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一年生・春の章

ミスティルティン魔法図書館へようこそ!①

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「リヒト」

「ん?」

「何か忘れてるなーって思わないっ?」


 フィンはむぅっと頬を膨らませながら、紅茶を啜るリヒトを睨み詰め寄った。
 もうすぐ夏が訪れようとしているため、服装は半袖になっており、フィンの白く細い腕が露わになっている。


「なんだろう?」


 フィンが自身を睨む姿でさえ愛おしいリヒトは、ティーカップを置いてフィンに顔を向けると、そのまま笑顔で抱き上げて膝の上に乗せる。


「いつになったらバイトさせてくれるのー!?」


 フィンは膝に乗ったままむすーっとした顔でリヒトにさらに詰め寄ると、リヒトは困った顔で笑った。



「ああ、すっかり忘れていた(やっぱり覚えていたか……このままなあなあになると思っていたのに)」

「リヒトが許可したところじゃないとダメって言ったから待ってたのにー!」



 フィンはリヒトの頬をむにむにと摘み伸ばす。


「ほへんはふぁい(訳:ごめんなさい)」


 大魔法師の頬を摘める者は、この世界でシュヴァリエ家とフィンしかいないだろう。
 リヒトは別の者であれば振り払うだろうが、フィンであればむしろずっと触って欲しいぐらいなのか、抵抗せず触られっぱなしだった。


「あはは、リヒト変な顔」


 フィンはケラケラと笑い、パッと手を離して両頬を撫でた。


「フィン」


 リヒトはフィンをぎゅうっと抱きしめた後、ふわっと抱き上げ床にそっと降ろしニコッと笑みを浮かべる。


「フィン、これを着てくれ」


 リヒトはどこからともなく鮮やかな青の制服を取り出し、フィンに差し出した。
 胸元には金色の本の形をした刺繍がされており、フィンはパッとリヒトを見上げる。



「これって!」

「あぁ。ミスティルティン魔法図書館の制服だよ。実は軽く話は通してあるから、今日は体験で行ってみようか」


 フィンは目を輝かせ大きく頷く。


「(制服、僕のために作ってあったのかな)」


 フィンは嬉しそうに笑みを浮かべながら、自室で制服に着替えるのであった。



--------------------------------




「わあ……!!」


 ミスティルティン魔法図書館のメインホールに着いたフィンは、目を輝かせながらリヒトを見上げた。
 メインホールでは四つの扉が設置されており、各入り口には受付の司書が座っている。
 突然のリヒトの登場に、皆が立ち上がり頭を下げた。


「よい。業務に戻れ」



 リヒトは立ち上がる受付たちに淡々とそう述べると、早速フィンに扉の説明をする。


 各入り口に繋がる部屋は、それぞれ置いてある本の種類が違う。

 一番右がメインである図書館で、レベルDと呼ばれている。児童向けの本や小説、参考書など多くの書籍が置いてあり、それぞれが貸出可能な図書だ。

 右から二番目の部屋が、レベルCと呼ばれ、実際に販売をしている図書の部屋となる。ジャンルはメインの図書館とほとんど一緒だが、新聞や俗本など、国から許可を得た本であれば全て販売している。

 左から二番目の部屋は、レベルBと言われ、貸出が禁止されている本の部屋となる。一般的には貴族しか入場を許されない部屋となり、国家指定禁書として国の重要情報が入っているため、予約が必要な部屋となっていた。

 そして一番左の部屋は、閲覧不可書物の保管庫となり、レベルAと呼ばれている。これに関しては、様々な理由で封印された書物が置かれている部屋であり、この部屋に関してはかなり厳重な警備と施錠がされていた。

 基本的には目的に合わせ、殆どがメインホールを通ることなくレベルDかCに繋がる仕組みだが、レベルBやAに訪問する際や、管理人であるリヒトはまずこのメインホールに入ることが出来る。


 リヒトは一通り説明を終えた後、上に続く階段を指さす。


「上は本を製造する出版エリアだね。書記たちが魔法を使って、本の複製をしている」

「本も作ってるの?」

「あぁ、私が管理人をするようになってから立ち上げた事業だ。地方への本の流通を増やす目的でね」

「……!」


 フィンはリヒトに満面の笑みを浮かべる。


「フィンが読んでいた本の中に、ここで作られたものもあったかもしれないね」


 リヒトはフィンの頭をやんわりと撫でると、フードを深く被ってからフィンの手を引き、レベルDの扉へと向かっていく。


「フィンはレベルDでバイトをして貰おうかと思ってるんだ」

「……うん!」



 フィンはぱあぁっと顔を明るくし、きょろきょろとあたりを見回しながら頷いた。
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