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一年生・春の章
いってきます!①
しおりを挟む最初の登校日の朝。
目覚めよく起き上がったフィンは、準備をしようとベッドから出ようとする。
すると、長く力強いリヒトの腕がそれを拒んだ。
「へあ!?」
フィンは一瞬でベッドに引き戻され、後ろから強く抱きしめられる形になる。
「り、リヒト?僕起きないとっ……」
登校日の初日は念入りに準備をせねばと意気込んでいたフィンは、焦った表情に変わるも、無理矢理解くことはしない。
リヒトはフィンの声にうっすら目を開けてが、なおもフィンを離そうとしなかった。
その瞳は、まだ現実世界に居ないような虚さが残っている。
「……行かないでくれ」
リヒトは寝ぼけながらも、切なそうに囁く。
フィンはその声色に胸が締め付けられる気持ちになり、くるりとリヒトの方へ向いてリヒトの頭を撫でた。
「リヒト、寂しいの?」
フィンが顔を近付け心配そうに話しかけると、リヒトはパチっと目を覚まし、覚醒したようにガバッと体を起こした。
フィンは「わっ」と小さく驚く。
「……ごめんね、寝惚けてたみたいだ」
リヒトは脳が覚醒すると自分の発言を思い出し、少し恥ずかしそうな顔をしながら申し訳なさそうにフィンの方へ顔を向ける。
「(リヒト、ねぼけてたんだ……ほんとは寂しくて行って欲しくないのかな?)」
フィンはリヒトの心情を察しながら起き上がると、にこっと穏やかな笑みを浮かべ「おはよう」と挨拶をする。
寝間着が右肩からずり落ち、なんとも無防備なフィンの姿を視認したリヒトは、さらに目が覚めたのか、素早くフィンを押し倒した。
「!?」
フィンはいとも簡単に押し倒され、両腕を押さえつけられると顔を赤くし足をバタつかせる。
「わー!なにするのリヒト!」
「おはよう。今日も可愛いなーと思ってね」
リヒトは恐ろしい程に綺麗な顔でフィンを見つめると、フィンは耳まで真っ赤になりぎゅっと目を瞑った。
そんな矢先、フィンのお腹がグーっとなったため、二人は目を丸くする。
「「…………」」
リヒトは堪えきれず「ぷはっ」と吹き出し沈黙を破った。
「フィン、お腹がすいたんだね。モーニングにしよう」
「うぅ……うん。着替えて準備してくるね……」
リヒトは照れておずおずしているフィンを笑いながら、そのままふわっと抱き上げてベッドから下ろした。
--------------------
「おはようございます、ご主人様、フィン様。既に食事は出来ております」
ダイニングに入った二人を、アネモネがペコっと礼をしながら出迎える。
「おはよう、アネモネ」
身支度を終えたフィンは、笑顔でアネモネに挨拶をする。その後ろでリヒトも「おはよう」と挨拶をして席についた。
テーブルにはフィンの要望通り、チーズが使われた朝食。少し焼いたバケットに、とろっと溶かしたチーズがかかっていた。トマトのスープと新鮮なサラダ、さらにオムレツ。
オムレツを割るとそこにもチーズが入っており、フィンは目を輝かせた。
「わぁぁぁ」
さらにチーズケーキも用意されており、拍手で喜ぶフィンを横目に、リヒトは首を傾げる。
「(アネモネにはチーズを使った物を出すように指示したが、ここまでやるとはな)」
リヒトはチラッとアネモネを見る。心なしか、料理に対して喜ぶフィンを見て嬉しそうに見えた。
今までアネモネを“高級魔法人形“として必要最低限の会話しかしてこなかったリヒトは、フィンとの交流で少しずつ変化を見せるアネモネを興味深そうに眺めた。
「(俺はそもそも、食事は作業と捉えていたのもあって、フィンみたいに喜んだり、美味しいと言うことも無かったな。アネモネはフィンを明らかに好いてるのが分かる。ああいう感情表現をされた方が嬉しいのか……?いやそもそもドールにそんな感情はあるのかも疑問だが、これは最も高価なグレードだし、使われている魔石のルーツを探ってみる必要があるな)」
リヒトは訝しげな表情をしながらそんなことを考えていると、フィンはそんなリヒトを見つめながら牛乳をごくごくと飲む。
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