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一年生・夏の章

愛の証①

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 夏も本格的になったある日の昼下がり。
 明日の学校に向けて予習をしていたフィンは、扉を叩く音にピクッと反応して本を閉じた。


「はーい」

「フィン、ちょっといい?」

「うん!」


 フィンの了承を得て部屋に入室したリヒトは、微笑みながらフィンの方へ近寄ると、当たり前のようにフィンの頭や頬を撫でて愛で始める。



「えへへ、撫でにきてくれたのー?」



 フィンが気持ちよさそうに笑みを浮かべてそう問いかけると、リヒトは幸せそうな表情を浮かべ頭を撫で続ける。
 しかし、突然何かを思い出したようなハッとした表情を浮かべた。



「(目的を忘れそうだった……)ああ、えっと。フィン、腕輪を改良させてほしいんだ。いいかな?」


 本題を切り出したリヒトは、首を傾げ小さく笑う。


 
「改良ー?うん、分かった」



 フィンは、宝箱のような綺麗な箱に大事そうにしまっている腕輪を取り出すと、リヒトに笑顔で渡した。


「なにをどう改良するのー?」

「君がシルフクイーンを召喚しやすくするような改良」

「!」

「今のフィンの魔力じゃ、一回呼ぶだけで体力の消耗が激しいよね?」


 フィンは大きく頷く。


「特にシルフクイーンは、君の魔力じゃないと反応しない。だが、魔力が多くない君には少し負担になるから、それを解消させるんだ」

「じゃあ、魔力を補う魔石をつけるってことー?」


 魔石の魔力は、使用者の魔力に溶け込んで魔力を補助することができるが、リヒトは首を振ってそれを否定する。


「それも可能だけど、気休めにしかならないかな。よくあるような魔石だと、使う度に劣化してやがて失活するだろう?俺は、この腕輪の“特別な魔石”だからこそ可能な魔法を考案したんだ」

「そんなことができるの?」

「理論上はね。君の魔力を増幅させると言うよりは、魔力自体の質を上げる魔法をこの腕輪に施す」


 フィンは目を丸くさせ、どんな教科書にも載っていない魔法を語るリヒトに、かなりの驚きを示した。


「えぇっ!?そんなの聞いたことないよ!」


「ははっ、俺が考えたんだ。どこの本にも書いてないよ。それに……この腕輪についている魔石が特殊だから出来ることなんだ」


 リヒトの言葉に、フィンは目を輝かせる。


「この魔石、ルイ君もセオ君も覗き込んで驚いてた。一体何の魔石なの?」

「この魔石は、この世には存在しない物らしい。イザックがどう入手したかは不明だが、精霊界に存在する特殊な魔石のようだよ。簡単に言うと、どんな魔法をかけても、使用しない限りは失活しない物だ。魔法をしまうことができて、いつでも使うことができるカバンと思って欲しい」


「そ、そうだったの!?」


 腕輪についての知識が乏しかったフィンは、リヒトに渡した腕輪に目を向ける。


「そう。でもこれはみんなには内緒だよ?貴重な物だから、フィンが狙われる可能性もある」


 リヒトは人差し指を口に当てて、目を細めながら笑みを浮かべた。


「うん、分かった……」


 フィンは唾を飲み込みながら頷く。


「イザックは悩んだだろうね。運命の恋人を守るために作りこみすぎて、逆に恋人危険な目に合わせる可能性が出てきたから。諸刃の剣だ」


 リヒトは腕輪を見つめながら真剣な表情でそう語るが、フィンはニコッと笑みを浮かべた。


「もし狙われても、その前に僕が倒してあげる!リヒトは悩まなくていいよ!」


 フィンの言葉に、リヒトは優しい笑みを浮かべて頷いた。



「頼もしいな。それじゃあ、借りるね。三十分ぐらいで返すよ」

「わかった!」


 リヒトは執務室に戻るため振り返り部屋を出ると、フィンはその後ろをついていく。


「?」


 リヒトはくるっと振り返ると、フィンはにぱーっと笑みを浮かべた。


「……どうかした?」


 後ろをついてくるフィンに対し、気まずそうな顔を浮かべるリヒト。



「改良するところ、みたいなー」



 フィンのお願いに、リヒトはうーんと悩む。


「……俺はいいんだけど、そうだなぁ。、俺がいいと言うまで動かず喋らないでいられる?」


「小さい子供じゃないんだから、それぐらいできるよ?」


 フィンがむーっと頬を膨らませてそう言うと、リヒトはよしよしとフィンの頭を撫でる。


「それもそうだね。いいよ、一緒に行こう」

「やったー!」

「(……仕方ないが、隠し通すのも難しいな)」


 二人は執務室入ると、リヒトは部屋のカーテンを締め、フィンはドキドキしながらソファーへと腰掛けた。



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