2 / 69
ミスティルティン魔法図書館②
しおりを挟む田舎の平坦な場所とは違うため、地図を見ながら四苦八苦し辿り着いたミスティルティン図書館。
決して豪奢な扉ではなく、王都にある商店街の並びに看板が小さくぶら下がっており、平凡な白い扉だった。
それでもフィンはワクワクが止まらない。OPENと札がぶら下がっているため、まだ開店していることを確認したフィンは、扉を押して中に入った。
「っ……」
一瞬眩い光に包まれ辿り着いたのは、本が全くない部屋。
「…………え?」
本棚はある。それも大きな白い本棚。
それらが生きているように不規則に動き、フィンの前には綺麗な一本道が出来た。
「本が無い?お客さんもいないし…とりあえず進めってことかな……」
フィンは部屋が暖かい事に気付き、薄汚れた白いローブを脱いであたりを見回す。少し寝癖がついた淡い栗色の髪の毛。その色を真似るように本棚の色が変わった。
「同じ色。僕の色を真似してるのかな?」
それに気付いたフィンは、自分の毛先をちょんっとつまみ嬉しそうに笑う。
「……すごいなぁ」
空っぽの本棚がどんどん道を作っていき、その光景が面白くて堪らなかった。導かれるように前に進むフィンは、いつしか心が踊るような感覚になり嬉しそうにはにかむ。
「王都に来て良かった。わくわくする」
ドキドキしながら足を進めると、今度は厳重に鍵がかかった扉があった。本棚はいつの間にか退路を塞ぎ、フィンはその扉を進むしか無い。
「え?え?あれ?後ろに道がない!?」
鎖で囲まれた扉をどうしろと?そんな顔で本棚を見たフィン。本棚は進めと言わんばかりに軽く前に揺れた。それが頷いているように見えたフィンは、本棚と会話している気分になり軽く笑う。
「ははっ、分かったよ」
フィンはとりあえず細いドアノブに手をかける。
すると一瞬で鎖が崩れ落ち、鍵が全て消え去った。
「えぇ!?」
そのまま引き寄せられるように扉が開き、勢いよく室内へ転がり込んでしまったフィンは床に倒れ込んだ。
慌てて顔を上げると、見知らぬハイエルフの男が突っ立っている。フィンは先ほどのワクワク感が一気に引いていき、自分が不法侵入してしまったかもしれないと不安感に襲われた。
「あ、あ、あの……」
フィンは慌てて立ち上がり、その男を見上げる。
貴族が着るような豪奢な服を身にまとい、銀色の長髪をした、まるで絵から飛び出したような美しい青年。澄んだ碧眼が印象的で、フィンは首が痛くなる程に背が高いその男に魅入ってしまった。そして、強烈に魂が震えるような鮮烈な衝撃が瞳を揺らす。
「きれい」
こんな美しいハイエルフがいるんだ、と目がちかちかしたフィンは、思った事をポロッと口に出してしまっていた。
男は一瞬動揺したように目を見開くも、すぐ真顔に戻る。
「……気配を感じると思ったら、いつの間にかお前がこの部屋の中にいるとはな。一体どこから入ってきた?」
少し警戒しながら声を発した男は、フィンの純粋な淡い栗色の瞳を見つめる。
「(どう見ても貴族ではないな。何者なんだ)」
男は、怪我だらけでボロボロの服を来た弱そうなフィンに釘付けになっていた。フィン同様、今までに感じたことのない鮮烈な衝撃を胸に感じ目を見開く。
「っ……(誤作動ではないのなら、コイツが?)」
初めて目にした時から、感じたことのない胸の高鳴りが続き男は眉を顰める。
一体この少年は何者かが気になって仕方なかった。
「ご、ごめんなさい、さっき後ろの扉から……あ、あれ!?」
フィンは先程入ってきた扉を指さそうとするも、振り向くとそこには本棚があるだけで何も無かった。
400
お気に入りに追加
6,895
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる