28 / 69
シュヴァリエ家の言い伝え①
しおりを挟む「リヒトォォォォ!!!大丈夫なのーーーー!?!?」
「!?」
バコーン、と激しい音を立てて扉を蹴破り、2人の目の前に現れたのは、杖を持った銀髪の美しいハイエルフ。
「(リヒトと同じ色の髪!!)」
その形相は怒りと警戒心で満ち溢れ、只者ではない空気感を醸し出していた。
リヒトとは違い桃色の瞳をしているが、顔は何処となく似ており、さらにハイエルフのため、フィンよりも背が大きい。
アネモネがフィンの前に立っているため、ハイエルフはフィンを視認していなかった。
「?」
アネモネを見たハイエルフは、スッと魔力を収めて今度は不思議そうな表情を浮かべる。
「あら。ドールじゃない。さっき私から呼び出したけど不在って返したわよね?」
「はい」
「それなのに今、リヒトから呼び出しが来たわよ?呼び出されることなんて初めてだから、緊急事態かと思ったんだけど……あの子の気配はしないわね。何事なの?」
「エヴァンジェリン様、ご主人様は現在任務に行っておられますので、不在です。先程のは誤作動です」
アネモネは目上の人に対する敬意の籠ったお辞儀をしてから、淡々と話を始める。
エヴァンジェリンと呼ばれた美しい女性は、アネモネの言葉に顔を歪めた。
「不在!?だってベルがなったじゃなーい!誤作動なんて起きるわけないでしょ?そういう仕組み何だから!」
エヴァンジェリンは怪しげに部屋に入り込むと、アネモネの後ろに居たフィンと目が合う。
「………」
ピタッと足を止めたエヴァンジェリン。時間の流れが止まったような空気感になり、フィンは怯えた顔でエヴァンジェリンを見上げた。
エヴァンジェリンはしばらく、見定めるように真顔でフィンを見下ろしている。
「こ、こんにちは……な、鳴らしたの僕です、ごめんなさい」
フィンは震える声でエヴァンジェリンに挨拶をすると、エヴァンジェリンは何かを察したように目を見開く。
「そう……貴方がやったの」
エヴァンジェリンは少し膝を曲げて視線をフィンに合わせる。
「こんにちは。可愛いエルフちゃん」
「は、はいっ……」
エヴァンジェリンの、まるで花が咲いたような美しい笑顔に、フィンは少し安心してにこーっとはにかんだ。
「っ……!!(何、この白くてお人形みたいな可愛いエルフ。男か女かも分かんないけどっ!)」
エヴァンジェリンはカァーッと顔を赤くするも、ハッとした表情になりアネモネを見る。
「コホンッ……とりあえず、紅茶あるかしら」
---------------------------
あまり使われることのない客間に、フィンとエヴァンジェリンが向かい合って座っている。アネモネはフィンの横に立っており、テーブルには淹れたての紅茶が置いてあった。
「エルフちゃん、お名前は?」
エヴァンジェリンは警戒することなく、フィンに質問を投げかける。
「フィン・ステラです。あのっ……北部の出身で、庶民です。貴族でも何でもありません」
「(だから異常に肌が白いのね)ふふ、貴族とか庶民とか、今はそーんなことどうでもいいのよ。私はエヴァンジェリン・シュヴァリエ。シュヴァリエ家の長女で、リヒトのおねーちゃんよ」
エヴァンジェリンはそう言って笑みを見せると、紅茶に砂糖を入れて上品に飲みながらフィンを見つめた。
ロングヘアーで、美しいカールがかかったお嬢様のような出立ち。リヒトより優しい顔立ちをしており、フィンは絵本を見ているような気分になる。
「やっぱりそうなんですね!髪の色が一緒だから、そうかなーって」
フィンは遠慮がちにそう言うと、紅茶にレモンを浸して砂糖を入れて一口飲んだ。
「……ところで、単刀直入に聞くけど」
エヴァンジェリンは口角を上げ目を細めてフィンを見つめる。
「は、はい!(わ、なんかこの表情リヒトにそっくりー!)」
「貴方……もしかしてリヒトの、運命の恋人?」
フィンは、エヴァンジェリンの質問を受け、アネモネを見た。アネモネはコクリと頷いたため、フィンもコクリと頷いてエヴァンジェリンを不安げに見つめながら口を開く。
311
お気に入りに追加
6,895
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる