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捨てられないもの③
しおりを挟む「リラ伯母様……」
フィンが小さく名前を呼ぶと、リラは不機嫌そうにフィンを見て口を開いた。
「もうアンタは、大貴族が後見人になった“天才のお坊っちゃま”だよ。私みたいな意地汚い伯母に、“様”なんてつけなくて良いわ。敬語もよして」
リラは嫌味ったらしく自分を卑下し、「これでいいでしょ?」と言いたげな表情を浮かべながら、そう吐き捨てる。
それを見たリヒトが苛ついた表情を浮かべたため、エリオットがそれを抑えた。
「リヒト、気持ちはわかるが」
「あぁ……」
リヒトはフーッと大きく息を吐いて落ち着き、真顔に戻る。
「お、叔母様、あの」
フィンが何かを言おうと口を開くも、リラはそれを遮る。
「今回の件は悪かったわ。私がアンタを騙したの。カインは馬鹿で考えなしの息子だから、私の誘いに軽い気持ちで乗っただけ。私が悪いんだから、カインは許して頂戴」
どんなに狡猾でも、カインを想う気持ちはあるリラ。フィンに目を合わせることもなく不機嫌そうに言い放つと、フィンは眉を下げ切なそうに笑った。
「あの……伯母様のことも、怒ってないよ」
リラはフィンの言葉に眉を顰める。
「本当にそう思ってるなら馬鹿ね。アンタの旅費、わざと少なくしたのも気付いてないのかしら。都合よく家から追い出したのよ、私は」
リラは鼻で笑いながらフィンにそう言うと、フィンは目を丸くした。
「(リヒトの言う通りだった~!)……そうだったんだ。僕てっきり、伯母様がお金数えるの苦手だったから間違えたのかと……!」
フィンは天然でそう言って笑うと、エリオットは「ぶふっ」と笑いを堪え俯く。
カインでさえも顔を逸らし口に手を当てたため、リラは顔を赤くした。
「しっ失礼ね!!そのぐらいは出来るわよ!!」
リラはフィンに怒鳴るも、すぐさまリヒトに睨まれたためすぐに怯んだ。
「……はぁ。アンタって、本当にミラにそっくりで心底嫌になるわ。消えてくれたらいいのにっていつも思ってたわよ」
リラは悪意の籠った顔でフィンに笑いながら言うと、リヒトは「貴様!」と言いながら威嚇する狼のようにリラに怒りをぶつけた。あまりの剣幕に、リラとカインがビクッと体を震わせると、フィンは慌てて「リヒト!だめ!」と大声で叫びそれを止める。
「…………」
「怖い顔しないでね?」
「……分かった」
リヒトは叱られた犬のように大人しくなったため、リラとカインはフィンを只者じゃないと言った目で見た。
「(大魔法師を一喝できるなんて、この世でフィンだけだな……)」
エリオットは苦笑しながらフィンを見る。
「伯母様……僕ってそんなにお母さんに似てる?」
リラの妹“ミラ”はフィンの母親の名前。フィンは興味津々に耳を傾けた。
「……顔もそっくりだし、本が好きで頭が良い所とか、腹立たしいぐらいにしっかり受け継いでる。そのくせ、なーんか鈍臭くて、天然で、よく転びそうになって。何度意地悪しても怒ったりしない」
フィンは首を傾げる。
「伯母様、僕に意地悪したことあるの?」
リラは顔を引きつらせると、やがて溜息を吐きながら不機嫌そうな表情を浮かべた。
「本当、アンタを見るとミラを見ているようで苛々するわね。そーゆー鈍感なところが特に。あんな寒い屋根裏の部屋を与えられてる時点で、分からないの?」
リラの言葉に、フィンは目を丸くする。
「えっ……たくさん本があったし、毛布もあったし、気にしてなかったよ?蝋燭もくれたし!」
リラは無邪気にそう言うフィンを見て、再び顔を引きつらせた。
「そもそも、親族に奴隷として扱われている時点でおかしいと思わなかったのかしら?私は、アンタに嫌がらせしたくてそうしたのよ」
フィンはまたもや目を丸くする。
「?……そもそも僕、あのままだと別のところに奴隷として買われる予定だったんだよね?それを知った伯母様が、代わりに僕を引き取ったのかと思ってたんだけど……。それに、住まわせてもらってるのに何もしない方がおかしいよ」
フィンは困ったように笑いそう言い返す。
初めて聞くエピソードに、リヒトの目の色が変わり、エリオットも首を傾げた。
「馬鹿じゃないの、全く……」
リラはチッと舌打ちし、フィンから目を逸らす。
「私が好き好んでミラの子供なんて引き取るもんですか……どれだけめでたい頭してんのよ」
リラはそう言って悪態をついたが、フィンの頭ではリラは悪人として映っていない。
リヒトは訝しげな表情を浮かべながらリラに近づき、その場に片膝をついて手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと……!」
アカシックレコードで見られることに瞬時に気付いたリラは、慌てて後退りするも、リヒトの手はリラの額にピッタリとくっ付く。
「これで見た方が手っ取り早い」
リヒトの瞳孔が一瞬開き、再び収縮した。リラは澄んだ碧眼に吸い込まれるような感覚に陥る。
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