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王都とチョコレート③
しおりを挟む「チョコレートケーキ」
フィンは目を輝かせながらフォークを取ると、しっとりとしたチョコレートケーキを切り分けて頬張る。すると、今までに食べたことのない濃厚で上品な甘さに、フィンは思わず目を潤ませた。
チョコレート自体高価だが北部でも流通している。それでも、フィンは数回ほどしか口にしたことがない。
フィンは幸せそうな表情でチョコレートケーキの甘さに浸っていた。
「……そんなに美味しいのかい?」
余りにも美味しそうに食べるフィンを見て、リヒトはクスクスと笑った。
「すごくおいしい!世界で一番美味しいかも!食べる?」
フィンは感動の余り、敬語を忘れ身を乗り出してリヒトにチョコレートケーキを一口差し出す。リヒトは頬杖を付いていたが、フィンの興奮っぷりに目を見開き、驚いた表情を浮かべた。
「……」
フィンは、周囲の視線に気づくとハッとした表情になり固まる。徐々に顔が赤くなるのを感じ、わなわなと手が震えた。
「すすすすすみません、思わず敬語が抜けちゃいました……それにこんなお店ではしたないことを」
フィンが慌てて手を引っ込めようとすると、リヒトは素早くその手を掴みパクりとチョコレートケーキを頬張った。
「!?!?」
フィンは顔を真っ赤にし、力が抜けた様子で椅子に座る。
「ありがとう。美味しいな。君がくれたからか?」
リヒトは周囲を一瞥した後、フィンにクスッと笑みを浮かべた。少し舌なめずりをし、口についたチョコを舐めとる仕草がなんとも妖艶に映る。
フィンは口をパクパクさせながら驚いていた。
「さっきので思ったが、敬語は無い方がいい。うん、そうしよう」
「えっ」
「びっくりするぐらいに可愛かったよ、無邪気な君が」
「なっ……」
フィンは強く首を横に振り、リヒトの提案に困った顔を浮かべる。
「敬語をやめてくれるなら、この後チョコレート屋さんでチョコを買ってあげるよ」
「!!!」
---------------------------------
「……確かに言ったのは俺だけど、君ってチョコレートのことになったら誰にでも言うこと聞いたりしないよね」
高級チョコレートのお店で目を輝かせるフィンを横目に、リヒトはじとっと重たい視線をフィンに投げた。
「そこまで子供じゃないです」
フィンはぷくっと頬を膨らませる。
「あ」
敬語になっているため、リヒトが指摘をする。
「……色んな人の前でも敬語じゃなくていいの?」
フィンはリヒトをくいっと引っ張り、背伸びをしてこそっとリヒトにそう聞くと、リヒトは首を傾げた。
大魔法師がチョコレート屋に来ている、と店内は色めきだっていることにフィンは気付いている。ただの庶民である自分がリヒトに対してそんな口を聞いて、周囲の反感を買わないか危惧していた。
「俺がいいと言ったらいいに決まってる。父と先代の王は友人同士だったからね、名前で呼び合っていたよ」
「そうなの?」
「あぁ。仮に君に文句を言う奴がいたら殺s」
「だ、だめだよそれは!」
フィンはまたもや極端なことを言い出すリヒトを否定し、またチョコレートを選ぶために商品を眺めていた。
「それで、どれがいいのかな。好きなのをいくらでも選んでいいよ」
「まだ決まってない……」
フィンは優柔不断なため、中々選べないようだった。チョコレートにオレンジが入っている物、ベリー系のドライフルーツが細かく刻まれて入っている物、ブランデーが入ってる物。
まるで宝石のように並んだチョコレート達が、フィンを惑わせていた。
「…………」
リヒトは悩むフィンの姿を見て口を開く。
「全種類一つずつください」
「!?」
リヒトの注文に、フィンは思い切りリヒトを見て目を丸くした。そんな贅沢をしていいのかと言いたげの表情を浮かべる。
「かしこまりました(生のシュヴァリエ公爵……破壊的な美しさ……!!)」
店員は急いで全種類のチョコレートを箱に詰め、フィンに手渡す。
箱は3箱にも及び、フィンは嬉しそうにそれを持ってリヒトを見上げた。
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