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好きと言えた日①

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 その後、エヴァンジェリンの強い要望で本邸でディナーを食べたフィンとリヒトは、そのまま雑談をしていたが、双子が少しうとうとしていることに気づいたフィン。


「(あ……眠そう)」


 エヴァンジェリンはフィンの視線に気付き、双子を見て「あら」と言って立ち上がる。


「眠そうね、シエル、ノエル。今日はもう休みましょう」


 エヴァンジェリンがそう言うと、双子はハッとした顔になり首を横に振った。


「「やだー!ふぃんとあそぶー!」」


 シエルとノエルはぷくーっと頬を膨らませ、フィンの横に行きぎゅうっと手を握った。


「ずいぶんと気に入られたようだね」


 リヒトはフィンを取られた気持ちになり、複雑な心境で頬杖をつきながらその様子を眺める。


「(5歳の弟に嫉妬してるのか俺……みっともないな)」


 リヒトの心の葛藤を知らないフィンは、ニコッと笑みを浮かべながら双子の手を握り返した。


「えへへ、嬉しいなぁ。おててあったかい」


 リヒトじとっとした目でその様子を見続ける。


「(俺も触りたいんだけど)」


 リヒトは椅子から立ち上がると、フィンにベッタリな双子を引き離すように持ち上げて軽々と両腕に抱えた。


「「わー!はなせー!」」


 双子は手足をバタつかせ必死に暴れるが、リヒトは全く動じない。


「放さん。フィンは俺のだ。もう今日は俺に返してくれ」

「「やだー!かえさないー!」」


 フィンがリヒトのものだという自覚はある双子だが、返さないの一点張りでリヒトの腕の中で暴れ続ける。
 エヴァンジェリンは大人げないリヒトを見てクスッと笑いながら口を開いた。



「こぉら、もう今日は寝ないとダメよ」


 エヴァンジェリンは双子の頭を優しく撫で笑顔でそう言うと、双子はスッと大人しくなり縦に頷いた。


「なぜ俺の言う事は聞かない」


 リヒトは納得いかない表情で苦笑する。



「またあえる?」

「あえる?」


 双子は潤んだ目でフィンを見つめ、寂しそうな表情を浮かべた。


「もちろん。また会いに行くからね(うわぁぁかわいいなあー!)」


 フィンは双子の可愛さに悶えながら縦に頷く。


「また、ばくてんしてくれる?」
「くれる?」


 双子は寝ぼけ眼で必死にフィンにお願いをする。


「(バク転?)」


 リヒトがチラッとフィンを見ると、フィンは照れた表情を浮かべた。



「うん、バク転も逆立ちもまた見せてあげる」


 フィンは双子の頬を同時に撫で、ふわりと優しく笑いかける。


「「うん、ぜったいだよ……うらぎることなかれ……」」


 双子は嬉しそうに返事をすると、シュヴァリエ家の矜持を呟きながら、同時にリヒトの腕の中で眠った。


「(さすがシュヴァリエ家!)」


 フィンは感心したような表情を浮かべてから、眠った双子を見て「おやすみ」と呟く。



「……ベッドに寝かせてくるから、待っててくれるかな?」

「うん、分かった!」


 リヒトは双子を抱え一時的にその場を離れた。


「ご主人様、私は先に戻って休ませて頂きます」


 アネモネは後ろからリヒトにそう言うと、ぺこりと頭を下げる。リヒトは少し振り返り、軽く笑みを浮かべる。


「あぁ、ご苦労様アネモネ」


 アネモネはフィン達にも一礼すると、別邸に繋がる扉の方へ向かう。


「あ、アネモネ!」


 フィンに呼び止められたアネモネは、ピタッと止まり機械的に振り返る。


「はい、何でしょうかフィン様」

「おやすみ!また明日!」


 フィンは眩しいくらいの笑顔を見せ、アネモネに手を振った。


「……はい、おやすみなさい」


 アネモネは再び扉に向かうと、口元が緩んでいる事に気付く。


「……?」


 アネモネはそれを不思議に思いながら、自室へと戻るのであった。




-------------------------



「それじゃあ、今日はありがとうねフィンちゃん。また遊びに来てちょうだい」

 
 エヴァンジェリンは、別邸に続くドアの前で、2人に対し手を振りながら笑顔で見送る。


「はい!おやすみなさい、エヴァ様」

「んもう!エヴァで良いって言ってるのにぃ」


 エヴァンジェリンはぷくっと頬を膨らませる。


「そ!それは恐れ多いです」


 フィンは慌てた表情でエヴァンジェリンを見ると、困ったように笑って両手を前に出す。


「姉様、あまりフィンを困らせないでください」


 リヒトはジトッとした目でエヴァンジェリンを見る。


「あら嫉妬?」

「違います」


 エヴァンジェリンはからかうように笑うと、「そういえば」と前置きしフィンを見た。


「フィンちゃんっていくつ?」

「えと、もうすぐ16です」

「まあ!若いわね」


 フィンの年齢を聞いたエヴァンジェリンは、口に手を当て驚いた。
 エヴァンジェリンは、疑り深い目でリヒトを見ると、フィンに聞こえないような声でこそっと耳打ちをする。



「ちょっとリヒト、まだ手は出してないわよね?だめよこんな純粋な子に卑猥な事させちゃ」


 エヴァンジェリンの言葉に、リヒトは顔を引き攣らせる。


「……し、してませんよ(したけど)」


 リヒトの言葉に、エヴァンジェリンは安心した表情を見せた。


「そ、ならいいけど。ほら、体格差もあるしフィンちゃん体ちっちゃいし、ちょっとキツ……」

「姉様!!もう行きますね、おやすみなさい」


 リヒトはエヴァンジェリンの過剰な介入を遮り、フィンの手を引っ張って急いで扉を開いた。
 フィンはペコっとエヴァンジェリンに礼をする。


「あぁん、もう。おやすみなさーい」


 エヴァンジェリンはひらひらと手を振った後、パタンと扉が閉まると同時にニヤッと口角をあげる。


「……あの反応は、手を出したわね。フィンちゃん、辛くないといいけどなぁ~」


 弟のことはお見通しのエヴァンジェリンは、ふわっと欠伸をし、フィンの笑顔を思い出しながら自室へ戻っていった。


「(可愛かったな~♪)」


 その足取りは軽く、幸せな気持ちに浸るエヴァンジェリンであった。
 
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