15 / 69
王都とチョコレート④
しおりを挟む「ありがとう、リヒト。すごく嬉しい」
フィンは照れ笑いを浮かべながら、心から嬉しそうにリヒトに笑いかけた。
「……お店ごと買おうか?」
店を出たリヒトは、フィンの笑顔を見て心臓に強い衝撃を受け、こんな笑顔を見られるならと店の購入を検討する。
「そ、そこまでしなくていい!なんでいつも極端なの」
フィンは店を眺めるリヒトの手を引き、慌ててその場からリヒトを離すように引きずった。
「俺は元来、かなり慎重な方なんだけど、君のことになると……そうはいかないようだね。大好きだよフィン。君のためなら何だって与えたい」
リヒトの突然の愛の言葉に、フィンは真っ赤な顔で俯きながら前を歩く。
リヒトを引っ張っていた手が、いつの間にか手を繋いでいた事に気付いたリヒトは、その手を優しく握り返した。
「あの……」
「ん?」
「お願いがあって」
フィンは路地で立ち止まり、少し照れた顔でリヒトを見上げる。
「どうしたのかな」
リヒトはキョトンとした顔でフィンの言葉を待つ。
「チョコレート、全部違う味だから……毎日一つずつ、半分こして一緒に食べて欲しいんだ」
フィンの小さな声で紡がれたお願いに、リヒトは目を細める。
「構わないけど、どうしてだい?」
リヒトは即答で承諾するも、理由が気になり首を傾ける。
フィンは過去を思い出すように寂しそうな表情で口を開いた。
「えと……もうかなり前の話なんだけどね。お母さんが死ぬ前、小さなチョコレートをくれて。僕はお母さんにも食べて欲しくて、一緒に食べようって言ったんだけど、お母さんは僕に全部くれて。次は一緒に食べようねって約束したんだ」
ピタリとフィンの足が止まる。
「それなのに」
フィンは、魔物に襲われて原型を留めていなかった両親の死体を思い出す。目の瞳孔が開き、少し呼吸が早まった。
明らかに様子がおかしい事に気づいたリヒトは、慌ててフィンを抱き締め頭を撫でる。
「……それ以上は言わなくても知ってる。大丈夫、大丈夫だから、フィン」
アカシックレコードは本人とシンクロして過去を視る能力のため、リヒトはその結末を知っていた。
リヒトの呼びかけに、フィンはハッとした表情で我を取り戻す。
「ご、ごめん!えと、だからつまり、えっと」
フィンはその場を取り繕って笑顔を見せる。
「食べよう」
「え……」
リヒトはフィンからチョコレートの袋を取ると、箱から一粒チョコレートを出す。
「今日の分、食べよう、フィン」
リヒトは摘んだチョコレートをフィンの口元に持っていき、ニコリと笑みを浮かべる。
「……」
フィンは小さい口で半分齧ると、リヒトはその残りを頬張る。
口の中に広がるのは、甘酸っぱいイチゴとビターチョコレートの風味。
「「いちご」」
2人は同時に味を言うと、お互い顔を合わせて自然と笑った。
「初めて食べる味だ。チョコレートに興味はなかったが、君のお陰で好きになったよ」
「……うん、美味しい!これからしばらくこんな美味しいチョコレートが毎日食べれるんだぁ」
フィンは、ふわりと柔らかく笑みを浮かべながらリヒトを見上げた。
歩きながらチョコレートの味について話していた2人だが、リヒトがふとフィンを見ると、大粒の涙を流している事に気づく。
「フィン」
名前を呼ばれると、急いで涙を拭うフィンだったが、自分でも抑えが効かないのか、ぽろぽろと溢れて止まらない。
「ごめんなさ、色々思い出しちゃっただけ、へへ……こんな風に、美味しいものを誰かと共有できて、嬉しいなって思ったら、なんか、勝手に……っ何でだろう」
チョコレートを引き金に母親を思い出し、そこから色々と思い出してしまったフィンは、感情が入り混じり勝手に涙が溢れて止まらなかった。
リヒトはフィンの涙を優しく拭い、心配そうに見つめ口を開く。
「……君は独りじゃない。今日からは毎日チョコレートを一緒に食べるんだよ。無くなったら次は別のものを買って、それを繰り返すんだ」
リヒトはフィンをお姫様だっこし、周囲の目を気にせず家路へと急ぐ。
「美味しくても、不味くても、それを共有して俺と会話をしよう。毎日だ。約束する」
リヒトはそう言いながらフィンの額にキスをすると、ミスティルティン魔法図書館の扉を開き自室へと繋げた。
「うっ……うぅ、ひぐっ……り、ひと」
フィンはリヒトの言葉に、余計に涙を流し嗚咽する。リヒトの服をぎゅっと握って自分の顔をリヒトの顔に押し付け涙を隠した。リヒトを呼び、溢れる感情を涙に変えて必死に呼吸をする。
「ここまでよく頑張ったね、愛しいフィン。これからは俺が守ってあげる。愛してるよ。」
フィンをそっとベットに寝かせたリヒトは、そのままリヒトに優しく口付けをする。
何度も繰り返し口付けをしているうちに、フィンの顔は紅潮しピタリと涙が止まった。
418
お気に入りに追加
6,932
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる