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大魔法師たる所以④
しおりを挟むリヒトが防御魔法をかけた瞬間、ドラゴンベアーの足の爪がリヒト目掛けて伸びる。もちろん防御しているためリヒトに刺さることはないが、のっそりと立ち上がったドラゴンベアーは、あらゆる動きで防御魔法を壊そうと暴れた。
右パンチ、左パンチ、足を大きく上げて振り下ろす。時折、灼熱の炎を口から吐き出した。
ドラゴンの血を飲んでいるため、身体も魔力も大幅にアップしていることから、どの攻撃もまともに喰らえば即死レベル。
「熊が火を吹いてる……ドラゴンの血って凄まじいのね」
ミルは、珍しい物を見る目でドラゴンベアーの猛攻を見下ろした。
「(二種類の血を飲むと、こうも凶暴かつ強力な魔物に変貌するとはな。これが何体もいれば厄介かもしれない)」
どれだけ殴っても、口から火を放とうとも、ドラゴンベアーの攻撃は一切リヒトに当たらない。
防御魔法が壊れても、瞬時に新しい防御魔法が形成されているため、リヒトは涼しい顔でその場に立ちドラゴンベアーを観察していた。
ドラゴンベアーは怒りに任せ動いているため、魔力が暴発し体が徐々に大きく膨らんで巨大化している。
「(木の高さを超えてきてるな)キース、ミル、私の背後に来い。上も危なくなる」
「「はい!」」
リヒトはキースとミルに向かって大声で叫ぶ。二人はすぐに箒を操縦しリヒトの背後に降り立つと、巨大化したドラゴンベアーを見て顔を歪ませる。
「次は私の番だ。一撃で終わらせてやる」
リヒトは杖をドラゴンベアーに向け、目を閉じぶつぶつと何かを唱え始めた。
黄色と黒が入り混じる特大の魔法陣がドラゴンベアーの足元に浮かび上がり、さらに四方八方を囲むように白色の小さな魔法陣が宙に浮かび上がた。
「(古代語!?古代魔法を使う気か!?)」
「(シュヴァリエ公爵が詠唱している……!)」
二人は、防御魔法を繰り出しながらも聞いたことのない呪文を唱え続けるリヒトを、固唾を飲んで見守る。
リヒトはしばらくすると目を開き、透き通る碧眼でドラゴンベアーを捉えると、形の良い唇をうっすら開き呟くように呪文を唱えた。
「古代魔法・再現、竜殺しの剣」
リヒトがそう呟いた瞬間、白色の無数の魔法陣が閃光を放ち、白い雷がドラゴンベアーに降り注ぐ。高い魔力で召喚された純度の高い雷に、ドラゴンベアーは口を大きく開いて悶え苦しんだ。
「グッゥゥゥッゥ」
ドラゴンベアーは、不快な鳴き声を上げ続け、そのまま後ずさりする。何か警戒しているような動作で、リヒトに怯え逃げるようにも見えた。
ドラゴンの血が本能的にこの技を危険だと感知しているのか、ドラゴンベアーの様子がおかしい。
「シュヴァリエ公爵、これは一体」
キースが後ろから声をかけると、リヒトは振り返る。
「書物にある古代魔法の再現だ。これはあくまで私の解釈で魔法陣を組み立てているから、本物かは分からない」
「一体どんな技なんです?」
ミルの問いかけに、リヒトは前を向き黄色と黒の魔法陣を指差した。
「高純度の雷を媒介にして、ドラゴンを狩る古の剣が召喚される。大昔にドラゴンを制したと言われた召喚魔法だ」
降り注ぐ雷に打たれ続けているドラゴンベアーは、その場から動くことができず、差し迫る危機を待つしかない。
黄色と黒の魔法陣が雷を吸い続け、やがて恐ろしいスピードで拡大すると、真っ白な剣が凄まじい勢いで魔法陣の中央から飛び出し、ドラゴンベアーを一瞬で貫く。
「!?!?」
剣の大きさがドラゴンベアーの全長を軽々と超えており、おそらく遠くから見ても視認できるぐらい大きい剣に、キースとミルの顔は引き攣っていた。
「……かなり大きいのを召喚してしまったか。次やる時はもう少し抑えよう」
リヒトは真顔でそう呟く。
心臓を貫かれたドラゴンベアーは、ピタリと動きを止め鳴き声も上げず、目を見開き血を吐いた。
しかし、まだ息がある。リヒトは杖を軽く振った。
「竜殺しの剣」
心臓に突き刺さった剣は、リヒトがもう一度呼ぶことによって枝分かれをし、光状の線がドラゴンベアーの体を突き破る。
核を完全に失ったドラゴンベアーは。溶けるように跡形もなく散っていった。
「(ドラゴンベアーが強いのか全然分からないぐらいに一方的だった)」
キースは改めてリヒトの凄さを実感し、感動で身震いをする。
「(詠唱破棄に古代魔法、オマケに防御魔法をかけたまま他の魔法を発動させるなんて……)」
ミラも同じように、リヒトを尊敬の目で見つめ目を輝かせていた。
リヒトはふぅ、と一息つくと、何事もなかったかのように杖を箒に変換して「行くぞ」と一言放ち空に急上昇する。
キースとミラも慌ててそれに追い付き、3人は城に戻っていった。
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