41 / 69
好きと言えた日①
しおりを挟むその後、エヴァンジェリンの強い要望で本邸でディナーを食べたフィンとリヒトは、そのまま雑談をしていたが、双子が少しうとうとしていることに気づいたフィン。
「(あ……眠そう)」
エヴァンジェリンはフィンの視線に気付き、双子を見て「あら」と言って立ち上がる。
「眠そうね、シエル、ノエル。今日はもう休みましょう」
エヴァンジェリンがそう言うと、双子はハッとした顔になり首を横に振った。
「「やだー!ふぃんとあそぶー!」」
シエルとノエルはぷくーっと頬を膨らませ、フィンの横に行きぎゅうっと手を握った。
「ずいぶんと気に入られたようだね」
リヒトはフィンを取られた気持ちになり、複雑な心境で頬杖をつきながらその様子を眺める。
「(5歳の弟に嫉妬してるのか俺……みっともないな)」
リヒトの心の葛藤を知らないフィンは、ニコッと笑みを浮かべながら双子の手を握り返した。
「えへへ、嬉しいなぁ。おててあったかい」
リヒトじとっとした目でその様子を見続ける。
「(俺も触りたいんだけど)」
リヒトは椅子から立ち上がると、フィンにベッタリな双子を引き離すように持ち上げて軽々と両腕に抱えた。
「「わー!はなせー!」」
双子は手足をバタつかせ必死に暴れるが、リヒトは全く動じない。
「放さん。フィンは俺のだ。もう今日は俺に返してくれ」
「「やだー!かえさないー!」」
フィンがリヒトのものだという自覚はある双子だが、返さないの一点張りでリヒトの腕の中で暴れ続ける。
エヴァンジェリンは大人げないリヒトを見てクスッと笑いながら口を開いた。
「こぉら、もう今日は寝ないとダメよ」
エヴァンジェリンは双子の頭を優しく撫で笑顔でそう言うと、双子はスッと大人しくなり縦に頷いた。
「なぜ俺の言う事は聞かない」
リヒトは納得いかない表情で苦笑する。
「またあえる?」
「あえる?」
双子は潤んだ目でフィンを見つめ、寂しそうな表情を浮かべた。
「もちろん。また会いに行くからね(うわぁぁかわいいなあー!)」
フィンは双子の可愛さに悶えながら縦に頷く。
「また、ばくてんしてくれる?」
「くれる?」
双子は寝ぼけ眼で必死にフィンにお願いをする。
「(バク転?)」
リヒトがチラッとフィンを見ると、フィンは照れた表情を浮かべた。
「うん、バク転も逆立ちもまた見せてあげる」
フィンは双子の頬を同時に撫で、ふわりと優しく笑いかける。
「「うん、ぜったいだよ……うらぎることなかれ……」」
双子は嬉しそうに返事をすると、シュヴァリエ家の矜持を呟きながら、同時にリヒトの腕の中で眠った。
「(さすがシュヴァリエ家!)」
フィンは感心したような表情を浮かべてから、眠った双子を見て「おやすみ」と呟く。
「……ベッドに寝かせてくるから、待っててくれるかな?」
「うん、分かった!」
リヒトは双子を抱え一時的にその場を離れた。
「ご主人様、私は先に戻って休ませて頂きます」
アネモネは後ろからリヒトにそう言うと、ぺこりと頭を下げる。リヒトは少し振り返り、軽く笑みを浮かべる。
「あぁ、ご苦労様アネモネ」
アネモネはフィン達にも一礼すると、別邸に繋がる扉の方へ向かう。
「あ、アネモネ!」
フィンに呼び止められたアネモネは、ピタッと止まり機械的に振り返る。
「はい、何でしょうかフィン様」
「おやすみ!また明日!」
フィンは眩しいくらいの笑顔を見せ、アネモネに手を振った。
「……はい、おやすみなさい」
アネモネは再び扉に向かうと、口元が緩んでいる事に気付く。
「……?」
アネモネはそれを不思議に思いながら、自室へと戻るのであった。
-------------------------
「それじゃあ、今日はありがとうねフィンちゃん。また遊びに来てちょうだい」
エヴァンジェリンは、別邸に続くドアの前で、2人に対し手を振りながら笑顔で見送る。
「はい!おやすみなさい、エヴァ様」
「んもう!エヴァで良いって言ってるのにぃ」
エヴァンジェリンはぷくっと頬を膨らませる。
「そ!それは恐れ多いです」
フィンは慌てた表情でエヴァンジェリンを見ると、困ったように笑って両手を前に出す。
「姉様、あまりフィンを困らせないでください」
リヒトはジトッとした目でエヴァンジェリンを見る。
「あら嫉妬?」
「違います」
エヴァンジェリンはからかうように笑うと、「そういえば」と前置きしフィンを見た。
「フィンちゃんっていくつ?」
「えと、もうすぐ16です」
「まあ!若いわね」
フィンの年齢を聞いたエヴァンジェリンは、口に手を当て驚いた。
エヴァンジェリンは、疑り深い目でリヒトを見ると、フィンに聞こえないような声でこそっと耳打ちをする。
「ちょっとリヒト、まだ手は出してないわよね?だめよこんな純粋な子に卑猥な事させちゃ」
エヴァンジェリンの言葉に、リヒトは顔を引き攣らせる。
「……し、してませんよ(したけど)」
リヒトの言葉に、エヴァンジェリンは安心した表情を見せた。
「そ、ならいいけど。ほら、体格差もあるしフィンちゃん体ちっちゃいし、ちょっとキツ……」
「姉様!!もう行きますね、おやすみなさい」
リヒトはエヴァンジェリンの過剰な介入を遮り、フィンの手を引っ張って急いで扉を開いた。
フィンはペコっとエヴァンジェリンに礼をする。
「あぁん、もう。おやすみなさーい」
エヴァンジェリンはひらひらと手を振った後、パタンと扉が閉まると同時にニヤッと口角をあげる。
「……あの反応は、手を出したわね。フィンちゃん、辛くないといいけどなぁ~」
弟のことはお見通しのエヴァンジェリンは、ふわっと欠伸をし、フィンの笑顔を思い出しながら自室へ戻っていった。
「(可愛かったな~♪)」
その足取りは軽く、幸せな気持ちに浸るエヴァンジェリンであった。
254
お気に入りに追加
6,895
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる