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捨てられないもの⑤

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「どんなに私が頑張っても、ミラの方が努力することなく好かれてたわ。物心ついた時から、両親は私よりミラを可愛がってた」


 リラは憂いた目で語り始める。
 フィンはいつの間にか正座をしながら、じっとリラの話を聞いた。


「結局、この世は何かに特化しているエルフが得をする。当たり前な話だけど。例えば、ハイエルフってだけで勝ち組確定よ」


 リラはエリオットとリヒトをじとっとした目で見た。
 二人は互いに目を見合わせてから、気まずそうな表情を浮かべる。
 ハイエルフはエルフの上位種。立っているだけで魅力的で、呼吸するだけで尊いと言う者もいる。優秀な者や特殊な能力を持つ者が多いため、リラの言う通り、勝ち組と揶揄する者は多かった。



「それに、貴族。貴族ってだけで食いっぱぐれないし、羨望の眼差しを受けながら育つから、それが当たり前になる。……あーあ、生まれ変わったらそうなりたいものね」


 リラは嫌味ったらしくそう吐き捨てると、エリオットとリヒトは不快感を露わにしながらぐっと飲み込んだ。


「「(好き勝手言いやがって……)」」



 リラは今度は、真剣な顔でフィンをじっと見ると、グッと顔を近付け、「本当にそっくり……」と言いながら頬に触れた。
 フィンは驚きでビクッと肩を震わせ目を丸くする。



「ミラはね、ハイエルフでも貴族でもないけど、頭の良さ、器量の良さ、愛嬌、世渡りの上手さ。本当に才能に溢れていたから、誰からも愛されたの」



 フィンは母親の笑顔を思い出す。ふわっと笑った顔や、自分と同じ髪と目の色。



「凡人なんてね、努力したところで結局はそういう奴らに潰される。頑張るだけ惨めで、私の幼少期と思春期は全部ミラに奪われたようなものだった」


 リラは悔しそうな表情でフィンを見ると、フィンは自分の母親を嫌う伯母に対し、何を言ったらいいか分からず俯いた。

 リラはカインに視線を移す。



「カインは顔も不器用なところも私に似ちゃったから、私みたいに惨めな思いをして欲しくないと思った。……だからいい学校に行かせて、肩書きだけでも与えてやりたかったの。だからフィン、アンタを利用した」


 王都の有名な学院を出たとなれば箔がつく。そのまま王都でいい職に就けるかも知れないし、北部に戻ればチヤホヤされる。ミラが味わってきた優越感を、自分の息子に味わってもらいたい。
 そんな母親の歪んだ愛情表現に、エリオットは顔を顰めた。



「フィン。アンタは正直、言いたくはないけどミラと同じ才能があるわ。だから別にこの学院に来なくたって、どこかで愛されて、上手くやってけると思った。実際、予想以上に上手くいってるものね」


 リラの考えを聞いたリヒトは、それでも理解できないと首を横に振った。
 カインは自分を否定された気持ちになり、顔を顰める。


「(俺は別に……自分が惨めなんて思ってないぞ。今日以外)」


 リヒトはカインの表情を読み取り、口を開いた。


「息子はそうは思ってないみたいだが」


 リラはカインを見て鼻で笑う。


「ふんっ……まぁ、奴隷に宿題任せても平気な顔してるんだもの、私より馬鹿よね」


 カインは「うっ」と唸り冷や汗をかいた。


「……母さん。やめろよ。もっと惨めだ」

「もう慣れたわよ」

「あのなぁー」


 二人のやり取りを見ていたフィンは、やがて切なそうに笑う。
 自分はもうすることができない親との会話を、目の前の二人は当たり前のように交わしていたからだ。


「僕は伯母様とカインが羨ましいな」

「「は?」」


 リラとカインが同時にフィンを見る。


「こうやってお母さんと話せて、すごく羨ましい。ずっとそう思ってた。喧嘩してもいつの間にか仲直りして、怒られたり怒ったり、笑い合ったり。叔母さんはカインのこと本当に好きなんだなって分かったもん」



 フィンはにこっと首を傾けながら笑うと、カインはフィンの肩に手を置いた。


「あのな、こんなことをしでかす母と息子を羨ましがるなんて、お前は本当にアホだよ。いや、アホなのは俺だけど……ごめん」


 カインはばつが悪そうな顔でフィンを見ると、フィンは首を横に振りにこっと笑う。



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