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大魔法師たる所以③

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 東の森を箒で飛行しているリヒト、キース、ミルは、鬱蒼と茂る深い森に進んでいき、目的地を目指す。
 地図を見ながら2人を先導しているキースは、突然飛行を止めふわりとその場に漂った。


「シュヴァリエ公爵、目的地周辺に着きました!ドラゴンベアーは地中に潜んでいるかと」


 キースは声高らかにそう宣言すると、リヒトは森を見下ろした。王都への行手を阻むように結界があるため、それ以上進めないことから大暴れしていた形跡がある。
 木が薙ぎ倒された森の様子に、リヒトは眉を顰めた。


「……随分と荒らされてるな。確かに王都にこれが来れば被害が大きそうだ。結界も弱まってる」


 リヒトはそのまま高度を下げていき、目的地の地上へ足を踏み入れると、瞬時に箒を杖に変換して辺りを見回す。
 キースとミルもそれに合わせて降り立とうとしたが、リヒトは「待て」と言ってそれを拒んだ。


「空中で待機しろ。私が一人でやる」

「えぇ!?それは流石に危険です!」


 リヒトの提案に、キースは驚いた表情を浮かべ全力で止めに入るが、リヒトは冷静な顔でキースを見て溜息を吐く。


「誰に物を言っている。早く終わらせるために、特大の攻撃魔法を使うんだ。危ないから下がっていろ」


 リヒトはキースをギロリと睨み付けた。



「申し訳ありませぇーーーーん!!(怖ぁ!!!でも優しいぃーー!!)」


 キースは青ざめた顔ですぐに上に浮上し、12時の方向へ飛んでいくと、ミルも慌てながら後を追う。



「……さて、仕事をするか」



 リヒトは杖を持つと、荒れた地面に向かって振り翳した。地面には瞬時に多くの赤色の特大の魔法陣が浮かび上がり、複雑な紋様が記されていく。
 その様子を、キースとミルは緊張した面持ちで見守っていた。



「流石だな……無詠唱であんな特大範囲の魔法陣を組み立てるなんて……」


 キースは驚いた顔でリヒトの魔法を眺める。


「噂には聞いてましたけど、本当にすごいですね。私は無詠唱だと、あの魔法陣の5分の1の大きさも無理かと思います」


 ミルは同じ魔法師として、リヒトとは圧倒的な差があることを痛感し、溜息を吐いた。


「何言ってんだよ、お前は魔法師として優秀だろ?だから団長はお前を一番隊の隊長にしたんだ、誇りに思え」


 キースは励ますようにミルの背中をバシバシと叩く。


「(い、痛い……)はい、ありがとうございます!」



 特大の魔法陣からは、大量の魔力が溢れる。



「ドラゴンの血は魔力に反応する。起きろドラゴンベアー、私が相手だ」


 リヒトが小さく笑みを浮かべると同時に、地中から大きな爪が這い出る。やがて巨大な頭が顔を出すと、一気に体を地上に飛び出させた。


「グゥォォオオオオオ!!!!」


 全長5m以上はあるドラゴンベアーが、リヒトに向かって大きく吠える。


「来たか。随分と大きいな」


 魔法陣はドラゴンベアーを捉え、リヒトはもう一度杖を振った。
 すると、赤い魔法陣は閃光を放ち、大きな炎の柱が飛び出すとドラゴンベアーを包むように激しく焼いていく。


「……効いてないな」


 しかし、特級の炎魔法の攻撃が一切効いてない。ドラゴンベアーはダメージを負うことなく、逆に大きな爪でリヒトを攻撃した。
 リヒトは杖を振り前方に防御魔法をかけたため、その爪はリヒトに刺さることなく跳ね返される。



「(炎の耐性があるということは、火のドラゴンの血を吸っているな)」


 リヒトは、杖を振りまたもや特大の魔法陣を仕掛ける。青色の魔法陣が再び浮かび上がり、ドラゴンベアーを捉えた。


「氷はどうだ?」


 魔法陣からは氷の刃が連なり、ドラゴンベアーに突き刺さる。至る所から血を噴き出し、怪我をした部分が徐々に凍っていく。しかし、ドラゴンベアーが一度大きく吠えると、瞬時にその氷を砕き急速に怪我を治していった。


「……なるほど、確かにこれは厄介だな。氷も効かないとなれば、火と水の二属性の血を飲んでる。回復も早いし、魔力もかなり高い」


 氷の耐性もあり、さらに超回復で怪我を治しているドラゴンベアーに、リヒトは真顔でそう呟く。そしてすぐに杖を振ると、今度は黄色の特大魔法陣が現れた。


「(それならこれが効くはずだ)」


 魔法陣が強く光ると、今度は空から巨大ないかづちが降り注ぐ。



「ウガァァアアアアア」


 ドラゴンベアーは丸焦げになり、ズシンと大きな音を立てて仰向けに倒れた。
 攻撃はかなり効いている様子で、ドラゴンベアーは倒れたまま動かない。



「うぉぉ!特級の雷魔法なんて早々拝めるもんじゃないよなぁ」


 キースはドラゴンベアーに大ダメージを与えた雷魔法をキラキラした目で見ると、ミルは口をあんぐりと開けて驚いた。


「そもそも、火、水属性と違って雷は召喚魔法になるから扱える人は少ないんです……それなのに無詠唱であんな……やっぱりシュヴァリエ公爵って……規格外すぎますね」


 ミルは感嘆のため息をする。
 2人はドラゴンベアーが倒れるのを見ると、少し高度を落とした。


「……(殺さないように手加減するのが難しいな)」


 リヒトはすっかり倒れたドラゴンベアーに近付き、足の肉球に手を這わす。リヒトの瞳孔が一瞬大きく開くと、今度は小さく縮まった。


「アカシックレコード中かな」

「そうみたいですね……あんな特級の魔法連発させてもなお、特殊能力を使うなんて、疲れないんですかね?」

「疲れないから大魔法師なんだろ」

「ごもっともです」


 2人は会話をしながら固唾を飲んでその様子を見守る。
 リヒトはアカシックレコードを発動させ瞬時にドラゴンベアーの記憶を読み取り、数回瞬きをした後、眉を顰め苛ついた表情を浮かべた。



「…………なるほど、わざとドラゴンの血を飲まされた訳か」


 リヒトは、謎が解けたと言わんばかりの表情で肉球からスッと手を離す。
 その瞬間、ドラゴンベアーはパチっと目をひん剥くように開け、牙をだし爪を成長させた。それに気付いたキースは大声で叫ぶ。



「シュヴァリエ公爵!気を付けて下さい!」


 キースの声を聞いたリヒトは、「分かってる」と呟くと杖を振った。


 

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