上 下
11 / 69

契約のすすめ②

しおりを挟む


「そういえばこれ、破ったらどうなるんですか?」


 フィンはハッとした顔になり、慌ててリヒトに質問をする。


「(やっと気付いたか)それを確認せずサインするなんて、君は危なっかしい子だね、本当に」


 リヒトはフィンのサイン済みの契約書に自身のサインをする。その瞬間、契約書は強く光って瞬く間に消え失せた。


「シュヴァリエ家が作る高等契約書は、双方のサインが済めば自動的にアーカイブに保存される。これで契約は完了」

「(破った場合の契約内容って、もしかしてさっきの古代語……?)」


 フィンは、不安げな表情でリヒトを見上げた。そんな表情でさえも愛おしいと感じているリヒトは、ニィッと口角を上げる。


「君が古代語を読めないのは知っている。……内容、教えてほしい?」


 リヒトはフィンにコソッと耳打ちをし、意地悪な笑みを浮かべ首元に音を軽く立ててキスをした。


「教えてほしいです……」


 首元に柔らかく落ちた唇の感触に悶えながら、フィンはコクリと一度頷いた。
 リヒトは姿勢良く立ち、まるで教壇に立つ教師のような振る舞いで口を開く。


「次からは、きちんと契約内容を確認してからサインするんだ。納得いかない時は、双方が納得行く内容に落とし込んでから契約する。無理なら契約はしない。王都では常識だからね、覚えておくんだよ」


 リヒトの言葉は正論だ。自分は余りにも無知すぎた、と反省しショボンと項垂れるフィン。


「……すごく、勉強になります」

「そんな子猫みたいに落ち込まなくても……可愛いね、君は本当に」


 リヒトはフィンの頭をふわふわと撫でて愛おしそうに見つめる。


「まぁ、そもそも君は俺の許可なしで他の誰かと契約することは禁止。内緒でそんな事をしたらそうだね……契約相手を殺すしかな」

「あー!!だめですそんなの!!しません、勝手にしませんからっ!!」


 なんて極端な考えの人だろう、とフィンは焦った様子で首を横に振る。
 

「それならいいけど、ね」


 フィンは妖しく笑うリヒトの笑顔にゾクッと背筋を凍らせ、無言で頷いた。


「(本気だ……)」


「話を戻そうか。いい子な君に教えるけど、さっきの契約を破ったら、1週間毎日俺の好きな時間に100回連続でキスしてもらうことになってる」

「ひゃ、100回……き、キス?えぇ!?」


 契約内容を教えたリヒトは、可笑しそうに笑った。


「は、恥ずかしすぎませんかそれ……」


 契約内容のくだらなさに、フィンは愕然とする。しかし同時に、ある事に気付いた。


「もしかして、契約の危なさを教えるために、わざとどうでもいい契約をしたんですか……?」


 フィンはじっとリヒトを見つめる。


「……これからも色々教えてあげるよ、俺はこう見えて大魔法師だからね。学校なんて行かなくても、俺が教えてもいいくらいなんだけど」


 リヒトは明確に頷かなかったが、無知な自分を危険な目に合わせないように知恵を与えてくれているのだと気付き、小さくはにかんだ。


「ありがとうございます。でも学校は行きますからね!」


 フィンの笑顔で、心が穏やかになったリヒトは優しく笑みを返した。


「ああ。当然の権利だよ」


 リヒトは満足そうに笑みを浮かべる。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...