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契約のすすめ①
しおりを挟む「却下。シュヴァリエ家を何だと思ってるのかな?俺は恋人を働かせる気はない、フィン」
「お、お掃除とかでもいいので」
「そんなのは魔法人形で事足りるよ?」
リヒトは首を横に振り、フィンを働かせることに激しい抵抗を示した。
「後でなんでも言うこと聞くって言ってました……」
フィンは行為中のリヒトの言葉を引き合いに出し、おずおずとしながらも言い返す。リヒトは言ったことを忘れていたのか、しまった、と言いたげな表情をしていた
「っ……他のお願いじゃダメなのかな。バイト先で知らない輩が君に手を出さない保証はないんだ、考えるだけで気が狂う」
リヒトは困ったように頭を抱える。よほど側に置いておきたいのか、首を縦に振らない。
「だ、出されませんよ!僕は高貴な生まれじゃないし、こんな平凡だし……王都の方が僕を好きになるなんてよっぽど物好きです!!」
栗色のマッシュショートヘアーで片耳に髪をかけた姿。これがフィンとの最初の出会いだったが、大きな瞳で不安げに見つめられた時の、沸々と込み上げる支配欲を思い出すリヒト。
「君は自分が思っている以上に、うんっと可愛いよ?あとそれ、半分俺への悪口になってるけど」
「ご、ごめんなさい……あと、僕は本当に可愛くないです」
ほら、そうやって。すぐ照れた顔になり俯く。それが可愛いのに、本人は気付かない。
リヒトはフゥッと落ち着きを取り戻すように息を吐いて、フィンを見つめる。
「?」
庇護欲をそそるようなあどけなさに、魅了される者は必ずいる。
「ここにいれば、衣食住に不自由することは絶対にないのに、バイトをする理由はなんだい?」
「学校は週に3回なので、残りの4日間はバイトをしようと思ってたんです……何もせずにリヒトさ……リヒトから豊かさを享受するのは、少し抵抗があります」
そもそも王都に来てすぐ、こんな環境になるとは思いもしなかった。
だが、もし途中で飽きられて捨てられたら?そもそも、何故自分が大貴族から恋人だと宣言されているのか、未だに分からない。田舎から来た自分が物珍しいだけではないのか。
「…………」
そんな気持ちを察したのか、リヒトは「君を手放すことは一生ないよ」と低い声でフィンに伝えた。
「シュヴァリエ家の家訓は“裏切ること勿れ”。契約を重視する家柄だよ。君が望むなら、俺の愛を契約化していい。俺が君を裏切った時に俺が死ぬように設定し」
「わっ……わ、わかりました、リヒトの気持ちは分かったので、そんな怖い契約はいいです!(本気なのかな……!?)」
フィンは慌てて首を横に振り、リヒトの契約の提案を急いで却下する。
「残念。俺は命をかけて契約しても構わないくらい君が好きなのに」
リヒトは眉を下げ笑みを浮かべると、フィンをお姫様抱っこさで、そのままソファーに座らせる。
「自分が気を使わずに使えるお金が欲しい?」
「!」
フィンは強く頷き、真っ直ぐにリヒトを見上げた。
純粋な瞳がより一層輝きを増し、リヒトを捉える。キスしたくなる衝動を抑え、リヒトは少し笑みを浮かべて軽く頷いた。
「この家のお金を湯水のように使ったって、無くなりはしないのに。……だが、仕方ないな。王都に来てすぐ俺に縛られ経験出来たはずの事が出来ないのは、精神衛生上良くない気もする」
リヒトはフィンの手を取り手の甲に唇を落とす。
「籠の中に閉じ込めたいぐらいに好きだが、それで弱っていく君を見たくはないな」
リヒトは片膝をつき、愛おしそうにフィンを見つめると、意を決したように口を開く。
「週に一回5時間以内。それならいい。あと、バイト先は俺が決めたところ。あとは、絶対に守ると約束してこれにサインして欲しい」
「いいんですか!?」
「うん」
リヒトは指を鳴らし一枚の紙と一本のペンを取り出すと、フィンの前にあるテーブルにそれを置く。
「契約書、ですよね?」
「そう。君と俺の初めての契約だね」
フィンは内容を見る。内容は至ってシンプルだった。
-------------------------
①バイトは週に一度、5時間以内のシフト
②バイトはリヒト・シュヴァリエが斡旋した所のみ認める
-------------------------
ここまでする必要があるのか、とフィンは首を傾けるが、サインをしなければきっと今の話は無くなると思ったフィンは慌ててサインをした。
サインした後で、何やら下の方に古代語で色々と書かれているのを見て首を傾ける。
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