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ミスティルティン魔法図書館②

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 田舎の平坦な場所とは違うため、地図を見ながら四苦八苦し辿り着いたミスティルティン図書館。
 決して豪奢な扉ではなく、王都にある商店街の並びに看板が小さくぶら下がっており、平凡な白い扉だった。

 それでもフィンはワクワクが止まらない。OPENと札がぶら下がっているため、まだ開店していることを確認したフィンは、扉を押して中に入った。


「っ……」


 一瞬眩い光に包まれ辿り着いたのは、本が全くない部屋。


「…………え?」


 本棚はある。それも大きな白い本棚。
 それらが生きているように不規則に動き、フィンの前には綺麗な一本道が出来た。


「本が無い?お客さんもいないし…とりあえず進めってことかな……」


 フィンは部屋が暖かい事に気付き、薄汚れた白いローブを脱いであたりを見回す。少し寝癖がついた淡い栗色の髪の毛。その色を真似るように本棚の色が変わった。


「同じ色。僕の色を真似してるのかな?」


 それに気付いたフィンは、自分の毛先をちょんっとつまみ嬉しそうに笑う。


「……すごいなぁ」


 空っぽの本棚がどんどん道を作っていき、その光景が面白くて堪らなかった。導かれるように前に進むフィンは、いつしか心が踊るような感覚になり嬉しそうにはにかむ。


「王都に来て良かった。わくわくする」


 ドキドキしながら足を進めると、今度は厳重に鍵がかかった扉があった。本棚はいつの間にか退路を塞ぎ、フィンはその扉を進むしか無い。


「え?え?あれ?後ろに道がない!?」


 鎖で囲まれた扉をどうしろと?そんな顔で本棚を見たフィン。本棚は進めと言わんばかりに軽く前に揺れた。それが頷いているように見えたフィンは、本棚と会話している気分になり軽く笑う。


「ははっ、分かったよ」


 フィンはとりあえず細いドアノブに手をかける。
 すると一瞬で鎖が崩れ落ち、鍵が全て消え去った。



「えぇ!?」


 そのまま引き寄せられるように扉が開き、勢いよく室内へ転がり込んでしまったフィンは床に倒れ込んだ。
 慌てて顔を上げると、見知らぬハイエルフの男が突っ立っている。フィンは先ほどのワクワク感が一気に引いていき、自分が不法侵入してしまったかもしれないと不安感に襲われた。


「あ、あ、あの……」


 フィンは慌てて立ち上がり、その男を見上げる。
 貴族が着るような豪奢な服を身にまとい、銀色の長髪をした、まるで絵から飛び出したような美しい青年。澄んだ碧眼が印象的で、フィンは首が痛くなる程に背が高いその男に魅入ってしまった。そして、強烈に魂が震えるような鮮烈な衝撃が瞳を揺らす。


「きれい」


 こんな美しいハイエルフがいるんだ、と目がちかちかしたフィンは、思った事をポロッと口に出してしまっていた。
 男は一瞬動揺したように目を見開くも、すぐ真顔に戻る。



「……気配を感じると思ったら、いつの間にかお前がこの部屋の中にいるとはな。一体どこから入ってきた?」


 少し警戒しながら声を発した男は、フィンの純粋な淡い栗色の瞳を見つめる。


「(どう見ても貴族ではないな。何者なんだ)」


 男は、怪我だらけでボロボロの服を来た弱そうなフィンに釘付けになっていた。フィン同様、今までに感じたことのない鮮烈な衝撃を胸に感じ目を見開く。


「っ……(誤作動ではないのなら、コイツが?)」


 初めて目にした時から、感じたことのない胸の高鳴りが続き男は眉を顰める。
 一体この少年は何者かが気になって仕方なかった。


「ご、ごめんなさい、さっき後ろの扉から……あ、あれ!?」


 フィンは先程入ってきた扉を指さそうとするも、振り向くとそこには本棚があるだけで何も無かった。

 
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