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クロワッサンとキッシュ③

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「(なんだろう?)」


 フィンはリヒトの背中を見送った後、テーブルに目を戻す。気付けば、自分が既にご飯を平らげていた事に目を見開いて驚いた。


「あれ……!もう食べちゃった?いつの間に……」


 フィンはふと、リヒトが半分残しているキッシュを見ると、フォークを持ちそーっとそれを刺した。


「(いらないなら、食べちゃえ~!)」


 フィンはリヒトのキッシュを口に運ぼうとすると、横から笑い声が聞こえた。


「もっと食べたいなら、人形に言えば新しいのをくれるよ?」


 既に戻ってきていたリヒトが、現場を見ていたのか可笑しそうに笑っている。


「あ……ご、ごめんなさい!残すのかな?って、もったいないなーって!!」


 フィンは再び顔を真っ赤にし、刺したキッシュを持ったまま静止する。


「俺の食べ残しでいいなら、食べて良いよ。足りないならもっと食べていいから、遠慮だけはしないで」


 リヒトは愛おしそうにフィンを撫でると、隣に座りフィンが持っていたフォークを持ってそれをフィンの口元に近付けた。


「ほら、あーん」


 フィンは目を丸くし動揺するも、目の前のキッシュをパクリと一口で頬張り咀嚼した。自分の手からご飯を食べたフィンを見て、リヒトは多幸感でいっぱいになる。


「ああ、そうだ。フィン、これを付けてあげるから、俺が帰るまでは外さないで」


 リヒトはフィンの腕に魔石が埋め込まれた金属製のブレスレットを嵌め込む。シルバー色で、魔石の色はリヒトの瞳の色に似たブルーだった。


「これ、なに?」


 フィンはブレスレットを嵌め込まれると、物珍しそうにそれを見つめながら首を傾ける。


「お守り。特別な物だよ、君を守ってくれる」

「……?ありがとう」


 フィンは特に気に求めず、そのブレスレットを受け入れた。リヒトは再び時計を見ると、「まずい」と言って立ち上がる。


「それじゃあ俺はもう出るから、良い子でお留守番してるんだよ。退屈なら、本ならいくらでもあるから好きなだけ読んで。遊びたければ、魔法人形がチェスの相手ぐらいならしてくれる。ご飯やお菓子も言えば出してくれるよ。16時までには帰るから、欲しい。わかった?」


 まるで過保護な親のような内容。あまりの剣幕に、フィンはとりあえず頷いてみせた。


「良い子だね。じゃあ、行ってくるよ」


 リヒトはフィンの唇に軽くキスをすると、そのまま背を向けて足早に歩き、扉に手をかける。フィンと離れるのが名残惜しいのか、一度振り返ると、すぐ後ろにフィンが立っていた。


「!」

「あ……あの、いってらっしゃい」


 フィンはリヒトを見送るため側まで来ており、じっとリヒトを見上げ少しはにかんだ。


「(反則だ……!)ああ、いってきます。愛してるよ」


 リヒトは照れたままフィンの頬にキスすると、扉を開く。玄関ではないのに、ミスティルティン魔法図書館前の路地裏に繋がっていた。
 リヒトはそのまま指を鳴らして箒を取り出すと、それに跨り華麗に空へと飛んでいく。扉は自然に閉まり、フィンがもう一度扉を開くも、そこは先程自分が通った廊下だった。


「……行っちゃった」


 フィンはテーブルに戻り、椅子にもう一度座ると、魔法人形を見た。
 北部のちょっとしたお金持ちが使っていたガタガタのカカシのような人形とは違い、大きな魔石が首に組み込まれ、エルフの姿をしている綺麗な陶器製の人形。



「こんにちは」


 フィンは恐る恐る魔法人形に話しかけてみると、人形はぱちっと目を開けてフィンを見つめた。

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