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高級魔法人形・アネモネ④
しおりを挟む「…………」
出るな、と言われれば言われるほど、出たくなる。そんな事を思っていたフィンは、そもそも何故外出を禁じられているかを考え始めた。
「ねぇアネモネ、何で僕って外でちゃダメなんだろう」
リビングのソファーに座ったフィンは、まだ座り慣れないふかふかの感触に感動しながらアネモネを見上げた。
「理由は聞いておりませんが、出ようとしたら止めてくれ、と低い声で言われました」
アネモネはフィンに紅茶を差し出しながら、淡々と答える。フィンは紅茶に砂糖をたっぷりと入れて混ぜ、丁度いい温度になったところで口をつけた。
「王都って、そんなに危険なの?」
「わかりません」
「ちょっとだけ近くを散歩するのもだめ?」
「いけません」
「…………」
フィンはしょぼんとした表情で紅茶に映る自分の顔を見つめた。
「ねぇアネモネ、運命の恋人ってなに?僕ってリヒトに必要なの?」
「それは……」
アネモネが答えようとすると、玄関のベルが、リーンと甲高く鳴り響く。
「お客さん……?」
「この音は、本邸からのお呼び出しの連絡です。ご主人様はこの音が鳴れば自ら本邸に出向きます」
アネモネは玄関の方に向かって歩いたため、フィンもその後ろをついていく。
「いまリヒトはいないけど、どうするの?」
「私からお断りをします。チャイムを2度鳴らし返せば、今は不在、という意味で伝わります」
アネモネは玄関の前に着くと、黒い魔石が埋め込まれた玄関のベルを、2度鳴らす。
「これで大丈夫でしょう」
アネモネはベルからパッと手を離し、フィンの方をチラッと見る。
するとフィンは、もう1つのベルを見て首を傾けた。
「アネモネ、このベルは?」
フィンは青色の魔石が埋め込まれたベルを指差す。
「そちらは、ご主人様が外部からの人間を受け入れる時に鳴らすベルです。ご主人様にしか反応しない魔宝具ですが、基本的に使うことはありません」
「そうなんだ、なんで?」
「ご主人様は客人を迎えるときは本邸で行いますので」
「ふーん。この家に友達呼んだりしないんだ」
「呼ばれたことは一度もありません」
フィンは何気なくそのベルに触れる。リヒトにしか扱えないと言っていたため、まさかなるはず無いだろうと思っての行動だった。
リリリリン……
控えめで繊細なベルの音が、一度鳴り響く。
「え」
フィンはベルが鳴ったことに驚き目を見開いてアネモネを見た。
「……?」
アネモネ真顔だが、予想外の展開に言葉を失っている。
「こちらから鳴らすと、本邸に対して“来て欲しい”という合図になります」
「えっ」
「どなたかが来るかもしれません」
「えっ!?」
「これを鳴らすことにより、本邸からここへアクセス出来るようになるので」
アネモネは淡々とフィンに話すが、フィンは完全にパニクってしまい冷や汗を垂らした。
突如、背筋に悪寒が走る。ピリピリと殺気だった魔力の片鱗が、扉の向こうから漏れている。
「(こ、殺される……!?)」
フィンは思わず後退り、アネモネはそんなフィンを庇うように前に立った。
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