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契約のすすめ②

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「そういえばこれ、破ったらどうなるんですか?」


 フィンはハッとした顔になり、慌ててリヒトに質問をする。


「(やっと気付いたか)それを確認せずサインするなんて、君は危なっかしい子だね、本当に」


 リヒトはフィンのサイン済みの契約書に自身のサインをする。その瞬間、契約書は強く光って瞬く間に消え失せた。


「シュヴァリエ家が作る高等契約書は、双方のサインが済めば自動的にアーカイブに保存される。これで契約は完了」

「(破った場合の契約内容って、もしかしてさっきの古代語……?)」


 フィンは、不安げな表情でリヒトを見上げた。そんな表情でさえも愛おしいと感じているリヒトは、ニィッと口角を上げる。


「君が古代語を読めないのは知っている。……内容、教えてほしい?」


 リヒトはフィンにコソッと耳打ちをし、意地悪な笑みを浮かべ首元に音を軽く立ててキスをした。


「教えてほしいです……」


 首元に柔らかく落ちた唇の感触に悶えながら、フィンはコクリと一度頷いた。
 リヒトは姿勢良く立ち、まるで教壇に立つ教師のような振る舞いで口を開く。


「次からは、きちんと契約内容を確認してからサインするんだ。納得いかない時は、双方が納得行く内容に落とし込んでから契約する。無理なら契約はしない。王都では常識だからね、覚えておくんだよ」


 リヒトの言葉は正論だ。自分は余りにも無知すぎた、と反省しショボンと項垂れるフィン。


「……すごく、勉強になります」

「そんな子猫みたいに落ち込まなくても……可愛いね、君は本当に」


 リヒトはフィンの頭をふわふわと撫でて愛おしそうに見つめる。


「まぁ、そもそも君は俺の許可なしで他の誰かと契約することは禁止。内緒でそんな事をしたらそうだね……契約相手を殺すしかな」

「あー!!だめですそんなの!!しません、勝手にしませんからっ!!」


 なんて極端な考えの人だろう、とフィンは焦った様子で首を横に振る。
 

「それならいいけど、ね」


 フィンは妖しく笑うリヒトの笑顔にゾクッと背筋を凍らせ、無言で頷いた。


「(本気だ……)」


「話を戻そうか。いい子な君に教えるけど、さっきの契約を破ったら、1週間毎日俺の好きな時間に100回連続でキスしてもらうことになってる」

「ひゃ、100回……き、キス?えぇ!?」


 契約内容を教えたリヒトは、可笑しそうに笑った。


「は、恥ずかしすぎませんかそれ……」


 契約内容のくだらなさに、フィンは愕然とする。しかし同時に、ある事に気付いた。


「もしかして、契約の危なさを教えるために、わざとどうでもいい契約をしたんですか……?」


 フィンはじっとリヒトを見つめる。


「……これからも色々教えてあげるよ、俺はこう見えて大魔法師だからね。学校なんて行かなくても、俺が教えてもいいくらいなんだけど」


 リヒトは明確に頷かなかったが、無知な自分を危険な目に合わせないように知恵を与えてくれているのだと気付き、小さくはにかんだ。


「ありがとうございます。でも学校は行きますからね!」


 フィンの笑顔で、心が穏やかになったリヒトは優しく笑みを返した。


「ああ。当然の権利だよ」


 リヒトは満足そうに笑みを浮かべる。

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