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シュヴァリエ家の言い伝え①

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「リヒトォォォォ!!!大丈夫なのーーーー!?!?」

「!?」


 バコーン、と激しい音を立てて扉を蹴破り、2人の目の前に現れたのは、杖を持った銀髪の美しいハイエルフ。


「(リヒトと同じ色の髪!!)」


 その形相は怒りと警戒心で満ち溢れ、只者ではない空気感を醸し出していた。
 リヒトとは違い桃色の瞳をしているが、顔は何処となく似ており、さらにハイエルフのため、フィンよりも背が大きい。

 アネモネがフィンの前に立っているため、ハイエルフはフィンを視認していなかった。


「?」


 アネモネを見たハイエルフは、スッと魔力を収めて今度は不思議そうな表情を浮かべる。


「あら。ドールじゃない。さっき私から呼び出したけど不在って返したわよね?」

「はい」

「それなのに今、リヒトから呼び出しが来たわよ?呼び出されることなんて初めてだから、緊急事態かと思ったんだけど……あの子の気配はしないわね。何事なの?」


「エヴァンジェリン様、ご主人様は現在任務に行っておられますので、不在です。先程のは誤作動です」


 アネモネは目上の人に対する敬意の籠ったお辞儀をしてから、淡々と話を始める。
 エヴァンジェリンと呼ばれた美しい女性は、アネモネの言葉に顔を歪めた。


「不在!?だってベルがなったじゃなーい!誤作動なんて起きるわけないでしょ?そういう仕組み何だから!」


 エヴァンジェリンは怪しげに部屋に入り込むと、アネモネの後ろに居たフィンと目が合う。


「………」


 ピタッと足を止めたエヴァンジェリン。時間の流れが止まったような空気感になり、フィンは怯えた顔でエヴァンジェリンを見上げた。
 エヴァンジェリンはしばらく、見定めるように真顔でフィンを見下ろしている。


「こ、こんにちは……な、鳴らしたの僕です、ごめんなさい」


 フィンは震える声でエヴァンジェリンに挨拶をすると、エヴァンジェリンは何かを察したように目を見開く。


「そう……貴方がやったの」

 
 エヴァンジェリンは少し膝を曲げて視線をフィンに合わせる。


「こんにちは。可愛いエルフちゃん」

「は、はいっ……」


 エヴァンジェリンの、まるで花が咲いたような美しい笑顔に、フィンは少し安心してにこーっとはにかんだ。


「っ……!!(何、この白くてお人形みたいな可愛いエルフ。男か女かも分かんないけどっ!)」


 エヴァンジェリンはカァーッと顔を赤くするも、ハッとした表情になりアネモネを見る。


「コホンッ……とりあえず、紅茶あるかしら」




---------------------------



 あまり使われることのない客間に、フィンとエヴァンジェリンが向かい合って座っている。アネモネはフィンの横に立っており、テーブルには淹れたての紅茶が置いてあった。


「エルフちゃん、お名前は?」


 エヴァンジェリンは警戒することなく、フィンに質問を投げかける。


「フィン・ステラです。あのっ……北部の出身で、庶民です。貴族でも何でもありません」

「(だから異常に肌が白いのね)ふふ、貴族とか庶民とか、今はそーんなことどうでもいいのよ。私はエヴァンジェリン・シュヴァリエ。シュヴァリエ家の長女で、リヒトのおねーちゃんよ」


 エヴァンジェリンはそう言って笑みを見せると、紅茶に砂糖を入れて上品に飲みながらフィンを見つめた。
 ロングヘアーで、美しいカールがかかったお嬢様のような出立ち。リヒトより優しい顔立ちをしており、フィンは絵本を見ているような気分になる。
 

「やっぱりそうなんですね!髪の色が一緒だから、そうかなーって」


 フィンは遠慮がちにそう言うと、紅茶にレモンを浸して砂糖を入れて一口飲んだ。



「……ところで、単刀直入に聞くけど」


 エヴァンジェリンは口角を上げ目を細めてフィンを見つめる。


「は、はい!(わ、なんかこの表情リヒトにそっくりー!)」


「貴方……もしかしてリヒトの、運命の恋人?」

 
 フィンは、エヴァンジェリンの質問を受け、アネモネを見た。アネモネはコクリと頷いたため、フィンもコクリと頷いてエヴァンジェリンを不安げに見つめながら口を開く。

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