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高級魔法人形・アネモネ③
しおりを挟む「チェックメイト!」
フィンの高らかな勝利宣言が部屋に響き渡る。嬉しそうに飛び跳ね、魔法人形の周りをうろうろしながら喜びを露わにした。
「参りました」
魔法人形は真顔のまま、フィンを見てペコっと頭を下げる。
「じゃあ、僕からのお願い……」
「はい」
魔法人形はじっとフィンを見つめる。
「名前付けてもいいよね」
「……確認ですが、名前とは、私のでしょうか」
魔法人形の返事に、フィンは強く頷く。魔法人形は相変わらず真顔だが、少し戸惑った声のようにも感じたフィンは、不安げな表情を浮かべた。
「勝手に名前をつけたらダメって言われてるの?」
「いえ。ただ……」
「?」
「何故、魔法人形の私に名前が必要なのでしょうか。この家に魔法人形は一体のみで、区別の必要がありませんが」
魔法人形はフィンを見下ろしながら、首を傾げる。
「僕が呼びたいから、じゃダメかな……北部によく咲いていた、赤いアネモネにそっくりなんだ!その目の色が」
「アネ……モネ……?」
知らない花の名前を言われ、魔法人形は目を一度閉じ自身のアーカイブを探るも画像が出てこない。
「うん!だから、アネモネって呼んでもいい?」
フィンの無邪気な笑みに、絆されたように頷く魔法人形。
「承知、致しました……」
アネモネがコクリと頷くと、フィンは目を細め嬉しそうに笑った。
「僕のこともさー、フィンって呼んで欲しいんだけど……ダメ?」
「フィン様であれば可能です。高級魔法人形シリーズは、そういう仕組みなので」
「そっかー、じゃあフィン様でもいいから、名前で呼んでくれたら嬉しいな」
フィンはぎゅっとアネモネの冷たい陶器でできた手を握り、無邪気に笑いかける。
「承知しました、フィン様」
----------------------------
「ここにある書物のタイトルと内容は全て把握しております。キーワードを言っていただければ、近しい本をご紹介することも出来ます」
書物室に入ったフィンは、まるで図書館のように書物が並んでいる事に唖然とし、入り口で固まっている。
「あれ……ここってミスティルティン図書館の1つだったりする?」
「いえ。ここはご主人様であるシュヴァリエ公爵の私物です。幼少期から集めているそうです」
「す、すごい……」
確かに、よく見るとジャンルごとに整理され、絵本から古典語入門、小説や学校で使ったであろう書物がずらりと並んでいた。
「どうされますか?」
チェスの本を戻したアネモネは、フィンに声をかける。
「えっ……うーん。さっきのチェスの本で疲れちゃったから、本はいいや」
「かしこまりました」
フィンはファっと欠伸をし、何と無く外の空気を吸おうと、窓に向かって歩き出す。
「いけません」
アネモネはフィンの前に立ちはだかり、手を広げて通せんぼをした。
「え!?」
「外に出さないように言われておりますので」
アネモネはフィンが窓の近くに行くことさえ許さない様子。
「出ようとはしてなかったんだけど……まあ、仕方ないか」
フィンはしょんぼりとした顔で踵を返し、書物室を出る。アネモネもその後ろを歩き、まるで監視しているようだった。
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