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高級魔法人形・アネモネ①

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「はい。何でしょうかお客様」


 まさか返事が返ってくるとは思わなかったフィンは、ビクリと大きく跳ね上がり驚いた表情を浮かべる。
 真っ赤な瞳と黒色のボブヘアー。人形なので性別はないだろうが、女性のような顔立ちだった。メイド服を纏い、機械的な声と表情。背はフィンよりも10cmは大きかった。


「喋れるんですね……ご、ごめん、僕魔法人形のことあんまり知らないので!」

「…………」


 魔法人形は反応を示さず、じっとフィンを見つめるだけ。


「あの……」

「…………」

「デザートってありますか」

「かしこまりました」


 魔法人形は手早く不要な食器を全て下げると、プリンを用意してフィンの前に素早く置いた。するとそのまま、その場所に静止し再び目を閉じる。


「ありがとうございます……(本当に言ったら出してくれるんだ)」


 フィンがお礼を言っても、魔法人形は特に何も言わずに静止している。


「お名前はありますか?」


 フィンは首を傾け尋ねてみると、魔法人形はまたもやパチッと目を開け、機械的にフィンを見つめる。


「いえ。御座いません」

「なんて呼ばれていますか?」


 フィンはスプーンでプリンを救うと、それを口に運んだ。程よい甘さと香ばしいカラメルの味が絶妙で、一瞬蕩けた表情になる。


「ドール、と呼ばれております」

「それって商品名、ですよね?」

「はい」

「そう、ですか……」


 それからしばらく、フィンは無言でプリンを食べ、ちらちらと魔法人形の様子を伺った。


「ごちそうさまでした……美味しかったです」


 フィンはプリンを食べ終え器を持ち下げようとすると、魔法人形の目が開く。


「お待ちください。お下げしますので、置いておいてください」

「!?……あ、ごめんなさい。癖で」


 フィンがプリンの器をテーブルに置くと、魔法人形がそれを持ちキッチンへと運んでいく。


「…………」


 暇だったフィンはその跡を追いかけ、魔法人形の仕事の様子を観察した。
 皿洗い、洗濯、手紙の受け取り、部屋の掃除。あっという間にこなし、この家が綺麗に保たれている理由を知ったフィン。
 魔法人形が次にキッチンの掃除をしようとした時、フィンが声をかけた。


「知ってますか、ドールさん」

「?」


 フィンは笑顔で魔法人形に近付き、余ったレモンの皮を見せつける。紅茶が出された時に置いてあったレモンで、リヒトが使った後の物だった。


「レモン、でしょうか」

「そうです。使用済みのいらなくなったレモン。これ、油汚れ落ちるんです」


 そういってフィンは油汚れのある箇所をレモンの皮で擦る。するとみるみるうちに汚れが分解されていき、拭き取るだけで綺麗になった。


「…………」


 魔法人形は感情がないことを知っていてなお、フィンは話しかけ続ける。


「もし困ったら、使ってみてください。へへ」

「ありがとうございます。覚えました」


 魔法人形はヒラっとメイド服を持ちぺこりとお辞儀をする。上流階級に対する目下からのお辞儀だったため、フィンは目を見開いた。


「あの、僕」

「?」

「リヒトみたいにすごい貴族じゃないし、元は北部で奴隷でした」

「…………」

「だから僕にはそんな畏まらないで、ください……!」


 フィンはぎゅっと魔法人形の手を握り、まんまるの目でずいっと近寄ってニコッと笑みを浮かべる。
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