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大魔法師たる所以①
しおりを挟む王族特務“大魔法師”は、基本的には表に出る事は少ない。それ故に、普段のリヒトはミスティルティン魔法図書館の運営及び契約業務の遂行をする事が基本的な仕事である。
しかし、屈強な騎士や魔剣師、優秀な魔法師ですら手に負えない事件があれば話は別だ。そうなると、王族特務機関がその事件を解決するのが決まりとなる。
大魔法師は、王国で働く全ての魔法師のトップ。リヒトが呼び出されると言うことは、相当な事件か、もしくはアカシックレコードが必要な案件だ。
「見ろよ、大魔法師様だ」
「素敵な銀髪」
「まだ独身らしいな」
「噂だけど、この前一頭地で可愛い子と歩いてたって」
「えー本当に!?」
王宮を凛とした表情で歩くリヒトの脳内は、フィンのことで頭がいっぱいだった。今頃何をしているか、退屈してないだろうかとそればかりを考えながら歩いていることを、周囲は知らない。
リヒトはコソコソされると、普段は睨みを効かせ一蹴するのだが、今日はそれをせず淡々と目的の場所を目指していた。
「シュヴァリエ公爵、今日おかしくねえか?」
リヒトを護衛するシュヴァリエ家の専属騎士団“ソレイユ”の副団長キースは、普段と違うリヒトの様子に疑問を抱いていた。
キースの横を歩く一番隊隊長・ミルも同感なのか、キースの言葉に激しく頷く。
「おかしいですね……なんかこう、ボーッとしているというか」
「だよなぁ?普段ならもっとこう、悪魔みたいな顔で」
「おい」
リヒトは立ち止まり、振り返る。
「「はい!申し訳ありません!」」
聞かれていたかと思った2人は、敬礼をしながらすぐに謝罪をした。
するとリヒトは首を傾け、怪訝な表情で2人を見るも、すぐに口を開いた。
「?何を謝っているのか分からないが、まあどうでもいい。キース、お前確か弟がいたな」
「へ!?(あれ、怒んないの!?)は、はい。もうすぐで14になる弟がおります!」
キースは上擦った声で返事をする。
「そうか」
リヒトはそう言って再び歩き出すと、話を続けた。
「その年のやつは何をあげたら喜ぶ?」
「へ!?(何でそんなこと聞くんだ?)え、えっと……そうですね、高級な杖をあげましたけど……」
「(それはもう最上級の物を用意してるな……)そうか。他は?」
リヒトは淡々とキースに質問をしている。ミルは何事かと言う顔で2人のやり取りを聞いていた。
「他!?そ、そうですね、ペットを欲しがってたのでフクロウをあげようかな~なんて思ったり」
「(フクロウか……いいかもな……いやでも、フィンが俺を差し置いてフクロウにばっか構ったらどうする。まだ早いな、やめとこう。もう少し経ったらプレゼントしようか)……そうか。検討しよう」
リヒトの「検討しよう」は前向きな言葉として騎士団内では通っており、キースはホッと胸を撫で下ろす。
「ミル。お前はスイーツに詳しかったか?」
リヒトは次に、ミルに質問を投げかける。
「あ、はい!お休みの日はよくスイーツのお店に行くことが多いです」
ミルは緊張した面持ちでリヒトの質問に答える。
「そうか。ならば聞くが、チョコレート系のお菓子で美味しい店は分かるか?」
リヒトの質問に、ミルは即答する。
「それであれば、最近流行りのマカロンなんてどうでしょう。二等地にあるクレアというお店で出すチョコレート味のマカロンが絶品でして(あれ?シュヴァリエ公爵ってチョコレート好きだっけ?)」
ミルの提案に、リヒトはピタリと足を止めた。
「そうか。有益な情報をありがとう」
「「(あ、ありがとう!?)」」
普段、感謝の気持ちを述べることが少ないリヒトが、こうも簡単にありがとうと言ったことで2人は驚愕する。
「(雨でも降るのか?いや嵐か?)」
キースは小声でミルに耳打ちをすると、ミルも大きく頷き怯えた表情を浮かべた。
そうこうしているうちに、目的の部屋の扉の前に着いた一行。
豪奢な扉の前に、リヒトと護衛達が綺麗に並び立った。
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