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シュヴァリエ家の言い伝え④

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「……リヒトはね、イザックと同じだったのよ」


 エヴァンジェリンは、昔を思い出すように郷愁に駆られ、話を続けた。


「え……」


 フィンはタルトを食べる手を止め、真剣にエヴァンジェリンの話を聞く。


「リヒトは、生まれた瞬間から騒がれててね。歴代最強のイザックと同じ碧眼で産まれたもんだから、大魔法師の誕生だーっ!て。私も飛び跳ねて喜んだわ。それはもう本当に天才で、私に似て美形だからモテまくり」

「(じ、自分で言ってる!でも本当のことだ……)」


 フィンは、リヒトと初めて会った時、開口一番に「きれい」と言ったことを思い出し顔を赤らめる。


「でも、リヒトは恋をしなかったの。出来なかった、と言うべきかな。家族に対する愛情はあるけど、イザックのように、恋人にしたいという感情を、少しも他人に持つことが出来なかった」

「え……」


 フィンは、愛を囁くリヒトしか知らないため、そのエピソードに驚きを隠せなかった。
 エヴァンジェリンはフィンの頭を撫でながら話を続ける。



「あの子がそうね、16の時かしら。イザックの伝記を読んで、自分と全く同じだと気付いてから、イザックが編み出した魔法を試し出したの。それで、誰も住んでいなかったこの屋敷を改装して、1人で住むようになった。もうびっくりよ」


 エヴァンジェリンは思春期のリヒトを思い出し、深く溜息をつく。
 能力が高い分、周りに対しても見下した態度を取っていた時期があったからだ。



「自分は天才、イザックを超えるためにやってるだけって言ってたけど、きっと本心は、イザックと同じだったのよね。誰かを心から愛したいって気持ちがあったのかしら。天才は孤独って言うじゃない?家族じゃ埋められないのよね、その穴は」


 エヴァンジェリンは飛びっきり優しい顔でフィンを見つめる。


「でも良かった……貴方が現れて。あの子をよろしくね、フィンちゃん」


 エヴァンジェリンはフィンに横から抱き付き、涙を浮かべながら頬擦りをした。



「っは、はい、僕の方こそ、感謝してるんです……奴隷だった僕に良くしてくれて、優しくしてくれて」


 フィンは、そう言ってエヴァンジェリンにはにかむと、エヴァンジェリンはきゅんっと心臓を高鳴らせる。


「(リヒトが惚れる訳ね……可愛いもの……甘やかしたくなる~!!)」


 エヴァンジェリンはふと、フィンの腕を見る。見覚えのある腕輪が身に付けられている事に気づき、目を見開いた。


「あら、その腕輪。なるほど、ベルが鳴ったのは、リヒトの魔力がその腕輪に籠ってるからかしら?それ、シュヴァリエ家の当主にしか使えない魔宝具ね」

「えっ…………!」


 フィンは腕輪をまじまじと見つめて、青い魔石をじっと見つめる。


「それも説明も受けてない?」


 エヴァンジェリンは驚いた表情でフィンに問いかける。


「えっと、僕を守ってくれるとは言ってました」


 フィンは思い出したようにそれを伝えた。エヴァンジェリンはやれやれと軽くため息をついて、フィンに向き直り人差し指を立て口を開く。


「まあ簡単に言えばそうだけど。それ、イザックが残した魔宝具で、魔力を共有出来る物よ。元々魔力があまりなかった運命の恋人に贈った物らしいわ。売ったら金貨何千枚かしらねー」

「ひっ……」


 そんな高価な物をつけているのか、とフィンは青ざめた顔でエヴァンジェリンを見つめた。


「そ・れ・と。貴方が怖い思いをすると、リヒトにそれが伝わるようになっている。何処にいても駆けつけることが出来るように、ね。共感性の魔法よ、改めてすごい代物だと思うわ……」

「そう、なんですね……」


 リヒトがどれだけフィンを心配しているかが分かり、エヴァンジェリンはクスッと笑みを浮かべる。あの堅物で孤独な天才が、他者への愛に目覚めたというのは喜ばしい事だ。


「ねぇ、フィンちゃん」

「はい」
 

 エヴァンジェリンの呼びかけに、フィンは首を傾ける。



「リヒトのこと、好き?」


 エヴァンジェリンの問いかけに、フィンはドキッと心臓を高鳴らせ、顔を赤くする。


「そ、そのっ……僕も、恋とか、よく分かんなくて」

「(フィンちゃんっていくつなのかしら?)」


 フィンはぎゅっと膝を握って目をぎゅっと閉じた。


「でも、初めて会った時に、心があったかくなって、そのままリヒトの腕の中で寝ちゃったんです、僕。何だかその時、すごく幸せで」


 フィンから紡がれる言葉に、幸せが織り込まれている事に気付くエヴァンジェリン。


「それに!その……チョコレートも一緒に食べてくれるって……もう独りじゃないよって言ってくれて、たくさん抱き締めてくれて!」


 フィンはパッとエヴァンジェリンを見て必死に想いを語る。


「ドキドキする?」


 エヴァンジェリンが核心を突く質問をすると、フィンは顔を真っ赤にして一度頷いた。


「かっ可愛い……!!!」


 エヴァンジェリンは堪らずフィンに抱き付き、またもや頬擦りをする。フローラルの上品な香りがブワッと広がり、フィンはリラックスした表情を浮かべた。


「私はもう貴方の大ファンよ!!!リヒトのことで困ったことがあったら、絶対に私に言ってね!!いい!?」


 エヴァンジェリンはフィンの肩を掴み真剣な表情をする。


「は、はい!(こんなお姉ちゃんがいたらいいなあ~)」


 フィンはふにゃっと柔らかく笑みを浮かべ、エヴァンジェリンの手をふにゃっと優しく握る。


「(かっ可愛い可愛い可愛いー!!)じゃあ早速契約を……」

「!?」


 “シュヴァリエ家の家訓は“裏切ること勿れ”。契約を重視する家柄だよ”

 フィンはリヒトの言葉を思い出し、さすがシュヴァリエ家だ、と内心思うのであった。
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