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入学式①
しおりを挟む「リヒト、僕おかしくないかなー?髪の毛とか、変じゃない?制服もちゃんと着れてる!?」
ミネルウァの制服を着たフィンは、入学式の会場となるミネルウァ・エクラ高等魔法学院の大ホール“エクラホール”の前で、くるくると回りながら不安げな表情でリヒトに尋ねる。
白シャツに黒の細リボン。その上から膝下まである内側が淡い青色の黒ローブを羽織り、下はハーフパンツとハイソックス。長ズボンもあったが、リヒトはハーフパンツの方が似合うと思いそちらを勧めた。
「おかしいとこなんて一つもないよ。似合ってる」
リヒトは有名人なため、大勢の中であまり目立たぬよう白いローブを着てフードを深く被っている。そのため、フィンの後継人がリヒトだということは誰にも分からない。
「よかった!……わっ」
フィンは満面の笑みを浮かべながらリヒトの所へ駆け寄ると、転びそうになり前のめりによろめいた。
「フィン!」
寸前のところで浮遊魔法を発動させたリヒトのおかげで、怪我をせずに済んだフィンは申し訳なさそうに笑った。
「ごめんなさい」
「怪我だけはやめて欲しいな……心臓が痛い」
「はーい」
浮かれ気分のフィンは、すぐに笑顔になり手をあげて返事をした。
「(本当に分かってるのか……?)」
リヒトは一瞬疑いの目を向けるも、笑顔なフィンに絆され頭を撫でた。
ふと、ホールの上に付いている時計を見る。十時から入学式だから、そろそろ入った方がいいな、とリヒトはフィンの方へ向き直った。
「時間だ、入場しようか」
「うん!」
ホールの手前に多くのブースがあり、全て受付として機能していた。
入口を見たリヒトは、そこに佇むエリオットを見つける。エリオットはニヤリと笑みを浮かべたため、リヒトもそれに合わせ、クスッと笑みを浮かべた。
空いている受付の前に立ったリヒトは、合格通知書を出して口を開く。
「新入生のフィン・ステラと、その後見人のリヒト・シュヴァリエだ」
「(え……?シュヴァリエ侯爵!?)」
受付のエルフの女性は、一瞬ギョッとした表情を浮かべるも、すぐに淡々と作業をこなして行く。
「合格おめでとうございます。フィン・ステラ様はA組ですので、待機室のA組の列にお並びください。あとは……あ!新入生代表のブローチをお渡ししますので、これをつけて下さいね」
フィンはダイヤモンドで出来た小ぶりのブローチを受け取ると、ぎゅっと握りしめ緊張した面持ちでリヒトを見上げる。
リヒトは「付けてあげるよ」と言ってそれを受け取ると、襟元に綺麗に装着した。
「緊張しなくてもいい。いつものフィンで大丈夫だよ。君は自分が思ってるより、うんと凄い子だ」
リヒトが伏し目がちの目でフィンを見ると、耳元でそう囁き綺麗な笑みを浮かべる。フードの隙間から垣間見えるその麗しい表情に、受付から見ていたエルフの女性は顔を赤くした。
「(シュヴァリエ公爵……麗しい美しさ……!抱かれたい……!)」
リヒトはフィンの頬にキスをすると、エルフの女性の熱い視線に気付き、チラッとそちらを向いて、小さく笑い口に人差し指を当てる。
「(たまにはサービスしておこう。印象は良い方がフィンのためにもなる)」
リヒトの思惑など露知らず、その妖艶な表情に、エルフの女性は頷くしかなかった。
「フィン、行っておいで。後見人は観覧席に行かなければならないから、寂しいけどここで一旦お別れだ」
「うん。……また後でね。スピーチもちゃんと考えたんだ。僕の今の気持ちを話すよ」
フィンはリヒトと離れるのを名残惜しそうにするも、最後は笑顔でそう言って駆け足でホールの中へと入って行く。リヒトはそれを見送り手を振って頷いた。
「……さて」
エリオットは既に入口にはいなかったため、リヒトはきょろきょろと辺りを見回す。
すると、見覚えのある親子が見えたため、リヒトはゆらっと近付き様子を伺った。
「(カインとリラだな)」
予定通り足を運んできたカイン・モレロとその母リラを見つけ、リヒトはフードを深く被った。
二人はリヒトに見られている事に気付かずに受付に行くと、リラが自信満々の表情で鞄から合格通知を取り出す。
受付二人は、それを受け取り何やらこそこそと話しながらカインとリラを見た。
不安になったカインは、リラの方を見て口を開く。
「母さん、ホントにいいのかな。バレないの?」
カインはここまで来て怖気付き、ボソッとリラに耳打ちするが、リラは鼻で笑って受け流す。
「バレる訳ないでしょ。フィンに王都まで行けるお金はあげてないし。まあ運が良くて、どっかでまた奴隷になってるでしょうね。あぁ、顔は良いし男娼ぐらいはできるんじゃない?それに、万が一ここに来たって、書類も後見人もいないんじゃあ追い返されるわ」
リラは大笑いをしながらカインにそう言うと、カインは「あ、あぁ……そうだよね」と歯切れ悪く頭を掻いた。
その後ろでリヒトは聞き耳を立て、静かに怒りを現す。
「(このクズ親が。今すぐ王族特務の権限で投獄してやろうか)」
「ふんばれよリヒト。ここでキレたら台無しだ」
エリオットはいつの間にかリヒトの後ろにピッタリとくっつき、リヒトの怒りを感じたのかボソッと耳打ちをする。
「ああ、分かってる」
リヒトは深呼吸をして頷くと、エリオットは「行こうか」と言う。リヒトは縦に頷くと、二人はエクラホールへと消えていった。
カインとリラは、相変わらず能天気に会話をしている。
「カインがこんな良い学校に通えるなんて母さんは鼻高々よ!」
「……(友達には自慢しちゃったし、後に引けないよなぁ)」
カインが溜息を吐くと同時に、受付の女性が口を開いた。
「…………お待たせしました」
「あら。随分と時間かかったわね。で、うちの息子はどのクラス?」
リラの強気な態度を受けても、受付はニッと笑顔を浮かべたまま淡々と続ける。
「カイン・モレロ様は満点合格でしたので、特別室の案内になります。入り口に入って右にお進み頂き、風のエレベーターで上に行って特別観覧室にお二人で入られてください。副学長がお待ちですので」
「まぁ(そんなに出来る子だったのね、あの子)」
「満点って……」
二人は一瞬目を丸くするも、言われた通りに上へと向かう。
その道中、カインはフィンに似たエルフを見かけた目を見開いた。
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