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一年生・春の章

シルフクイーンの祝福①

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 学生生活にも慣れてきた頃、フィンは午後の授業を楽しみにしながら、ルイ、セオドアと共に食堂でランチをしていた。



「午後は召喚魔法か~俺苦手かも。つうかさぁ、この学校宿題の量ハンパなくねー?予習課題も多いし、全然暇がないんだけど!?」


 セオドアは教科書を眺め文句を言いながらフルーツジュースを口にする。


「三大名門で最も学力を重んじる学校だぞ、当たり前だ。お前よくそんなんでここ受かったな」


 ルイはレタス、ローストビーフ、トマトが挟まったサンドイッチを口にしながら、呆れ顔でセオドアにそう言うが、当の本人はケラケラと笑った。


「まあねー!俺はやれば出来ちゃう子だからさぁ」

「いや、別に褒めてないんだよアホ」


 悪態をつくルイだが、耳にはセオドアからプレゼントされたイヤーカフが付いており、ここ1ヶ月でかなり仲良くなった様子。

 一方のフィンは、他二人の倍の量の昼食をテーブルに並べてもぐもぐと美味しそうに口にしていた。
 セオドアはパタンと教科書を閉じ、サラダにフォークを刺しながら羨ましそうにフィンを見る。


「ねーフィンちゃーん。そんなに食べてさー、なんで太んないのー?」


 フィンの事をちゃん付けで呼ぶことが定着しているセオドア。フィンはセオドアの方へ目を向けるが、小動物のように頬パンパンに食べ物を入れてもぐもぐ咀嚼しているため、返事が出来ず慌てた表情を浮かべる。


「こらフィン、食べ物口に入れすぎたら下品だぞ(ハムスターみてぇだな)」


 ルイはさりげなくフィンの口についたソースをナプキンで拭い苦笑すると、フィンはコクリと頷きようやく食べ物を飲み込んだ。


「ありがとうルイ君!」


 フィンはにパッと笑い、今度はルイの言う通り少しずつ口に頬張る。


「フィンちゃんとルイって兄弟みたいだな……いやーでも分かるよ、フィンちゃんってほっとけないよな」


 フィンの前に座るセオドアは、納得するようにうんうんと頷く。



「第一位がこんなぼけーっとしてんだぞ。舐められたらどーすんだよ。もーちょっと第一位って事を自覚してもらわないとな」

「?」


 ルイは深く溜息を吐き、恨めしそうにフィンを横目で見たが、フィンは首を傾げニコニコしているだけだった。


「ルイ、もしかして秋のアレのこと心配してんの?三大名門対抗の魔法運動会。なんだっけ?」

「エスペランス祭だよ。一年で一番のイベントって言ってもいいな」


 ルイはニィッと口角を上げ強気な笑みを見せながらステーキを切り分ける。


「えすぺらんすさい?」


 フィンは牛乳を鼻下に付けながらルイに問いかける。横に座っているルイは、当たり前のように再びナプキンでフィンの口を拭いながら口を開いた。


「イデアル王都魔法学院、スレクトゥ騎士団養成学院、そしてミネルウァ高等魔法学院。この三大名門で“大運動会”をするんだよ。昔からある伝統だな」

「楽しそう!」


 フィンは目を輝かせるが、ルイは呆れた顔でフィンの額を突く。


「全く、呑気だな……これは学校の威厳を賭けた闘いだぞ。何より一年生の俺たちが注目される場でもある。かどうか、な」


 ルイはハァッと溜息を吐きながら上品にステーキを頬張ると、フィンは首を傾げ、セオドアはぽりぽりと頬を搔く。


「まあ、どうにかなるって!」

「なるって!」


 フィンとセオドアがそう言って笑顔を向けると、ルイはガックリと項垂れる。


「……ったく、頼むぞ本当に」


 三人を遠巻きに見ている生徒たちは、ヒソヒソと話をする。


「ねぇ見てー、女子顔負けな可愛いルックスを持つフィン様と、あの南の大貴族で完璧なルックスのルイ様!それに、甘くてセクシーなイケメンセオドア様!あの三人の絡み、麗しくて仕方ないわよねぇ!?」


 一人女子生徒が小声でそう言うと、周りの女子は大きく頷く。


「セオドア様は誰にでも優しくて、すっごーく喋りやすいんだって」

「ルイ様はクールに見えて、意外と頼られると弱いらしいよ~?」

「フィン様は、あんなにおっとりしてて可愛いのに、授業中は当てられたらきっちりぜーんぶ正解するの、ギャップよね~♡」


 そんなヒソヒソ話をして盛り上がる女子グループだったが、視線に気付いたセオドアがチラッとそちらを見ると、ウインクをして手を振った。



「「「きゃー!!!!」」」


 女子グループはそのウインクを受け胸を高鳴らせると椅子から落ち、目をハートにして息を荒くする。
 その様子をさらに遠いところで見ていたジャスパーは、苛ついた表情でシチューを掬って食べていた。


「(アイツ……馬鹿なのか?あんな風に気を持たせて何が楽しい)」


 イライラするジャスパーを目の当たりにした召喚魔法の教師リリアナ・ミュレーは、分厚いレンズの眼鏡越しにジャスパーを見ておっとりとした声を上げる。


「あらー?ランベール先生、なんかいつもより顔強張ってませんかぁー?」


 リリアナは重たい三つ編みを揺らしながら左右に揺れて可笑しそうに笑うと、ジャスパーは眉間に皺を寄せる。


「私はいつもと変わりませんが」


 ジャスパーは素っ気なく返事をするが、リリアナは慣れてるため笑顔を浮かべたままチキンソテーを頬張った。


「あー、ランベール先生、あのですねぇー?次、一年A組の召喚魔法の時間なんですけどー、外でやるんで結界張ってもらっていいですかー?」


 リリアナは手と手を合わせてお願いのポーズをしながら笑みを浮かべる。


「えぇ、勿論。私で良ければ(セオドアのクラスか……)」

「ふふ。ありがとうございまぁーす」


 そんな二人が一緒に食事しているところを遠くから見ていたセオドアは、面白くなさそうな顔で目を逸らし、残りの野菜を荒々しく食べた。


「(あの二人、一緒にご飯食べてんのよく見るなー。仲良いのかな)」


 あの告白から1ヶ月が経ったが、あれ以来ジャスパーと会話をしていなかったセオドア。告白をしてしまったため、次からどう接したら良いかを模索しているところだったが、良い方法が思いつかず悶々としていた。
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