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夜の散歩をしようか②

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「フィン。書類がないのは、何か裏がある気がする。一回、視させてもらえないか?」


 俺はフィンの額に自分の額をくっつける。実は、エルフに対してはこのやり方が一番鮮明かつ綺麗に視ることが出来る有効な手段だ。


「うん、わかった……」


 完全に落ち込んでいるフィンを、俺は宥めるようにして背中を撫でながらアカシックレコードを発動させる。

 アカシックレコードは、視た相手の体験を疑似体験するような感覚で過去を視る事が出来る。
 フィンは自分に無頓着で、なおかつ疑うことが出来ない善人。そして何より素直な性格だ。そしてこういった性格は、利用されやすい。


「(俺の予想が当たらなければいいが)」



 記憶の海を泳ぎ、目的の場所に降り立つ。俺はフィンとしてこの記憶を覗く事になる。




--------------------------------



「なぁ、フィン。いっつも俺の宿題やってくれて有難う!今日も頼んでいいー?ちょっと遊んでくるわー!」


 フィンのいとこ、カイン・モレロ。商人の息子で、中流階級のため学校にも普通に通えている。
 フィンからしてこのいとこは「いい人」に映っているが、俺からすればどう見てもフィンを利用しているクソガキにしか見えない。


「はい、分かりましたー!」


 フィンは何の疑いも持つ事なく、カインの部屋で簡単そうに問題を解いていた。


「ちょっとフィン。カインの部屋で何してんの」


 不機嫌そうな面持ちでカインの部屋に入ってきたのは、リラ・モレロ。
 フィンの伯母に当たる人物だが、フィンに対しては優しく接する事なく、低賃金で奴隷として家事などをさせている。



「あ、ごめんなさいリラ伯母様!カイン様に宿題を頼まれてて」


 フィンがそう言うと、リラは眉を顰めた。


「アンタが宿題ぃ?学校に行ってないのに、出来るわけないでしょ」

「本を読めば大体わかりますよ?カイン様も、いつも全部合ってるって言ってます」


 フィンは屈託の無い笑みを浮かべると、リラは半信半疑で宿題を奪った。


「前からしてたワケ?あの子もほんっとに、奴隷にやらせるなんて……」


 リラはその紙に目を通すと、みるみるうちに顔色が変わっていく。


「なるほど、アンタはあの女の血をしっかりと引いてたワケね。……まぁいいわ。好きになさい。あとで洗い物もしときなさいよ」


 リラはそう言って宿題をフィンに返し、部屋を出て行った。



 場面が移り変わり、冬になると、フィンは寒い屋根裏部屋で本を読んでいた。
 北部の冬は厳しいというのに、暖炉のない部屋を与えるとは、はらわたが煮え繰り返る。

 フィンはさほど気にしている様子では無く、カインが貸してくれた魔法学の本を蝋燭の火を使いながらじっくりと読んでいる時、リラとカインがやってきた。



「フィン。話があるんだ。って、ここ寒っ」


 カインがそう言うと、フィンは毛布に包まりながら首を傾げる。
 そう思うのなら、もっと温かい服を貸したらどうだ?と俺は思うが、過去は変えられはしない。


「なあに?」


 リラがカインの前に出ると、「ミネルウァ・エクラ高等魔法学院」と書かれた封筒をフィンに手渡した。


「?」

「そこを受けなさい。アンタは頭がいい、ここにいちゃ勿体無いよ」

「学校ですか?でも、お金もないし……」

「地方特待生制度ってのがあるんだってさ!それで合格すれば無料で通える」


 カインはニッと嫌な笑みを浮かべるが、フィンは納得したような表情を浮かべ、他者の悪意を汲み取ることは出来ない。


「そうなんですね……わかりました!」


 フィンが笑顔で頷くと、リラも同じように嫌な笑みを浮かべる。


「書類は全部こっちで書いておくから、アンタは受験してくるだけでいいわ。合格したら王都までの費用も出してあげる」

「はい!わかりました!すごく嬉しいです」


 書類は本人のサインが必要なはずだ。何故フィンに書かせない?と俺は思ったが、もうこの時点で大体の予想は付いた。


「奴隷の身分じゃ受験は受けられないから、受験する時のサインはカインの名前を貸すわ。それなら受けれるから」


 リラの言葉に、フィンは一瞬首を傾げる。


「大丈夫!書類はフィンの名前だし、そういうのが普通らしいぜ!」

「?そう、ですか。わかりました!」


 フィンはカインの言葉を聞き疑うことなく頷くと、二人は部屋を後にする。
 知らない間に替え玉受験をさせられてたことに、フィンは最後まで気付かなかった。俺はこの親子に対する怒りが治らない。


 場面は移り変わり、フィンがモレロ家を出発する日。カインは封筒を手渡しフィンを見送る。


「合格おめでとう!これを持ってけばあとは大丈夫!気をつけて行けよー!王都までのお金もちゃんと入ってるから!じゃあなー」

「ありがとうございます!!」


 フィンはカインからの封筒を受け取り、中身を確認することなくカバンに入れた。すでにこの時点で、中には重要書類を入れてないはず。
 なるほど。王都までのお金が何故か足りなかったとフィンが言っていたが、わざと与えなかったに違いない。

 俺はアカシックレコードを解くと、現実世界に戻り瞬きをした。

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