑みを溢す。
「もう謝らなくていいよ。君が愛おしすぎて、何もかも心配してしまう俺も悪い」
フィンはリヒトの言葉に目を細め、思わずリヒトの胸に飛び込むように抱き着くと顔を埋める。
「心配してくれてありがとう」
「君が視界にいないだけで心配だ」
「大げさだよ、リヒト」
フィンは可笑しそうに笑うと、リヒトも同じように笑顔を見せた。
リヒトはその後、手渡されたリンゴに目を向ける。
「……?」
リヒトは違和感を覚え首を傾げる。
リンゴにしては赤みが足りず、形も若干歪だ。
「あぁ……これは、リンゴではないな」
リヒトは、リンゴに似た果物を睨み付け、うっすらと黄色い縦模様が入ってる事に気付くと、ようやくこの果物の正体に気付き、吹き出すように笑う。
「えっ、これ、りんごじゃないの?」
フィンは目を点にし首を傾げる。
「毒リンゴだ」
リヒトはクスクスと笑い、服でキュッキュッと謎の果物の表面を拭いた。
「え!?毒!?」
フィンは焦った表情を浮かべ、唇をわなわなと震わせる。
「でも、フィンが折角くれたし。ちゃんと食べないとね」
「えっ!?だめっ」
リヒトはフィンの驚いた表情を横目に、それを一口齧るとゆっくりと咀嚼をする。
フィンはリヒトの行動を見て目を見開き固まってしまったが、すぐに大声をあげた。
「わー!!!何で食べるの!?リヒトが死んじゃう……!!!」
フィンは慌てて謎の果物を取り上げようとするも、リヒトが左手でそれを持ち高く持ち上げたため、飛び跳ねても届かず目を潤ませる。
「死なないよ、そういう毒じゃないから大丈夫」
フィンは目を丸くする。
「じゃあお腹いたくなる?」
「ちがうなぁー」
「どっか痛くなる?」
「全然?」
リヒトは平然とした顔でもうひと口齧ると、フィンは困った顔でリヒトを見上げた。
「じゃあ僕も食べる」
「だーめ」
「どうして?」
リヒトは意地悪な笑みを浮かべてさらに謎の果物を齧る。酸味が全くなく、甘さだけが広がる果実。
「3時間後ぐらいかな。俺の身体に毒が回って、とんでもないことになる。このリンゴは情報が少ない希少な物でね。俺の身体でどんな効き目か試そうかなーと」
「……?リヒト苦しくなったりしない?」
「ある意味苦しくなるかも」
「えっ?」
リヒトはそれ以上は食べることをせず、フィンは何が何だかわからないまま、夜は次第に更けていった。
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