上 下
54 / 69

入学式①

しおりを挟む


「リヒト、僕おかしくないかなー?髪の毛とか、変じゃない?制服もちゃんと着れてる!?」



 ミネルウァの制服を着たフィンは、入学式の会場となるミネルウァ・エクラ高等魔法学院の大ホール“エクラホール”の前で、くるくると回りながら不安げな表情でリヒトに尋ねる。
 白シャツに黒の細リボン。その上から膝下まである内側が淡い青色の黒ローブを羽織り、下はハーフパンツとハイソックス。長ズボンもあったが、リヒトはハーフパンツの方が似合うと思いそちらを勧めた。

 

「おかしいとこなんて一つもないよ。似合ってる」


 リヒトは有名人なため、大勢の中であまり目立たぬよう白いローブを着てフードを深く被っている。そのため、フィンの後継人がリヒトだということは誰にも分からない。


「よかった!……わっ」


 フィンは満面の笑みを浮かべながらリヒトの所へ駆け寄ると、転びそうになり前のめりによろめいた。


「フィン!」


 寸前のところで浮遊魔法を発動させたリヒトのおかげで、怪我をせずに済んだフィンは申し訳なさそうに笑った。


「ごめんなさい」

「怪我だけはやめて欲しいな……心臓が痛い」

「はーい」


 浮かれ気分のフィンは、すぐに笑顔になり手をあげて返事をした。


「(本当に分かってるのか……?)」


 リヒトは一瞬疑いの目を向けるも、笑顔なフィンに絆され頭を撫でた。
 ふと、ホールの上に付いている時計を見る。十時から入学式だから、そろそろ入った方がいいな、とリヒトはフィンの方へ向き直った。


「時間だ、入場しようか」

「うん!」


 ホールの手前に多くのブースがあり、全て受付として機能していた。
 入口を見たリヒトは、そこに佇むエリオットを見つける。エリオットはニヤリと笑みを浮かべたため、リヒトもそれに合わせ、クスッと笑みを浮かべた。

 空いている受付の前に立ったリヒトは、合格通知書を出して口を開く。


「新入生のフィン・ステラと、その後見人のリヒト・シュヴァリエだ」

「(え……?シュヴァリエ侯爵!?)」


 受付のエルフの女性は、一瞬ギョッとした表情を浮かべるも、すぐに淡々と作業をこなして行く。


「合格おめでとうございます。フィン・ステラ様はA組ですので、待機室のA組の列にお並びください。あとは……あ!新入生代表のブローチをお渡ししますので、これをつけて下さいね」


 フィンはダイヤモンドで出来た小ぶりのブローチを受け取ると、ぎゅっと握りしめ緊張した面持ちでリヒトを見上げる。
 リヒトは「付けてあげるよ」と言ってそれを受け取ると、襟元に綺麗に装着した。



「緊張しなくてもいい。いつものフィンで大丈夫だよ。君は自分が思ってるより、うんと凄い子だ」


 リヒトが伏し目がちの目でフィンを見ると、耳元でそう囁き綺麗な笑みを浮かべる。フードの隙間から垣間見えるその麗しい表情に、受付から見ていたエルフの女性は顔を赤くした。


「(シュヴァリエ公爵……麗しい美しさ……!抱かれたい……!)」


 リヒトはフィンの頬にキスをすると、エルフの女性の熱い視線に気付き、チラッとそちらを向いて、小さく笑い口に人差し指を当てる。


「(たまにはサービスしておこう。印象は良い方がフィンのためにもなる)」


 リヒトの思惑など露知らず、その妖艶な表情に、エルフの女性は頷くしかなかった。



「フィン、行っておいで。後見人は観覧席に行かなければならないから、寂しいけどここで一旦お別れだ」

「うん。……また後でね。スピーチもちゃんと考えたんだ。僕の今の気持ちを話すよ」


 フィンはリヒトと離れるのを名残惜しそうにするも、最後は笑顔でそう言って駆け足でホールの中へと入って行く。リヒトはそれを見送り手を振って頷いた。


「……さて」


 エリオットは既に入口にはいなかったため、リヒトはきょろきょろと辺りを見回す。
 すると、見覚えのある親子が見えたため、リヒトはゆらっと近付き様子を伺った。



「(カインとリラだな)」


 予定通り足を運んできたカイン・モレロとその母リラを見つけ、リヒトはフードを深く被った。
 二人はリヒトに見られている事に気付かずに受付に行くと、リラが自信満々の表情で鞄から合格通知を取り出す。
 受付二人は、それを受け取り何やらこそこそと話しながらカインとリラを見た。
 
 不安になったカインは、リラの方を見て口を開く。


「母さん、ホントにいいのかな。バレないの?」


 カインはここまで来て怖気付き、ボソッとリラに耳打ちするが、リラは鼻で笑って受け流す。


「バレる訳ないでしょ。フィンに王都まで行けるお金はあげてないし。まあ運が良くて、どっかでまた奴隷になってるでしょうね。あぁ、顔は良いし男娼ぐらいはできるんじゃない?それに、万が一ここに来たって、書類も後見人もいないんじゃあ追い返されるわ」


 リラは大笑いをしながらカインにそう言うと、カインは「あ、あぁ……そうだよね」と歯切れ悪く頭を掻いた。
 その後ろでリヒトは聞き耳を立て、静かに怒りを現す。


「(このクズ親が。今すぐ王族特務の権限で投獄してやろうか)」


「ふんばれよリヒト。ここでキレたら台無しだ」


 エリオットはいつの間にかリヒトの後ろにピッタリとくっつき、リヒトの怒りを感じたのかボソッと耳打ちをする。


「ああ、分かってる」


 リヒトは深呼吸をして頷くと、エリオットは「行こうか」と言う。リヒトは縦に頷くと、二人はエクラホールへと消えていった。
 カインとリラは、相変わらず能天気に会話をしている。


「カインがこんな良い学校に通えるなんて母さんは鼻高々よ!」

「……(友達には自慢しちゃったし、後に引けないよなぁ)」


 カインが溜息を吐くと同時に、受付の女性が口を開いた。


「…………お待たせしました」

「あら。随分と時間かかったわね。で、うちの息子はどのクラス?」


 リラの強気な態度を受けても、受付はニッと笑顔を浮かべたまま淡々と続ける。


「カイン・モレロ様は満点合格でしたので、特別室の案内になります。入り口に入って右にお進み頂き、風のエレベーターで上に行って特別観覧室にで入られてください。副学長がお待ちですので」

「まぁ(そんなに出来る子だったのね、あの子)」

「満点って……」


 二人は一瞬目を丸くするも、言われた通りに上へと向かう。
 その道中、カインはフィンに似たエルフを見かけた目を見開いた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...